↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-  作者: 鳥獣跋扈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/85

第78話 宝石のような

 先頭を行くシドが、不意に足を止めた。


「……?」


 その背中が動かなくなったのを見て、俺は首を傾げる。

 すぐ前を行くジョンも立ち止まり、ちらりとシドに視線を送るが、言葉は発しない。俺もつられて歩みを止め、周囲を見渡す。


 特に異常は感じない。耳を澄ませば、微かに空気の流れる音がする程度で、敵の気配も、特に感じない。

 休憩を取ったばかりだ。ここでまた立ち止まる理由は思いつかない。


 ……何だ? 

 心の中で呟いたそのとき、シドがゆっくりと視線を走らせながら、地面から顔を覗かせている岩のいくつかに手をかけ始めた。


 どしゃり、と小さな音を立てて、一つ目の岩が転がる。

 二つ、三つ、そして四つ目……いくつかは簡単にひっくり返せたが、別のいくつかは地面にめり込むように深く刺さっていて、まるで根を張っているかのようにびくともしなかった。


「……何か探してる?」


 思わずそう呟いてしまったが、もちろん返事はない。

 俺たちが黙って様子を見守る中、十個目あたりの岩に手をかけたシドが、ぴたりと動きを止めた。


 ピクリ、と指先が小さく震える。


 彼は顔を上げ、こちら──正確には、隊の最後尾を歩いていた指示役の男へと目配せを送る。

 男はそれを見逃さず、にやりと笑ってから、静かに歩み寄っていった。


「おっと、こいつは……当たりか?」


 シドがその岩をずずっと横へと押しやると、地面にぽっかりと穴が開いていた。

 深くはない。手を入れればすぐ届きそうな程度の、小さな空間。


 その中心に、それはあった。

 ひときわ目を引く、小さな箱。豪奢な装飾が施された、まるで王侯貴族の宝石箱のような外見だった。


「へへっ、こいつは幸先がいい。間違いねぇ、アタリだ」


 指示役の男が、穴からそっと箱を取り出す。

 サイズは手のひらに収まるかどうか、少しはみ出る程度。細工のひとつひとつが精緻で、それだけでお宝と思われる箱。


 男は箱を開けることなく、じっくりと上下左右から眺める。

 装飾の細部、継ぎ目の処理、重さの感触。すべてを確かめたあと、満足げに一つ頷いてから、無言でシドにそれを手渡した。


 シドは箱を受け取ると、深く息を吸い込み、何かを念じながらその箱をじっと見つめた。

 その目は、まるで箱の奥を見透かそうとするかのように鋭い。


 沈黙の数秒。

 やがて、何かを察したように小さく息を吐くと頷き、彼は蓋をそっと開けた。


 箱の中には──


 それは、宝石とも、結晶ともつかない不思議な光を放つ物体だった。

 大粒の、つるりと丸い形状。どの角度から見ても表面に一切の傷がない。

 虹色に揺らめく光が、ダンジョンの薄闇の中で静かに輝き、俺の目をも一瞬、奪った。


「……!」


 思わず小さく息を呑む。

 それは、明らかに“ただの宝石”ではない。


 何かの気配が、周囲の空気をわずかに震わせていた。


「……よし。こいつが出たとなりゃ、少し早いが──」


 指示役の男が、視線をこちらに向けることなく言った。


「エリオ、先に戻って報告だ。あとは“試練”だけでいい」


 そう言って、再び箱にしまい直したそれを、背後に立つエリオに手渡した。

 エリオは頷き、黙って懐から金属の鍵を取り出す。


 見たことのある形状。

 あれは──転送キーだ。


 つまり、この階層は既に“踏破済み”ということになる。


 エリオは鍵を軽く翳すと、発動を念じた様子を見せる。

 次の瞬間、彼の身体が淡い粒子へと変わり、瞬く間にその場から消えていく。


「……」


 残された空間には、ほんのわずかな風のような揺らぎと、彼の気配の余韻だけが残った。


 ──報告。


 恐らく彼は、入口に戻り、後方の部隊や指揮者に何かしらの指示を伝えるのだろう。

 あの“虹色の珠”が意味するものが、どれほど重要な価値を持つのか。

 今は分からないが、気に留めておく必要はありそうだった。



「……それじゃあ、後は俺たちの出番だな」


 指示役の男が、どこか遠くを見るような虚空の先に視線を投げたまま、ぽつりと呟いた。

 誰に向けるでもないその言葉に、仲間の誰もが反応を返さない。ただ、それぞれが自分の準備を整えはじめていた。


 そんな中、シドが再び地図を取り出し、軽く顎に手をやりながら目を走らせる。

 その視線の動きが、今までよりもはるかに明確だった。


 まるで、目的地の一点にのみ針路が定められているかのように。


 ──なるほど。今向かっているのは、間違いなく“試練”の場所だな。


 シドが持っているあの地図は、たしか「所有者のレベルより高い魔物の位置が浮かび上がる」と聞いた記憶がある。

 つまり今、彼が躊躇なく進めているということは──


 この階層の“雑魚”たちよりは彼の方が上。“試練”よりは下、ということになる。

 試練の敵……いったいどれほどの強さなんだろうか。


 事前の打ち合わせでは、「特に問題ないはず」なんて気軽に言ってたが、その“問題ない”の基準がどこにあるのか分からん。少なくとも、俺の基準では信用しきれない。


 ──ついでに言えば、まさか俺をいきなり初見の敵にぶつけるつもりじゃないだろうな? 

 いや、可能性はある。あるどころか、むしろ高い。


 ……確認しよう。


 俺は少しだけ速度を落として、軽く肩越しに振り返りながら、指示役の男に声をかけた。


「あー、すまん。これから“試練”に当たると思うんだが……可能なら、事前に相手の情報を教えてもらえないか?」


 声をかけた瞬間、男の表情がわずかに動いた。

 面食らったような、あるいは予想外のタイミングだったとでも言いたげな反応。それでもすぐに、気だるげな笑みに戻り、軽く顎を引いて答えた。


「おっと。そういや、そうだったな。忘れてた。だがな……悪いが、それはできねぇ」


「……理由は?」


 自然と眉が寄る。隠すようなことか? 

 彼は肩をすくめ、くくっと喉の奥で笑った。


「ちゃんと理由はあるさ。さっきも言ったが、今回の“試練”の相手は、俺とジョンで十分対応できる。だから、お前が無理するような状況にはならない──とは思ってる」


 そこまで言って、彼はぐいっと俺の方へ視線を向けた。


「けどな、お前さんにとっちゃ今回が初参加だろ? だったらこっちとしても、お前が“初見の敵”に対してどの程度動けるかを見ておきたいってわけよ」


 そう言って、男は少しだけ悪戯っぽく笑った。


「悪いな。ちょっとした実地試験ってやつだ」


 ……なるほど。

 “余裕があるうちに、こっちの力量を測っておこう”ってわけか。

 理屈としては分かる。理解もできる。納得するかは、また別だが。


「……了解」


 しぶしぶといった態度で言えば、男は満足そうに片眉を上げて頷いた。


「よし。じゃあ、そのつもりで頼むぜ。……期待してるからな」


 その言葉に、妙な含みを感じたが、突っ込む前に彼はもう前を向いていた。

 さて、どんな“試練”が出てくるのやら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ニューヨークの新聞屋かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。