第四部 淡雪 第七章
全部が幻想の中で終わった。
妖って死ぬと肉体も残らずに消えるんだ。
その衝撃も凄いが、柴垣家からの感謝の嵐が凄かった。
龍二さんも龍三さんも大輔さんも誠も泣きながら感謝していた。
俺、何もしてないけど。
まあ、かぐや呼びでなくてかぐや姫様って騒いでいるから、俺ではないかぐや姫様に言っているんだろうけど。
「凄いね。妖ってあんな風に亡くなるんだね」
などと如月彩が感心していた。
ちょっと複雑であんな風に俺も亡くなるんだろうか。
もう、何が何だか。
「これは内緒でお願いいたしますぞ」
などと柴吉は必死に念を押していた。
柴吉にしたら、俺への評価が上がるだろうから、妖の皆に喋って欲しいのかと思ったら、敵がこれ以上増えたらまずいからと言う、ごく当然の話を警戒していた。
それにしても、かぐや姫様って神様なんだなと思った。
凄すぎる。
「我ら柴垣一族と妖の仲間は皆、神楽耶様を推させていただきます! 」
「ありがとう、神楽耶! 」
などと皆で土下座されて感謝された。
いやいや、妖の王の後継者候補にはならないって話を言っているのに……。
みんな聞いちゃいねぇや。
そして、これではっきり分かった。
爺さんは妖の王に俺をする気だ。
着々と周りを固めて行っている。
鬼が出てきたら、それに対抗する派閥を配下になるようにして……。
「ふふふふふふふふ、そうか、爺さんは敵か……」
などと感謝しながら涙を流す柴垣家の面々の前で呟く。
「おいおいおいおいおい」
柴吉が横から止めてきた。
「お前も敵だな。くそぅ」
怒りが止まらない。
「大丈夫です。この話は表には出しませんから」
などと龍二さんがおっしゃるが、それとこれとは話が別である。
「私も守るから」
「そんな話はしていない」
薙刀を貰ってから、様子がおかしい如月彩に突っ込んだ。
いやいや、全部が全部そっちに行くか。
怒りのあまりに震えが止まらない。
とりあえず、柴垣家の歓待はお断りした。
御馳走を用意してあるようだ。
だが、目立ってはいけないからと理由を話してお断りさせて貰った。
このまま行くと妖の互助団体の妖の面子も来そうだからだ。
というか、そこまで罠を仕込んでいるんじゃないかと思った。
それでひたすら、今回の事は内緒でと言いながら、柴垣家のでかい門を慌てて出た。
嫌な予感もしたからだ。
ここまで嵌めたなら、うちの爺さんなら徹底的に次の部分まで手配しているだろう。
「どうして、そんなに急ぐの? 」
「多分、他の妖も柴垣家の接待に集まってくるから」
俺が彩の言葉に答える。
すでに、柴吉の目が泳いでいた。
何があるか丸わかりである。
「そんな事は……あるよね。おじいさんがする事だもんね」
などと彩がぱたりと意見を変える。
用意周到な爺さんである。
絶対に嵌め込みモードに入っていると見た。
一気に走って、俺が柴垣家の屋敷から逃げるのを抵抗する柴吉を引きずりながら、小道を通って柴垣家を離れた。
彩も家族付き合いをしているだけあって、祖父の行動を知っているから、一緒に柴吉をひっぱってくれた。
柴吉も最初は抵抗していたが、彩がリードを引くのを手伝ったのであきらめたようだ。
そして、ようやっと家の近所に来て一息つく。
そして、はめ込みだった証拠が目の前に現れる。
「あれ? 柴垣家で妖が集まってパーティーじゃなかったのか? 」
などと、自分が危険だから逃げた馬鹿化け猫が目の前にいた。
「やっぱりな」
俺は答え合わせが済んだように呟いた。
恐らく、家に帰っても、すでに柴垣家から連絡が行っていて、用事が出来たとか言って祖父母は出かけているはず。
もはや、暗くなりだして、夜なのに何の用事なのかと思うが、都合が悪くなると逃げるとこは多分変わっていないだろう。
「お前、こないだは逃げておいて、それでパーティーには参加するのか」
彩が覇王如月の仁王立ちで、ミケを睨む。
「突然、用事が出来たにゃん。あれは申し訳なかったけど仕方なかったにゃん」
などとミケが可愛らしい仕草を始めて謝りだした。
はい、こいつもグル決定。
祖父母そっくりの対応だ。
こいつ、実は俺の側近としているんだろう。
「そうか、かぐや姫の加護を呼ぶために、あの日はわざと<ひとつ>に会わせたのか……」
俺がそう呟くと、ミケは驚いたような感じで毛を逆立たせた。
そして、柴吉はもっと目が泳いだ。
「俺が逃げられないようにする為に。流石だ爺さん。やってくれたな。おかげで、ますます俺の怪しげな美貌が広がったよ」
人は怒りが頂点に来ると笑うって本当なんだ。
それから家に帰ると晩御飯がテーブルの上にあって、用事があってしばらく帰れないから、如月家でこれ以降のご飯は貰ってと書いてあった。
くそぅ、やはりな。
祖父母の逃げ足だけは相変わらず早い。




