第五部 願い 第四章
「どうするの? 」
「こちらから保護を頼んだ以上、会うしか無いよね」
仕方ないので、俺が玄関から顔を出した。
すでに、かぐや姫様の目で見ると、厄介な連中はいなくさせられていた。
公安の人達が介入してくれたらしい。
天狗さんだし、恐らく妖の中でも強者なのだろう。
それでちょうど、こちらに連絡しようとした間宮さんがスマホを手にしているところだった。
「おやおや、家の外の御様子をかぐや姫様がすでにお見せしておられたのですな? 」
などと俺に間宮さんが笑った。
公安の背広を着た人達が天狗だと分かったのは、その姿に天狗が透けて見えたからだ。
多分、本当の姿をかぐや姫様が見せてくださっていると言う事だと思う。
「天狗さんなんですね。間宮さんも。こちらの皆さんも」
そう俺が話すと、全員が驚く。
「なるほどなるほど、全部かぐや姫様を通してお見通しと言う事ですか、我が君」
「それ、止めてくれます? 」
「いやいや、私は貴方推しですから」
などと間宮さんが笑った。
「で、この御方は? 」
俺が聞いた。
「貴方様が妖の王になられる神楽耶様ですか? 」
などと座り込んだ妖らしいおじさんが涙を流し出す。
「いや、まだ候補です」
「かぐや姫様の光が見える」
そう言っておじさんが泣く。
「いや、なんなんです? どこかの派閥の人じゃないですよね……」
俺が少し困ったように話す。
「いえいえ、我が君に妖の本音の姿を見てもらおうと思いまして。普通の妖はどう思っているかをですね。わかっていただきたい。貴方は御自分を人間だと思っていらっしゃった御方だ。こういう時でないと普通の妖の妖の王に対する気持ちは分からないと思いまして……」
間宮さんがほほ笑んだ。
相変わらず、えげつなさも感じるなぁ。
教えてくれていると言いながら追い込んでいる。
実際、おじさんの話を聞かざるを得ない。
「私は200年程度生きている妖でございます。妖にしたら古き者でもなく新しいものになります。特に妖としての名前がある訳でもありません。闇から産まれるのが妖でありますれば、私のように妖異が人の姿を取っただけのものもおります。明治維新の時に嫁と結婚して、それからは妖の仲間の手助けで一人で生きてきました。子供には妖であることは話していませんでしたから、長生きしすぎてもおかしく思われると思い、子供が所帯を持った後に姿を消しました」
「え? 」
それで少し驚く。
「妖と言うのは、自分が妖と喋るものもいれば、そうでないものも多いのです」
「その場合は、家族がなかなか自分が年を取らぬ為に訝しむと行かないので、それがバレないうちに家族と別れを告げて失踪する者も多いんじゃ」
「それだと、家族が覚えてくれないので、存在の認知がされないのでは? 」
などと俺が不思議に思って聞いた。
「陰から分からないように隠れて家族の安否を見たりしてる場合もある。家族の存在が認知となる事もある」
柴吉がそう教えてくれる。
「私は……私にとっては妖の城こそ、存在の認知の方法でした。それの復活だけを願って生きてまいりました。ですので、新たなる妖の王が選ばれる流れが100年を超えてやっと来たのが嬉しくて嬉しくて……」
そう涙をさらに溢れさせた。
それで俺が困る。
俺はまだ妖の王の候補でしかない。
「済まないのだけど、俺はまだ妖の王の候補でしかないので。自分にとって妖の王と言うのは手に余ると思っています。だから、本音はもっとちゃんとした人物……いや……妖にやってもらいたいと思っているのですが……」
そう済まなさそうに俺が話す。
「それで良いのです。先代の妖の王も常に先々代や初代の妖の王と比べて自分はと口癖のようにおっしゃっていたそうです。自分に自信があり過ぎるものは得てして自分の強さに頼るもの。かぐや姫様の加護を得て居ながら、そうやって御自分を等身大で見れることは素晴らしい事なのです」
いや、やりたくないだけなんですけどぉ。
と思いつつ、この空気でそれを言うのも難しいので黙るしかない。
保護を頼んで、公安の人まで呼んでいるのに、「妖の王になんてなりたくないよぉぉお! 」とか騒いでゴロゴロと転がりたい。
でも流石に出来ないや。
「これを……お使いください」
などと言って、自分の懐から幾冊かの銀行の通帳を渡してきた。
「いや、それはいけない! 」
「良いのです。私の寿命はまだありますし、妖の城の復活に使ってもらえるなら、これほど嬉しい事はありません……」
通帳を開くと、びっしりと少しずつ身を削るようにして貯金をしていたのが分かる。
「こ、これは……受け……」
そう、受け取れませんと言いそうになって、本当に妖のおじさんが泣きそうな縋るような目で俺を見ているのが分かる。
そこから、さっきまでは喜びで、今度のは間違いなく失望を感じられた。
自分が相手にされてないと思ったのかもしれない。
それが一瞬で察する事が出来た。
これは本人にとって、ひょっとしたら妖として認知されるかと言うほどの問題なのかもしれないと思った。
なんとなく、かぐや姫様がそう教えてくださっているように感じた。
「……私が妖の王に選ばれたら、持ってきてください。その時に受け取ります」
それで思わず、言ってしまった。
あちゃーと思ったが、仕方ない。
横で彩があーあって顔をしていた。
だが、どうやら、それが最適解だったらしい。
妖のおじさんが通帳を大事に仕舞うと凄く嬉しそうに泣きながら笑った。




