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第十六部 地下闘技場 前 第一章

 スマホでライトをつけて、さっと彩の家の惨状を確かめる。


 どの壁もべったりとグールの腐敗臭のする血がついている。


「ごめん。彩。読み誤った。これはいけない」


 言った途端に彩が家に向かって動いた。


 家に走ると玄関先に準備していた、俺のリュックサックと自分のと、薙刀と毛抜き形太刀を持ってきた。


 香織の持ってきた鞄も香織に渡す。


「は? 」


 陽菜さんが驚いている。


「<ひとつ>さん達は多分。引いたように見せて、また敵が来るのを待っているよね。日本の古式戦術は夜襲なら一晩中かわるがわるするし……」


「うん、それをやらせて、ここで連中を削るつもりだったんだけど」


「駄目だ。次の襲撃で命が無いと思う」


「……やっぱりそう思うか……」


 陽菜さんがそう考え深げに呟いた。


「彩の身代わりがいるんじゃないかな? ひょっとしたら。だから、彩がいらないんだと思う」


「ええええ? なんで? 」


 香織が驚いた。


「どの程度の毒か知らないけど、たんぱく質を分解する奴だよね。屋根の上にいたらしい猫がどろどろになって溶けている。こんなの加減できないよ。真面目に。ドローンで爆発させたと言っても、やるつもりだったのだろうし。」


 ちらとスマホの電気を入れて彩の家に当てる。


 屋根の上に溶けた猫の骨がある。


 小さいので、うちのミケでは無い。

 

 というか、こういうことの気配を感じてミケは最初から逃げたらしい。


「柴吉はいないけど、多分、柴垣家の防御だよね」


「うん。なかなか口に出さないから、神楽耶君はそのあたりを読んでいるんだと思ってたけど。私がここに張り付くから、柴垣家がどうしても穴になるからね。柴垣家は弱小の妖しかいないから」


「じゃあ、悪いけど行こうか。ちょっとすぐにここから離れた方がいいや」


「じゃあ、お姉ぇの車で……」


「駄目だと思う。なんか仕掛けてあると思うよ」


「いや、お姉ぇの車って軽だけど、中身は違うし、あれって下手に誰かが何か仕掛けたり、触れないように、いろんな術式が……」


「地面の下で爆発させれば良いでしょ? 」


「となると家も駄目か……」


 陽菜さんが呻く。


「大ムカデの地下を通ってきた道を簡単に土で埋めるべきじゃなかったね。多分、それを使って仕掛てきてる」


「でも、破壊させるには思い出深いんじゃないの? あの家」


「うちも父さんが用心深いから、アルバムとか思い出の品まで、全部別の場所に隠しているから」


「うちの爺さんの紹介でやっているから」


「なるほど、何があっても良いようになってんだ」


「うちも同じだし、奥は壊れにくくなっているけど、どうかな? これはいけない。やばいと思ったら、即逃げないと。昔、恩師の先生が某国にホームスティで行ったんですが、そこのお婆さんがクーデターとかまあやばい思想的な封鎖とか全部逃げ続けてきて村の人に尊敬されている人で、その人が言うには逃げるコツはやばいと思ったら、お金とか大事なものだけ持ってすぐ逃げるんだそうです。そして、山へ山へ国境を越えれるけど行くのが大変な場所に逃げると……。そうすると、封鎖に時間がかかってぎりぎり逃げられるとか。これも同じですね。多分」


「……そんなにやばいか……」


 陽菜さんがため息ついた。


 それでどんどん歩いて俺たちは脱出を始めた。


 その時にスマホが鳴る。


『逃げろっ! 』


 獅童の中の御前の声だ。


 その少し後に彩の家と俺の家が吹き飛んだ。


 やりやがった。


「うわぁぁぁぁ! 注目集めるけど、大丈夫なのかな? 」


 香織がドン引きしている。


「やはり祖父の結界がやばいんだと思う。爆発してもまわりに認知されにくい」


「逆手に使ったか……」


『やはり逃げてたか。大したものだ。先回りしたのだな』


 などと獅童の中の御前が笑っている。


 まあ、<ひとつ>さん達に聞かれないとかいう意味では、ぎりぎりでスマホでかけてきたんだ。


「大丈夫なんだよね? 」


「家はだめになったが、大丈夫だぞ」


「大丈夫よ」


「元気元気」


 獅童の心配そうな声に皆で笑って返した。


「逃げたってわかったら追ってくるんじゃないの? 」


「いや、<ひとつ>さんが本気でカバーすると思う」


「多分ね」


『我々も別ルートで海に行く。そちらも海に向かって歩け。そちらは律蔵が迎えに来る』


「やっぱり、こんな夜中に移動するつもりだったんだ」


『律蔵も何か仕掛けてたろ。家が爆破されたのを気が付いて、予定を早めて来る。もともと今夜の夜遅くに来るつもりだったのだろうけど、これで完全に流れが変わった。もう一人のわしは本気を出してくるぞ』


「わかった」


 そう答えると、スマホが切れた。


 多分、<ひとつ>さん達がまわりに集まってきたからだと思う。


 抜け目ないよな、コピーだけど。

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