第六部 凶(わざわい) 第一章
「流石じゃの。鎌倉殿をあっさりと始末しただけはある」
などと傾奇めいた着物を着て、ざっくばらんに刀をさした漢が笑う。
二代目の妖の王の<婆娑羅>である。
「いえ、我の仕事なれば……暗殺などであれば我にお任せくだされ。我はこれを生きる術にしておりますれば……」
などと<凶>が静かに跪いたままだ。
<凶>は身長120センチ以下の当時でも小柄で他の鬼のように巨躯をしているわけではない。
だが、その小柄な身体ゆえにあまり目立たない鬼ではあったが、それゆえに存在が希薄であった。
そして、それだけでなく、鬼としての妖の能力として相手の身体の中に潜れる力を持っていた。
それゆえ、存在が希薄であるから、人間の中を渡り歩いて、相手を操ったり、そして、その力を持って相手を体内から殺したり、その身体を使って他の人間を殺したり、ある意味、鬼の中でも異端の様な特殊な力を持っていた。
「いや、謙遜するでない。敵の大将を倒せば戦は終わる。人間の身体の中に潜れるお主だけが出来る事ぞ。もう少しお主は自慢しても良いぞ。おかげで随分と厄介な話が片が付いた」
「ははっ! 」
<婆娑羅>の褒めた言葉で<凶>が嬉しそうに笑った。
それで、妖の王の<婆娑羅>様の前から跪いて一礼すると退いた。
妖の王の<婆娑羅>様の周りは強者の妖が多く、そういう場合にありがちな堂々とした体躯をしていた。
それゆえ、あまり小さすぎる<凶>にとっては居心地は良くなかった。
だから、<凶>は気配を消して退く。
静かに退くだけなのだが気配を消しているので、妖ですらも<凶>が横を通ったと思わぬものがいるほどだ。
「おい、チビ。たいしたものだな」
たが、鬼達の集まっている場所に戻る途中で全身が赤い傷だらけの鬼とすれ違った途端に、その全身が赤い傷だらけの鬼だけが気が付いて<凶>を笑って褒めた。
「ちっ、<赤錆>かっ! 」
「一応、わしのが年上じゃ。ちっとは目上に対して礼儀くらい見せろや! 」
<赤錆>が気配を消したはずの自分に気がつかれて舌打ちする<凶>に苦笑した。
ある意味190センチ近い<赤錆>からすると<凶>は体躯からしても子供みたいなものだ。
鬼はある意味、強さの信奉者である。
だから、それ故に<凶>はその強さで評価されていた。
それだからこそ鬼の中で強者である<赤錆>にも冗談を言い合える程度には評価されていた。
ただ、鬼は堂々たる戦いで勝つ事を誉としている。
それ故に大半の鬼は<赤錆>のように<凶>を評価している者ばかりではない。
「ちっ、またしても、人間の身体を渡りながらのだまし討ちかよ」
などと年嵩の<赤錆>と対等に話し合う<凶>を見て舌打ちする鬼も多くいた。
「よさんか! こやつは自分の力を最大限使って、妖の王殿の御期待に応えておるのだ。我らの仕事は妖の王に尽くすことである。それを貶すことは妖の王に対する侮辱にもなろうがっ! 」
それを見ていた<ひとつ>が一喝した。
それは轟音のようにあたりに響いた。
彼もまた、妖の王の直属の側近である鬼の王たる存在に仕えるものである。
鬼達の王たる資格を持ちながら、分を弁えてと言う事で、常に鬼の王たるものに仕える姿は鬼達ですら尊敬されていた。
それゆえ、鬼達が黙る。
それでのっそりと<凶>の前に来た。
もはや、大きさは大人と子供の差ではない。
<ひとつ>は二メートルをはるかに超える身長である。
「我らの仕事は、妖の王殿に命じられた事を達成して、鬼の面目を保つことだ。<凶>は暗殺を手掛けた事で、今回の妖の争いの背後にいる人間を始末したのだ。<凶>が妖の王殿に認められて褒められている事は鬼族の誉ぞ! 」
<ひとつ>の叫び声で轟音のように鬼達が喝采を叫ぶ。
それは<凶>にとって誇りある時代だった。
あの妖の王の<婆娑羅>様に認められて、<ひとつ>にも認められて、小柄過ぎて軽蔑していた鬼達も鬼族の誉として<凶>を褒めざるを得ない時代。
彼は輝く栄光の中にいるように思っていた。
そして、それは人間にしろ妖にしろ、個の武こそが全ての時代だった。
たとえ、人間の中に入って、それを利用しての暗殺だとしても、それは彼のそのものの個の武なのである。
敵の大将を討つことで一気に情勢を変える事。
それは<凶>と呼ばれる彼にとっても大切な誇りある仕事だった。
回想なんで、今日だけ二度投稿します
題も変更したので、その意味もあります
すいません




