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第三部 かぐや姫 第四章

「つ、月に帰ったんじゃなかったんだ……」


 彩が驚いている。


「中世ではかぐや姫が帰るのは月と富士山とがある。どちらかと言うと富士山かの? だから、富士山周辺では富士山こそかぐや姫と言う伝承もある」


 柴吉がペラペラしゃべる。


「お前、そういう大事なことをっ! 」


 柴吉の頬をいつものように如月彩が引っ張ろうとするが、フェンリルみたいな姿になっているので、頬が伸びない。


 というか、あんな巨大な白銀の狼になった柴吉の頬を同じように出来るとか、流石は彩である。


 普通は無理だ。


 俺を守ろうとして敵意を丸出しにしているから、いつもの柴吉のような雰囲気は全くないのに。


「ふむ。これは皆に良い土産話が出来たな、かぐや姫の依り代となり、あの強者であった妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>殿の推しを受けている候補者がおるとは……」


「お帰りになられるので? 」


 いきなり黙っていた祖父の竹内律蔵が口を開いた。


「ああ、帰ろう。今日は良き日であった。この科学などと馬鹿なものを有難がる世界で、まだ、お主ほどの呪者がいるとはな。大したものぞ。それと、我らの神とも崇める妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>殿の指を折るほどの娘がいるとは。まるで巴御前が戻ってきたようなものだ」


 などと<ひとつ>がまるで巴御前と面識があるような感じで話す。


「え? まあ……」


 如月彩がまんざらでもない顔をした。

 

 尊敬する人が巴御前だからな。


 余計にそう言われてうれしくて、恥じらいっぽく顔を染めて喜んでいる。


「いや、妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>様の指を二本もへし折っている事を恥じらうべきだと思うがの」


 などと柴吉が詰問調で話すが、彩は聞いてない。


 それで、祖父の竹内律蔵はともかく、祖母の竹内柚の方はほっとした顔をしていた。


 いや、待て。


 いつの間にか、俺が妖の王の候補になる話になっている。


 これはいけない。


「待って欲しい。俺は妖の王には興味がない。断らさせて欲しい」


 そう俺がきっとなって話したら、<ひとつ>と<赤錆>が爆笑した。


「何を言うか! かぐや姫様を依り代にして生きてきたのだ! もはや、お前は引く事など出来んぞ! この世のものとして存在するものではなくなっているしの! 」


「<ひとつ>殿のおっしゃる通りだ! あの妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>様の推しも得ている! これは身震いするほどの戦いが待っておるわ! 」


「戦った事は無いのですが……」


「わはははははははははははははは! 」


「すぐ慣れるわ! 」


 俺が必死に呟いた言葉に<ひとつ>と<赤錆(あかさび)>に爆笑された。


 こんな事で戦いに巻き込まれるとは……。


 俺がマジで動揺する。


「それにしても、よくぞ、かぐや姫様がこやつを依り代としてくれたな? 」


「ふふ、まだ産まれたばかりの赤子の時に、異界から庭にある大きな竹の中にそのまま入れて貰って、そこから竹を切って孫の神楽耶を取り出して受け取りましたゆえ」


「そういえば、名前も神楽耶と言うのか! おおおおおおおお、そこまですればかぐや姫様もお喜びであろう! なるほどなるほど、竹から産まれたようにしたのだな! 」


「は? 」


 あまりの祖父律蔵の話を聞いて、俺が柴吉を唖然としてみた。


 彩も見ている。


 初めて知る、自分の産まれ方。

 

「た、竹から……産まれたって……産まれたばかりの赤子を……竹に……? 」


 俺があまりの事に動揺していた。


 まさか、本当にそこまでやるとか。


「ふふふふ、そこまでしてまで孫を守りたかったのか? 」


「いや、趣味ですゆえ」


「ふははははははははははははははははは! 」


 祖父の言葉に<ひとつ>も<赤錆(あかさび)>もバカ受け。


 いや、これは無いやろ。


 虐待やん。


 そう思いつつ、誰も相手にしてくれない。


「おぬし、巴御前は好きなのか? 」


 などと<ひとつ>が彩に聞いた。


 それで彩が頷いた。


「ならば、これをやろう。長い事、わしが持っていたが、お主なら巴御前も喜ぶであろうから」


 などといきなり現れた古い薙刀を彩に渡した。


「こ、これは? 」


「巴御前が使っていた薙刀じゃ。わしが預かっておった」


「嘘っ! 」


 彩の顔が輝いた。


 無茶苦茶嬉しそうである。


 薙刀の柄に頬ずりする。


 挙句にこの言葉である。


「良い人……いや、良い妖だね」


 それで<ひとつ>と<赤錆(あかさび)>がさらに爆笑して帰っていく。


 ああ、彩まで懐柔されてしまった。


 金色に輝く鷹と犬を出すのを止めて吹き飛んだ襖と障子をかたずけ始める祖父母と、元の柴犬の姿に戻った柴吉と、何時までも薙刀の柄に頬ずりを続けている彩を見て途方にくれた。


 ちなみに、妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>は、憤然として折れた指をもう片方の手でぱきりと戻すと消えた。


 怒っている感じは無かった。


 俺の女性化は怒っていた癖に……。


 彩は謝るどころか、薙刀の方に必死だった。


 とうとう俺の妖の王の辞退は誰にも受け入れられなかった。

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