第十五部 戦場 第六章
「出動命令は出てないはずなんだけどねぇ」
陽菜さんがため息をついた。
いや、多分、三姉妹は性格が似ているんだと思う。
鮮やかな剣技の間に意味不明の残心のポーズがある。
「じ、自分に酔ってない? 」
俺が思った事を彩が言っちゃう。
「ああ、そういうとこあるわ」
「渡辺家の残心よね。もちろん、相手が倒しても動くことがあるので、それに対応するために、もしもの追撃を考えてやるんだけど、あれで渡辺家はアピールしてたことがあって、そういう感じになっちゃったのよ」
陽菜さんの話が酷い。
「そういう感じになっちゃったとは? 」
「だから、これだけやってるってアピールよ。さくら姉ぇはあれが得意だから」
「華があるよね」
などと香織と陽菜さんがどこまでも呑気だ。
たくさんの被害が出ているのに。
「やっぱり、そういうのって必要なのかな? 」
「残心は大事でしょ」
「いや、残心だけでなくアピールというか」
「お父さんの二代目俵藤太はそういうのが凄かったから。残心に色気があんのよ」
「へぇぇぇぇ、父さんが色気? 」
「戦闘時ってやっぱり異様な迫力があるでしょ。それの抜きというか……」
「それは父さんに教えてもらってない。教えてもらっとけばよかった」
などと彩が剥れる。
メラメラと皆が目立っているのに目立てないので、そういうのに対する嫉妬心みたいなのがあるらしい。
「お父さんに電話して聞いとけば? あ、そういえば獅童君に聞けばよかったんじゃないの? 未来視があるし」
などと香織がいまさらながらの話をしてきた。
「出ないだろ」
「そう、出ないよ」
などと俺と陽菜さんの答えがだぶる。
「ええ? 」
出るわけないのだ。
どう考えても、一番やばいのここだし。
スマホからたどられても困るだろうし。
「ああ、気が付いてたんだ。多分、神楽耶君を殺せる奴がここに来るって」
陽菜さんが感心したように話す。
「まあ、御前が爺さんの自分を倒すための最大の駒だとしていると俺をみているなら、普通に明日の大事の前に俺をつぶしますよね。殺せなくても良いから、地下闘技場に来れないようにしたらいい」
「流石だねぇ」
陽菜さんが感心している。
「だから、ここにいるんでしょ? 」
「うん」
全くてらいもなく頷いて笑った。
「え? 」
彩が慌てて、近くに置いていた、刀を掴んだ。
「多分、あちこちで同時に激しくやってんのも、T市から注目を逸らすためでもあるけど、俺を殺すためでしょ。間宮さんは実際に東京に行っちゃっているし」
「護衛に来るはずの天狗も全部あちこちで戦っているみたいだしね」
テレビに丁度ほかの大都市で戦っている天狗たちの姿が映る。
本当に数が少ないらしい。
「本当に予算が無いんだな」
「だって、今回が初めてでしょ。ここまで妖が表に出たのって……」
「そうか、誰も未知の問題に予算とか割かないよね」
「世知辛いなぁ」
などと彩と香織まで困った顔をした。
「で、私が戦うんだけどさ……わかる? 」
「生理的にちょっと無理とか」
俺が突っ込んだ。
何か庭の隅に出てきたみたい。
穴を掘ってやってきたというより、大ムカデさんがこないだ来る時に作った地下の道を辿ってきたらしい。
その手があったかと思いつつ。
なんか嫌な気配だ。
んで、ちょっと臭い。
「グールだよね。なんか、相当いじっている感じがするけど……」
「趣味の悪いネクロマンサーでもいたのかな……死体をつないで作ってるみたい。そういや、大阪もこんなのだったな……。ああいうのって私……ちょっと遠慮したいんだけど……」
陽菜さんがビビるというよりは気持ち悪がっている。
「……それって俺にやれって事ですか? 」
「いや、ここで派手にやられると、隠蔽できそうな間宮さんがいないから問題になるしなぁ」
「間宮さんがいたら派手にやってたんだ」
「そりゃねぇ」
「いや、このあたりをぶっ壊して、あとの賠償金とかどうすんですか? 」
「律蔵さんも今回の件で金を振り絞るように使っていると思うから無いよね。うちの妖特科も火の車だしさ」
「そりゃ、お姉ぇが無茶苦茶するからでしょ? 」
などと香織に言われる。
「どうするの? 私がやろうか? 」
彩が毛抜き型太刀を抜いた。
「いやいや、ちゃんと頼んであるから」
などと陽菜さんが手をひらひらさせた。
いや、こういう事がこの人の一番怖いとこなんだけどな。
彩が彩の家の居間の窓から外を覗く。
彩のお母さんも公務員なんで、今日は帰らないので、陽菜さんが来たこともあるんだろうけど……。
「ひぃぃぃっ! 」
彩が珍しくドン引きした声を上げた。
俺も外の風景を覗いて、ため息をついた。
フルチンのおっさんが裸になってムカデみたいに20人くらいつながっている。
こんな映画あったな。
もちろん、おっさんじゃなくてグールなのだが。




