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第三部 かぐや姫 第三章

「かぐや姫? 」


 俺が驚いて、断るよりも先に呟いてしまった。


「かぐや姫って物語だよね? 」


「いや、物語はそのまま祈りとなって神や妖を紡ぐことがある」


 柴吉が知っていたのか、そう淡々と話す。


 知っていたのかよ。


「かぐや姫は富士山そのものの存在だ。神となっておられる。自分を依り代にして守護させるとは……」


「あれ? 富士山は浅間神社で無かった? コノハナサクヤ姫では? 」


「中世まではかぐや姫だ。そして、浅間神社は富士山の噴火を抑えるために、荒ぶるアサマの神を鎮座させて祭っている」


 柴吉が淡々と話す。


 もう間違いない。


 知っていたのだ。


「お前、つまり、俺が女装しているのは……かぐや姫の依り代にする為とか? 」


 そう、俺が聞いたらコクリと頷きやがった。


「そんなに簡単に御神霊を降ろせるものなのか? <ひとつ>殿? 」


「恐らく、富士山信仰がコノハナサクヤ姫に移った。それで妖と同じく、神たるかぐや姫への祈りが減り段々と多忙で無くなった。そうなれば御神霊と言えども我ら忘れられていく妖と同じだ。あれほどの勢力を持った我ら鬼ですら、この世界ではもはや存在せぬものとなっている。ただ、それでも富士山の神格化された存在だ。普通の妖の王の候補如きに降ろせるものではない」


 <赤錆(あかさび)>に聞かれた<ひとつ>が淡々と話している。


 それには寂しさやいろんな感情が混じっているのもわかる。


 となると多分、向こうの妖の王の候補は鬼なんだ。


 鬼の復活を目指しているのかもしれない。


「それで、あの妖の王の御霊の<婆娑羅(ばさら)>殿が惚れ込んでこやつを推しておられると言う事か? 」


「どういう事? 」


 妖の王の御霊<婆娑羅(ばさら)>様の指を折っただけでなく、別の指まで抉り取るように掴んで折りに行っている彩が柴吉に聞いた。


「妖の王の御霊達の推薦がいるのじゃ。妖の王と認められるにはな」


「ええええ? とにかく、私が抑えているから、神楽耶は早く断って」


 もう一本の手が出てきて、それで俺の口を塞ごうと妖の王の御霊<婆娑羅(ばさら)>様を小指を折って、さらにその手の指のうちの中指を折った後に、今度はその新しく出てきた手と必死に彩が戦っていた。


「妖の王の候補の件、お断りします」


 俺がそう言い切った。


 頭も下げた。


 それで柴吉がああって悲しい顔をした。


「ふふふふふふ、面白い。そうでなくては……。100年程度と言えど空白であった妖の王が選ばれる戦いだ。我が主が目覚めた時に興ざめされてもいけない。ようやく、面白くなってきた」


 <ひとつ>さんが異様だってーか、俺の言葉を聞いてないのか?


「妖の王の候補の件をお断りします! 」


 仕方ないので大声で話す。


「なるほど、<ひとつ>殿のおっしゃる事は良く分かった。それは良い。我らが主が覚醒したときに好敵手がいれば喜ばれる事であろう」


「いやいや、妖の王の候補を辞めます! 辞めますから! 」


 俺も必死だ。


 聞かないふりをされても困る。


「こちらは戦う気も無いし、それで神楽耶は妖の王の候補を辞めるって言っているのに、何で認めないわけ? 無抵抗で従っているじゃない! 」


 などと妖の王の御霊<婆娑羅(ばさら)>様の小指と中指を折った彩が叫ぶ。


「無抵抗? 」


 <ひとつ>が笑った。


 というか表情は見えないが、身体を揺すって楽しそうにしているので、そうなんだと思う。


「これだけ、大人しく従っているじゃない」


 などと妖の王の御霊<婆娑羅(ばさら)>様の小指と中指を折った彩が言い切る。


 俺と柴吉がちょっと唖然として彩を見た。


 だが、怯まない。


 流石覇王如月である。


「そうか? 我らが妖の候補者であるこやつに手を出したら許さないとすでにそちらは牽制しておるぞ? 」


 そう、<ひとつ>が手を振るった。


 それで突風が起きて、部屋の襖とか障子が跳ね飛んだ。


 そこに左右から祖父の竹内律蔵と竹内柚が<ひとつ>達を挟み撃ちにするように立っている。


 竹内律蔵の肩には金色の鷹がいた。


 そして、竹内柚の横には見たことも無い立派な金色に輝く大きな犬がいる。


 それを見た彩が凄い顔して、俺に話す。


「まだ、もう一匹、犬を飼ってたんだ……」


「いや、わしはオオカミだっ! 」


 フェンリルみたいな姿の柴吉が叫ぶ。


 普段は柴犬として存在しているのに、やはり神としてのプライドが許さないのか、怒り気味だ。


「かぐや姫の依り代とすると同時に、同じく神として祭られた竹内の翁と媼の神となった<愛鷹(あしたか)>と<犬飼(いぬかい)>の加護も得ているとはな。たいした呪者よ。全ての不可思議なものが科学とか言うものの為に消えていく世界で、まだこれほどの呪者がいるとはな」


 <ひとつ>が感心したように話す。


 そこにはいつもの適当な感じの祖父母はいなかった。


 本当に神である<愛鷹(あしたか)>と<犬飼(いぬかい)>を降ろしているのだ。


「ええええええ? 爺さん、呪術師だったの? 」


 俺と彩の驚きが止まらない。




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