表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-  作者: 鳥獣跋扈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/83

第51話 固有スキルとメイリン

「ま、今日は疲れたでしょ。出発は明日ってことで。こっちも準備があるしね。ああ、そうそう、大体三日くらいかかると思うから、よろしくね」


 長は気楽な口調でそう言うと、何事もなかったかのようにくるりと背を向け、ゆるやかな足取りで家路についた。

 鳥のような顔をしたあの獣人も、ちらりとこちらに目をやったあと、短く頷いてから静かにその後を追っていった。

 残された俺とメイリンは、しばらく無言でその背中を見送った。


 俺は小さく息を吐いて、メイリンに促す。

「……とりあえず、明日の出発に備えましょうか」


 気を取り直すように。彼女は小さく頷き、肩の力を抜いたように息をついた。

「だねぇ。ちょっと、色々と……整理したいし」


「じゃあ、こっちの家でいいかな。近いし」

 そう言って、集落の端にぽつんと建つ小さな家を指差す。俺たちにあてがわれた仮住まいだ。


「はいはーい。大丈夫よ」

 メイリンは少し疲れたように微笑みを返し、一緒に家へと入っていった。





 * * *





 家の中。


 俺はゴザの上に腰を下ろし、メイリンにも対面に座るように促す。


「さてさて、一旦は無事に帰れそうで良かったわ。いい物も貰ったしね」

 メイリンが小屋の隅に腰を下ろしながら、軽く首を傾げて自分の耳をぽんと叩いた。

 俺の耳にも同じものがある──まるで何もないように見えるが、実際は通信機がそこにある。

 迷宮内で使用可能、加えて直接声を発さずとも意思疎通ができるという、信じがたい高性能。


 加えて展開式の小屋。収納時は肩掛けバッグにすら収まるサイズにもかかわらず、設営すれば、簡素ながらも人二人が入るに十分なサイズになる、それ。

 まるで魔法のような一式。これだけでも一財産だ。


 これほどのものを、ぽんと渡してくるなんて──。


「……何なんだ、あの箱は」


 自然と独りごちるような声が漏れた。

 最初は、案内の対価としてアーティファクトを要求されていたはずだ。それが今では、案内どころか、まるでこちらを歓待するかのように、通信機と簡易小屋のセットまで贈られている。


 あの長──あの獣人の族長は、いったい何を考えているんだ? 


 考えれば考えるほど、何か裏があるようにしか思えなかった。

 だが、そこから先が出てこない。この集落について、俺は何も知らない。情報のない者がどれだけ頭を捻っても、出てくるのは憶測だけだ。

 結局、思考はぐるぐると同じ場所を回り続けるばかりだった。


「実際のところ、獣人たち……というより、あの長ね。あの人が何考えてるのか、私にもよくわからないわ」


 メイリンがぼそりと呟くように言って、膝を立てたままその腕に顎を預けた。


「私、前にも言ったと思うけど、さんざん交渉に行ったのよ? 助けてほしいって、何度も伝えた。でも全然、取り合ってくれなくて。まともに話を聞いてすらくれなかった。だけど──」

 彼女の視線が、ちらりと俺の方を向いた。


「イトウさんが来てから、急に態度が変わった。条件付きとはいえ、案内の話が出てきたし、物資までこんなに提供してくるなんて、どう考えてもおかしいでしょ。……イトウさん、あなたに何かあるのかもね」


 その言葉に、思わず背筋がぴくりと震えた。

 メイリンには、今日の戦闘を通して、俺の“いつも通りではない”戦い方がいくつも見られている。

 武具の回収に始めり、何もないところからの不自然な量のアイテムの獲得。アイテムボックスに入っていましたじゃ説明がつかない。


「……」


 俺が黙り込むと、メイリンはわざとらしくにやりと口元を吊り上げた。


「あれでしょ、固有スキル持ちなんでしょ、イトウさん」


 彼女の言葉に、思わず呼吸が止まった。

 その瞬間、まじまじとメイリンの顔を見てしまっていた。


 ……どうして、そう思った? 


