第十五部 戦場 第九章
「いや、そう言う言い方はどうかと思う」
「あなたの家なのよ? この臭いのは? 」
彩が真面目に注意しようとしたら陽菜さんに一言で言い負かされる。
全てのトラブルに深く深く関わっていながら、こうやって平気で言い返せるメンタルとか。
年食ったら、陰陽寮の西園寺の婆さんみたいなポジションになるのではないかと。
「西園寺の婆と一緒にすんなぁぁぁ! 」
また読唇術か知らんけど、俺の心を読んだらしくて、ブチ切れる。
「厄介だなぁ」
「厄介じゃねぇよ! きっと私のような女にも王子さまはいるはずなんだ! 」
「痛い……」
香織が泣きそうな顔で呟いた。
そのせいで人格的に優れた鬼さん達が非常に同情したような顔で香織を見ている。
俵に詰まった石灰を運びながらだ。
せつない。
「土をかけてから、石灰をまくぞ? 水と反応すると熱を出すから、完全に乾いてからの方がいいと思うが、とりあえず、庭の方は撒いておこう」
などと、てきぱきと<ひとつ>さんが指示する。
「一応、彼らは戦闘のプロである以上、死体の異臭とかの対策に対してもプロなのよ」
などと陽菜さんが威張る。
「それは鬼さんが威張る話では? 」
「私が雇ってんだからっ! 」
「お姉ぇ」
陽菜さんの突っ込みで香織が悲しい顔をするたびに、鬼さん達がさらに同情している。
なんという人間模様。
「泣いた赤鬼だね」
などと意味不明の話を彩がするが、なんとなく間違っていないような気がした。
それで鬼さん達がもくもくと働いたおかげで土地の臭い部分は綺麗になった。
「では、戦うか」
そうさっきまで石灰をまいたり鍬で土をかけたり野良仕事みたいなことをしていた<ひとつ>さんが、こちらに向き直る。
どうしても、戦う気らしい。
『いや、やめとけ』
突然にいきなりのストップが俺の身体からかかる。
この直垂の服を着た手は、多分……<婆娑羅>様だろう。
「これは<婆娑羅>様、おひさしゅうござる」
『おぬしの気持ちはわかるが、下手にいじると神楽耶に律蔵がかけた式が動くかもしれんからやめてくれ。必殺の武器が使えなくなると困る』
「……本人の意思は関係ないので? 」
『関係なしで動くらしい』
「ほあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ? 」
あまりの現実に俺がドン引き。
どんな式をかけてんだ?
あの爺さん。
「……本気で孫を道具というか駒として扱っているので? 」
『そうでないとここぞという時に作動せんだろ? 』
そう<婆娑羅>様が言うので、鬼たちが、さっきの香織を見るのと同じような顔で俺を見る。
同情すんなよっ!
くそぅ、惨めじゃんかぁぁ!
「頑張って生きていこうね」
「香織も言ってくるなょぉぉお! 」
あまりの事に切れる。
「ふうむ。となると下手に触れませんな」
「<凶>の時は作動しなかったが、次はどうなるかわからん。妖の力が満ちるのが大切らしいが……。かぐや姫様はご存じらしいが、わしには教えてもらえなんだ。妖というものを消滅させる恐ろしい式らしい」
「……孫は妖なのにか……」
<ひとつ>さんが絶句。
それで俺も絶句。
いや、胃に来るなぁ。
なんだよ、それ。
鬼さん達が俺と目が合って俯く。
同情されると辛いんだけど。
ポンポンと香織が俺の肩をたたく。
「いや、そんなの慰めとかイランからっ! 」
「この子はこの子なりに一生懸命に生きているんだから」
「いや、元凶の貴方に言われたくない」
「いや、あんただって元凶じゃん! 」
「俺は被害者じゃん! 」
「被害者だからこそ、一生懸命生きてんでしょうがっ……」
などと陽菜さんの目が泣いている。
これは嘘泣きの目だ。
恐ろしい。
あまりに嘘泣きが上手すぎた。
こんなの子供の時から噓泣きで全部を誤魔化してきたんじゃなかろうか。
「せいぜい嘘泣きが通用するのは小学生までだよ」
彩が冷徹に言い放った。
「嘘みたいに強かったんじゃないの? 」
俺も突っ込む。
「強さなんて見せたら、誰も近くに残らないじゃん」
「嘘泣きが上手なのも変わらないと思うんだけどっ! 」
そもそも、さっきから陽菜さんの言い訳が意味不明だ。
真面目に高杉晋作みたい。
そうして、陽菜さんと俺が醜く言い合いをしていたら、鬼さんは酷く悲しい顔をして俺たちを見ると一人また一人と姿が消えていく。
「いやいや、やめろぉぉぉぉ! 同情した顔で鬼が消えていくなぁよぉぉぉ! 」
「陽菜さんと一緒にしないで欲しいっ! 」
陽菜さんと俺が叫ぶ。
<婆娑羅>さんは引っ込んだし、彩も香織も鬼さん達と同じような目で俺と陽菜さんを見ていた。
「同類だと思わないでぇぇぇ! 」
「やめろぉぉぉぉ、その目をやめろぉぉぉ! 」
俺と陽菜さんの叫びが虚空に消える。
「強く生きろよ」
そう<ひとつ>さんまでポンと俺の肩を叩くと去って言った。
おかしいだろぉぉぉぉっ!




