第六部 凶(わざわい) 第四章
「いや、我が君は妖の王になられるのですよね」
などと間宮さんが凄い驚いた顔で話す。
「いや、大学くらいは出ておかないと」
「いりませんよ。そもそも妖の王ってだけで十二分じゃないですか? 」
「人間として考えるとそうなんで……」
「いや、妖でしょ? しかも早くも二代目の妖の王<婆娑羅>様の推しがあるし、かぐや姫様が依り代にしておられる。もう我が君は最有力候補ですよ? 」
「でも、駄目になる時はあるでしょ。普通に」
「受験で落ちるのと一緒だよね」
「あーあーあーあー。妖の王は、ほぼ国主と同じ立場なんですが? 」
「自治区でしょ? 」
「いやいや、妖が皆待っているんですよ? 」
「鬼が推している候補を入れて、まだ四人くらいいるんじゃなかったっけ? 」
「ははあ、間宮殿。我が君とか言っちゃってるし、政府にはもう彼しかいないとか、うちの神楽耶を推しまくって政府に言いきっちゃったのかな? 」
などと柴吉が苦笑した。
「そうですよ。うちの部長は神楽耶さん推しで、温厚で真面目で、しかもかぐや姫様の加護を持っているのに、等身大で自分を見れる。これは日本政府も推すべきですとか言いきっちゃってますよ」
「褒めちぎりでしたからね」
などと間宮さんと一緒にいる公安の背広を着た方々が苦笑している。
ぶっちゃけ、天狗さんだが……。
「あらららら、引くに引けなくなっちゃった訳か……」
柴吉があーあって顔をしている。
「いや、鬼の推す武闘派とか今の平和な時代に困るでしょう? 妖の王とか言いつつ、今の時代で武闘派は困るんですよ。なんだかんだ言っても妖の三分の一くらいは武闘派なんです。しかも異端の力を使うわけですから、そういう連中を武力で加速させない人物で、かぐや姫様の加護の武力を持つと言うのは大事なんですよ。政府としても、妖の王として妖達を抑えてくれる人が大事なんです」
間宮さんが熱く語る。
「でも、どちらかと言うと、自分はそういうのは向かないと思うんですけどね。そういう妖達を御する為に武力とかいるんだろうけど、俺は喧嘩をしたことは無いし」
「だから、良いんですよ。暴力をふるう妖の王とか最悪ですって……えええと……」
そこまで熱く間宮さんが語って黙り込んだ。
ああ、なるほど……と振り返ると俺の背後に二代目の妖の王<婆娑羅>様が立っている。
間宮さんを睨んでおられる。
それで間宮さんが黙って下向いちゃった。
それに合わせて近くの公安の人も黙って下を向いた。
どうやら、武力で全部抑えていた二代目の妖の王<婆娑羅>様に悪い事を言ったと思ったらしい。
「ふぅ……やれやれ……分かって無いのか……」
などとあきれ果てたように二代目の妖の王<婆娑羅>様がため息をついて消えた。
ちょっと気になったのは、柴吉がその言葉に別の意味でビクッとしていたからだ。
何かあるのかなと気になった。
俺が柴吉を見ると微妙に目を泳がせるし。
「じゃあ、今日は私も休みだね」
などと彩が平気で言う。
「いや、なんで? 」
「神楽耶を守るのが仕事だから」
などと屈託のないような笑顔で言われた。
これは、いけない。
マジでそうする気だ。
「すいません。行く方向でお願いします」
仕方ないので俺が間宮さんに頼み込んだ。
彩はこうと決めたら曲げない。
そうでないと、俺に妖の王の候補から降りさせるために、二代目の妖の王<婆娑羅>様の指を折って、俺の塞いだ口を喋れるようにしたりしない。
「ええええええ? 我々だと身体に入られたとしても分かりますし、対応できますが……。人間はちょっと難しいと思いますよ? 人間がたくさんいると、こちらも大変ですし。出来たら、家にいてくださる方が対策をしやすいのですが……」
間宮さんが困り果てたように話す。
「でも、暗殺者と言うなら何日も何日も待ちますよね。下手したら一か月単位になるのではと……。そうなると彩が同じように学校を休むと思うんで……」
そう俺が説明すると、彩が我が意を得たりって感じで休む気満々だった。
いや、だから困るのに。
「困ったな。律蔵さんはまだ帰ってこないのかな? 」
などと間宮さんが他の公安の方々に聞いた。
多分、祖父はこないだの件で身を隠したので、普通のやり方では見つからないと思う。
そう思っていたのだけど、それは間違ってなかったようだ。
専門の公安の方々まで一斉に首を振るのだから。
祖父は身を隠すとなったら、とことん隠れるから、そういう意味でタチが悪いのは間違いないんだなと思った。




