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第五部 願い 第一章

 本気でしばらくは帰ってこない気だろうなと真っ暗な家の居間で思う。


 電気をつけて、ご飯が置いてある居間のテーブルの椅子に座った。


 多分、俺が逃げて帰ってくるだろう事は読んでいたらしい。


 結構なご馳走が並んでいる。


 俺の好物の祖母が作る唐揚げやオムレツなどが並んでいる。


 電子レンジで温めたらすぐ食べれるように全部が丁寧にラップに包まれていた。


 だし巻き卵や塩鮭と豚の生姜焼きなどもある。


 量が多いから、多分、彩も食べて行ったらいいと言う考えだろう。


 自分の策がバレて、俺が急いで帰ってくるまでは完全に読んでいたと言う事か……。


「当分、帰ってこないだろうな。そうでないと、この後の朝食とかは彩の家で出してもらえると言う話は置手紙に書いてないはずだ」


「多分、そうだよね。どうする? もしなんだったら、今夜はうちに泊まる? 」


 実を言うと、こういう事はたまにあった。


 ほぼ年金生活者なのに急な仕事が入ったとして、祖母もついて出かけると言う日があった。


 それで、そういう時は家族付き合いがある如月家に厄介になっていたので、今回が初めてと言う事ではない。


 本気で、中学生の時は彩の家と泊まりあったりってのは普通にあった。


 高校生にもなって、結局、そうなるのかと思うとため息をつく。


 いやいや、男なんだけどなぁ、俺。


 恐らく、如月家が俺の事や祖父母の事など全部知ってたのは間違いない。


 彩の父の隆史さんは父の親友だったらしいし。


「うーん。泊まるにしても、とりあえず、テーブルの上に彩のぶんもご飯があるから食べる? 」


 俺がそう彩に話す。


 柴吉はすでに勝手に床にある自分の皿の煮物を食べていた。


 それを二人でじっと見た。


「そういえば、柴吉はドッグフードは食べなかったよね。それでいつもちゃんと料理した食べ物だった」


 などと彩が呟く。


 多分、狼の誇りがドックフードなどってあったのかもしれない。


「ご馳走じゃなくてごめんね」


 などと俺が柴吉に嫌味を言った。


 祖父の思惑通りなら、柴垣家で御馳走を皆で食べていたはずだからだ。


 妖しか集まらないはずだから、柴吉は本来の狼の姿で、しかも、あの雰囲気だと大切にされて美味しいご馳走を食べれたはずだ。


 今更だが、柴垣家の人々から廊下を歩くときも柴吉に敬意を感じられたからだ。


「お爺さんらしいやり方だよね。ああやって事実を積み重ねていくつもりだったんだろう」


「多分……平和的にやりたかったんだろう……」


 彩の呆れ声に柴吉が呟いた。


「平和的? 嵌めこんで俺に妖の王の傘下を作らせて、逃げれないようにするって事がか? 」


 俺が呆れたように話す。


 全然、平和的に見えないし。


「俺は妖の王になる気はないと言うのに」


「頭を停止させるな。よく考えろ。自分は特別な存在だと言う事は分かっているんだろう。いきなり弱者の戦術の集団的自衛権まで話す、お前ならどういう事か分かるはずだ。お前は律蔵が褒めるだけあって頭は回るはずだ。そうでないと、律蔵の仕掛けは気が付かないはずだし」


 柴吉が意外と真剣な顔で俺を見た。


「よく考えろって……」


 などと考え込む。


 如月彩がそれを少し心配そうに見ていた。


「……確かに、柴垣市長も逃げれないと断言はしていたな……。妖の王の候補から……」


「妖の王の候補として<婆娑羅(ばさら)>様がすでに推しておられるのだ。これは極めて異例だ。妖の王の血筋から次の存在が選ばれるときに亡くなられた先代からの推しが必要なのだ。そうやって、三代にわたって続いた妖の王の御霊のお一人が、お前が覚醒した途端についておられる。妖の王の直系だとしても<婆娑羅(ばさら)>さまの時ですら、すぐには推しは入らなかった。そしてかぐや姫の依り代でもある。お前はそれをどう思う」


「同じ状況で考えたら、確かに、そうかもしれないけどさ……つまり、俺が現れるのを待っている奴が一杯いると言う事か? 」


「分かるか? それは彼らの願いなのだ。ずっとずっと待ち続けていた妖達の希望と言う事だ」


「……待って……平和的にって……言ったよね……」


「言った……」


「つまり、俺を妖の王にする為なら、何でもすると言う奴らがかなりいると言う事か? もし、なんだったら、自分のグループで囲ってミケみたいに美味しい所を得たいと言う奴らが? ええええ? 」


「……ミケは調子がいいだけだがな……」


「そうか、平和的って、そういう意味か……」


「どういう意味なの? 」


 彩が心配そうに聞いてきた。


「派閥が4つくらいあると言ったろ? 鬼は別の候補がいるが……。候補を囲っていない連中からしたら、自分達の繁栄のチャンスなんだ。その妖の王の候補を囲う事が……。恐らく、爺さんが平和的って言うって事は……一番穏健な派閥なんだ。あの柴垣家のグループが……」


「ピンポーン」


 柴吉がそう呼び鈴みたいに返したらから、彩がブチ切れて柴吉の頬を引っ張った。


 柴吉もある意味神様なのに……。




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