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第六部 凶(わざわい) 第二章

 だが、それから時代が変わってきた。


 戦は個の武の戦いではなくなってきたのだ。


 そう、集団戦の時代になった。


 それでも戦国の世であれば<(わざわい)>は暗殺によって局面を変えうる存在と威張れた。


 彼は自ら人間の中に入り込み、それを操れる。


 そして、その異端の力をより洗練させつつあった。


 元々、あの時代でも小柄で気配を感じ取れず。


 妖ですら気配に気が付かないほどの存在。


 彼はそれを誇りにしていた。


 それなのに……それなのにだ。


 あの武張った妖の王の<婆娑羅(ばさら)>様が亡くなられた。


 まだ若いのに亡くなられた。


 たった500年しか生きておられないのに。


 恐らくは戦いの中で生きる事と妖の城を守るために心をすり減らしたせいだろう。


 それで<(わざわい)>の尊敬し敬愛しておられた方が居なくなった。


 次の代の妖の王など知らぬ。


 彼にとっては妖の王とは<婆娑羅(ばさら)>様のみ。


 それゆえ、彼は次の代の妖の王と距離を置いた。


 時代も悪かった。


 戦の世が変わり始めたのだ。


 戦争が無くなっていき、徳川の世に変わった。


 老中などによる集団的指導体制の下で彼の暗殺の技はあまり評価されなくなった。


 今まで自分を蔑んでいた者を自分の暗殺の技で黙らせてきた、だが、それはもはやできなくなった。


 自分の誇りある暗殺の技がいらなくなってしまったのを<(わざわい)>は認める事が出来ない。


 三代目の妖の王に自らの暗殺の技を売り込みに行ったが、今はそんな時代では無いと取り繕う事も無く断られた。


 そのショックは<(わざわい)>にとって計り知れないものであった。


 彼の存在価値すら揺らいでしまう。


 それで、その言葉を恨むようにして、彼は妖の自分と言う存在を消さないようにした。


 それしかなかった。


 それで他の鬼達と疎遠になって言った。


「お前が凄い事は変わらぬ。わしはお前を認めている。だから、これまで通り、鬼の会合にも来ると良い」


 そんな感じで<ひとつ>は<(わざわい)>に声をかけたりした。


「我の主は<婆娑羅(ばさら)>様のみぞ。他の妖の王など興味は無い」


「それはわしらの妖の王に対する侮辱になるぞ! 」


 今まで温厚だった<ひとつ>が獰猛に吠えた。


「どうなろうと構わぬ」


 そう捻くれた様に言い捨てると<(わざわい)>は姿を消した。


 だが、三代目の妖の王が伏したと噂が流れて、20年ほど大日本帝国となった日本を支える妖の王が寿命で動けない時代になった。


 そのせいで三代目の妖の王は、大日本帝国をアメリカとの戦争に突入させないはずだったのに目論見が狂った。


 それもまた、三代目妖の王の弱体化した事と次の妖の王になるべき血筋が絶えてしまったせいだと妖の間では言われた。


 そして、その太平洋戦争末期に、大日本帝国の首脳は苦し紛れにある事を考える。


 祈祷によって敵のルーズベルト大統領を殺すのである。


 その話が妖の間に伝わった。


 つまりは暗殺である。


 それで、自分が敬愛しているわけでもない三代目の妖の王が病で臥せっている所に、気配を消して彼が現れた。

 

 ずっとずっと隠れて暮らしていた<(わざわい)>が……である。


「……お前は? 」


 病気で臥せっているにも関わらず、気丈な声で三代目の妖の王が聞く。


「二度目でございますな。<(わざわい)>にございます。此度、ルーズベルト大統領を政府が祈祷で暗殺すると聞きました。我の力が役に立つと思いまして」


 それは暗殺を否定されていた彼の渾身の一撃。


 三代目の妖の王を恨む事によって生き延びていた、彼の意地。


「無駄な事を……。もはや、流れは変わらぬよ」


 そう三代目の妖の王はそう答えた。


「では、我の技をとくと見られい! 」


 彼はそう言い捨てると姿を消した。


 彼は信じていた。


 この暗殺であの三代目の妖の王の間違いを糺す事が出来る。


 暗殺はこの国を勝たせて、情勢を変えるのだと。


 そうして、彼は慣れない外国人に溶け込むことで、ルーズベルトを暗殺する為にアメリカに渡った。

 

 そして、彼は別荘で肖像画の製作中であったルーズベルト大統領の中に入り、彼の脳を破壊した。


 彼は幾多の試練を乗り越えて暗殺に成功したのだ。


 しかし、現実は変わらなかった。

 

 三代目の妖の王に言われた通り、流れは変わらず、結局、大日本帝国は敗北で終わった。


 集団的指導体制の上にさらに政治すら分業をする時代では、もはやトップを暗殺しただけでは何も変わらないのだ。


 彼は日本に帰っても、三代目の妖の王には会いに行かなかった。

 

 行けなかったのだ。


 全てのプライドを破壊された彼に残ったのは怨念。


 世の中を恨んだ。


 そして、長い長い間憎悪する中である事を知る。


 二代目の妖の王<婆娑羅(ばさら)>様が推している候補がいると言う事を。


 しかも、かぐや姫の依り代にしており、とてもその妖の王の候補が武と言うものを考えているようでは無い事も知ってしまった。


 彼の憎悪は武も知らぬものを推す、自分が敬愛していたかっての妖の王の<婆娑羅(ばさら)>様とその候補に向いた。


 その候補が我程度に殺されるのなら、妖の王などいない方が良いと言う逆恨みとともに。


  



 


 

一応基本は1日1回の午後五時投稿なんですが、今後は週に1回から2回かは2回投稿の日をつくります



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