第六部 凶(わざわい) 第八章
「き、貴様っ! 道理で覚えのある技かっ! 」
初めて<凶>が呻く。
どうやら、あのビッグネーム渡辺綱とも戦った事があるらしい。
ふふんって感じで渡辺香織が笑った。
「えええ? 渡辺家の三姉妹の一人ぃぃ? 全然情報が無かったんだけどぉぉぉ! 」
間宮さんが動揺していた。
「ふっ、自衛隊情報保全隊妖特科三等陸曹渡辺香織っ! 参るっ! 」
まるで昔の一騎打ちのように渡辺香織が叫んだ。
「自衛隊の対妖用の情報部隊かっ! 道理で情報が無いはずっ! 」
間宮さんが呻く。
それにしても、16歳で三等陸曹って凄くねぇ?
「それよりも、言っちゃっていいの? 情報部でしょ」
俺がつい言ってしまう。
「ああああっ! 内緒にぃぃぃ! 内緒にしておいてぇぇぇぇぇぇ! 長い事、自分の身分を隠して控えてたから、つい言っちゃったっ! 」
などと構えながら、香織が叫ぶ。
まさかの小学生からの同級生がそんな背景を持っているとも思わず。
多分、爺さんの仕込みってこれだったんだろうけど。
まさかの自衛隊の情報部隊にルートを持っているとか……。
あの爺さん、やはり侮れない。
「ずるい」
彩が口を尖らせて呻く。
「何が? 」
「だって、渡辺綱の血筋とか反則じゃん」
「いや、お前。友人をボコボコにしておいて、言う事はそれかよ」
「だってぇぇぇ。身体を使えなくしたら、出てきたし」
などと信じられない発言をした。
怖いよ。
「まあ、あれだ……巴御前の薙刀があるんだし」
「まあ、そうだけど」
全然そうじゃない話をしているので、周りの公安さんはドン引き。
間宮さんも動揺しまくっていた。
それにしても、柔系統の技を使って腕を極めた上に抑え込んでいるのか、<凶>の動きに一歩も香織は引かなかった。
昔は一族で技を隠匿していて、それは他所の一族に流さなかったとか。
それで、その血統のものだけが、その技を使っていたとか聞いた事がある。
例えば大東流合気柔術は源義家の弟の源義光から甲斐武田家に伝えられた、そういう血統の技の流れである。
彼女もそういう武術にたけていると言う事だ。
戦いながら、<凶>が突然に俺を見た。
いや、俺の背後に立っている御方か?
いつの間にか、その戦いを妖の王であった<婆娑羅>様が腕を組んで見ていた。
「ああああ? 昔の<婆娑羅>様ならそのような女子のような男を推すことは無かった! いつの間に、そんな目暗になりなさった! 私の知る敬愛していた御方はかぐや姫が依り代にしているからと言って、そんな馬鹿な事はしなかった! 」
香織と戦いながら<凶>が叫ぶ。
ふぅと言う感じで<婆娑羅>様はため息をついた。
「こんな戦いだとしても、周りにだけ任せて! しかも、女子にケツを吹いてもらうようなゴミを選ぶとはっ! 武の妖の王はどこに行かれたのだっ! こんな軟弱男をっ! 」
あらんかぎりの罵詈雑言が俺に言われる。
まあ、武道なんて何もしてないしね。
そりゃ、そう言うわ。
「あちゃー、始まってしまったかっ! 」
などと保健室のドアを開けて律蔵爺さんが入って来た。
「爺さん」
「律蔵さん」
全員が唖然としてノコノコ現れた律蔵爺さんを見た。
「お主、遅いぞっ! このままでは先見にて見たようになる! 」
凛とした声が出た。
俺に重なる様にかぐや姫様が現れている。
「やれやれ、参りましたな」
爺さんが他人事みたいに呟いた。
「妖の世界に女子の神などぉぉぉ! 」
かぐや姫様を見て<凶>が絶叫した。
「お前も目暗か」
残念そうに<凶>を見て<婆娑羅>様が呟いた。
それで<凶>が逆上した。
「神の加護など! わしの血を振りまけばぁぁぁ! 」
そう叫ぶと<凶>が自分のかぎ爪で自分の全身を切り裂いて血を振りまいた。
それは香織だけでなく俺にもかかった。
「彩ちゃん、香織ちゃん! 逃げて! 」
爺さんが必死に囁いた。
それで俺の身体がドクンと脈動した。
身体が揺れる。
熱い。
かぐや姫様が弾かれるように外に出た。
「え? これは! まさか……そんな……かぐや姫様は依り代じゃない? まさか、封印? 」
などと間宮さんが呻いた。
だが、もう俺の意識が飛び始めた。
「おおおおおぉおおおおぉおおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」
俺が絶叫した。
「わしは武しか見ておらんよ」
<婆娑羅>様がぽつりと呟くのが聞こえた。
解放された俺の力で校舎や建物が破壊されていく中、俺の意識が飛んだ。




