第五部 願い 第五章
妖のおじさんが何度も何度も嬉しそうに泣きながら頭を下げて、ここから去っていく。
「お約束ですぞ。必ず、妖の王になられたら、参りますので。この私の寄付を受け取ってくだされ」
何度も何度も嬉しそうに確認して泣きながら頭を下げて、去っていく。
「約束しちゃったね」
「いや、かぐや姫様がはっきりとでは無いけど、それは受け取りなさいとおっしゃったような気がしたんだ。気のせいかも知れないけど。だけど、まだ妖の王の候補なだけだし……。それで、ああ言ったのだけど」
「それで良かった。恐らく、我が君が通帳を受け取らなかったら、彼は消えていた。存在を否定されたとして……」
「あーあ、やっぱり。そんな気はしてたんだ。妖の城の復活だけを夢見て生きてたんだもんね。多分、存在すると言う為の行為があの貯金なんだ。コツコツと貯めて、通帳を見る事で自分が存在していると思っているんじゃないかと思った。だから、それを受け取らないと言ったら自分の存在価値を否定されたとして消えてしまうんじゃないかと思ったんだ」
「おおおお! 大したものだ! そこまで読んでおったとは! わしが必死に育てた甲斐があった! 」
などと柴吉が感無量になって叫ぶ。
「いゃ、育ててもらったっけ? 」
などと疑問を呈したら、柴吉が倒れて、しゅーって煙が出ている。
「消えている! 消えている! 」
「育てた! 俺を育てたからっ! 」
彩が慌てて叫ぶから、俺が慌てて肯定した。
なんという妖の存在の為の認知が怖い。
俺に否定されたら消えるとか。
ふざけんなよ、やばすぎるだろ。
「まあ、じい役ですからね。柴吉殿は。いろいろと難しいのですよ。妖と言うものは。我が君」
「我が君って止めてくれます? 」
「私も消えますよ? 」
「勘弁してよぉぉ」
どんな脅しだよ。
「それにしても、柴垣さんはどうすんの? 」
「多分、じいさんが選んだだけあって、穏健派なんだろうけど……。どうしょうかねぇ」
彩の言葉に俺が頭を悩ませる。
何気に考える時間も無く立て続けだ。
一斉にいろいろと動き出したような気がする。
「あんまり、争うとか好きじゃ無いんだけどな」
俺がうんざりして呟いた。
「あの……庭の木の大きな傷の話は律蔵さんから詳しく聞いてないのですか? 」
などと突然に間宮さんが驚いたように聞いてきた。
その迫力に驚く。
「ええ? ここは鬼に目をつけられていて争っている家ってマーキングの跡って言われたんだけど……」
「それだけですか? 」
「何かあるんですか? 」
「あれは昔に<ひとつ>がいる鬼のグループの中にいた暗殺専門の鬼<凶>による俺がこいつを……この妖の王の候補を殺すって合図なんですが? 彼は今はやり過ぎで<ひとつ>がいる鬼のグループから外れてまして、彼はこの世に対する怨恨もあり、やり過ぎる可能性が高くて政府も警戒しているのですが……」
「はああああああ? 」
「あれ? ちゃんと律蔵さんには全部を連絡したよな? 」
などと間宮さんが焦ったように、横の背広の公安の天狗さんに話しかけた。
「ええ、ちゃんと連絡しているはずですが……」
「……なんか仕掛けがあるのかな? 」
それで柴吉に聞いた。
どうも、うちの爺さんはいろいろとやってそうだしな。
「いや、我が君の命が危ないんですけど? 」
「暗殺とかは駄目なんでしょ? 妖の王の候補は……」
俺は殺すと言う脅しだと思っているが……。
「その通りですが、意外と、そう言うのを無視して暴走する奴で……」
「<ひとつ>さんが許さないでしょ」
「すでに距離を置いてますし、<ひとつ>さんでもコントロール出来てないと我々は見てますが……昔からそういう意味でやばい奴で……。ええ? 律蔵さん、困るなぁぁぁ! 我が君が大変な事になるのに……」
「間宮さんが守ればいいんじゃないですか? 」
などと彩が率直に言ってしまう。
「いや、そのつもりではあるんですが……」
「私ももしもの時は薙刀で戦いますし」
「いや、まだ習ってないじゃん」
「でも型は教えてもらったし」
「強い奴には基礎だけで勝てる訳ないでしょうが……」
俺が彩を止める。
どちらかと言うと、彩の方が不安だったり。
何しろ、候補は本来は殺したらいけないらしいから、単なる脅しで候補から降りさせようとしているんだと思う。
だから、どんな妖でも殺すまでは行かないと思うし、かぐや姫様の加護もある。
まあ、半身不随はあるかもしれないけど。
それよりも、どちらかと言うと、彩の方は殺して良いだけに怖い。
「まあ、一緒にこちらの家で公安の方に守ってもらえば良い。わしも様子は見ておくし」
などと柴吉が俺の気持ちを察して彩を見て話す。
どうやら、公安の保護があれば大丈夫と見ているらしい。
何しろ天狗さんだもんな。
そもそも、爺さんもそう考えているから、こんな風にしたんだろうし。
「と言う事でよろしくお願いいたします」
そう俺が間宮さんに頭を下げた。
我が君とか言っているから、守ってくれるだろう。
「やれやれ。仕方ありませんな。我が君」
などと間宮さんが頭をがりがりと掻いた。