 冗談めかしてはいるものの、その目はただの推測で口にしたとは思えない真剣さを帯びていた。


「ふふん」


 メイリンが、まるで勝ち誇った猫のように顎を上げる。その顔には、ほんの少しばかり得意気な色が浮かんでいた。


「こういう時って、なんて言うんだっけ? ……ああ、そう。鳩が豆鉄砲を食ったような顔、ってやつ?」


 カラカラと笑う声が、小屋の中に軽やかに響く。その明るさに対して、俺の方は──と言えば。

 正直、なぜそれを知っている? という動揺が、全身にじんわりと広がっていた。


「ダメよー、イトウさん。そんな簡単に、カマかけられて引っかかっちゃあ」


 目を細めて、ちょっと意地悪そうにそう告げる。……ぐうの音も出ない。

 あの瞬間、確かに、心のどこかにあったものが顔に出てしまったのだろう。

 たとえ言葉にはしなくとも、それだけで察せられる程度には、俺は“無防備”だったらしい。


「まぁ、そんな顔になるのも無理ないけどね。固有スキルなんて、普通の人は知りもしないし」

 そう言って、メイリンは指に嵌めていた指輪をスッと外し、軽く放ってよこした。


「っと……!」


 慌てて手を伸ばし、飛んできたソレをキャッチする。

 一見すると、装飾も派手さもない、古ぼけた金属の指輪。だが、手に取った瞬間──体の奥が、かすかにざわついた。


 直後、目の前に淡く青白いパネルが浮かび上がる。


 ────────────────────────────────────────

星巡せいじゅん

 種別

 :アーティファクト(劣化)


 効果

 :星々の軌道を象った古代の指輪。

 身に着けた者が進むべき方向を、極めて微かな脈動と共に内なる感覚として伝える。

 その導きは物理的な道に限らず、

「運命の存在」「選ぶべき言葉」「訪れるべき機会」にさえ及ぶことがある。

 かつて賢者たちはこの指輪を「星が選びし者の証」と呼び、

 時代を越える出会いの媒介として重宝したという。


 また、真に運命を左右する存在が近づくと、指輪はごく僅かに発光する。

 ただしその光は持ち主にしか見えず、他者にはただの鈍い金属輪にしか見えない。


 ※劣化の影響により精度は不安定で、数日に一度しか反応せず、

 指輪自身の力での判断範囲も狭い。

 ────────────────────────────────────────


「……これは……アーティファクト? でも、劣化って……」


 表示された説明文を読みながら、自然と眉間にしわが寄る。

 能力は、まるで預言のような精密さを感じさせる反面、“劣化”という単語が目に焼きついた。

 これは一体、どういう意味なのか。


 指輪を返しながら、メイリンに尋ねる。


「これは、本物……じゃないのか?」


「うん、劣化コピーってやつ」


 そう言って、彼女は指輪を元の指にすっとはめ直した。指に収まるその動きは、まるで日常の一部のようで、それが彼女にとってどれだけ大切な物かが、なんとなく伝わってきた。


「昔ね──お世話になった人がいたの。固有スキルの持ち主だったんだけど、その人に、これをもらったのよ」


 ふと視線を落としたまま、どこか遠くを思い出すように言葉を紡ぐ。

 その声音に滲むのは、尊敬と、そして少しの寂しさ。


「今はちょっと疎遠だけど……。あの人の固有スキルがね、アイテムを劣化コピーできる力だったの。

 うちの国の一部では結構有名だったのよ。だから、“固有スキル”って言葉も、普通のスキルとはちょっと違う“何か”があるって知ってた」


 メイリンはふっと目を細めて、指先でそっと指輪を撫でた。


「その人もね……他の固有スキル持ちと、話がしたがってたのよ」

 小さく、懐かしむような笑みが浮かんでいた。まるで過去の記憶に指先が触れたかのように。


「だからさ、スキルの内容もね。もし“それっぽい人”がいたら、話してくれって頼まれてたの」


 彼女の声に、微かに寂しさが混じるのを感じ取る。


「もちろん、周りの連中からはめちゃくちゃ怒られてた。『危ないからやめろ』って、何度も何度も」


 メイリンは軽く肩をすくめ、そして、すぐに笑った。儚げで、どこか諦めにも似た微笑みだった。


「私も止めたんだけどね……あの人、なんでか、聞かなくてさ。止める気もなかったみたいだった」


 その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。何か、ただならぬ理由があったのだろうか。それとも……彼なりの「責任」か「想い」でもあったのか。

 メイリンは俺をちらりと見て、声を少し明るくした。


「でもね、イトウさんを見た時……ピンと来たのよ」


 ピンと来た? 俺が首を傾げると、彼女は唇の端を吊り上げて言葉を続けた。


「最初は、大容量のアイテムボックスでも持ってるのかと思ったけど……その後の“あれ”を見ちゃね」

 “あれ”、か。あの戦いの中で、俺がやったことを指しているのだろう。あんな状況下で、レベルが跳ね上がったり、装備が突然変わったりするのは──まあ、隠しようがない。


「十中八九、なんかの固有スキル持ちだなーって」


 そう言われて、俺は軽く目を伏せた。否定はしなかった。否定しても、もう遅いだろう。

 メイリンの手元の指輪見る。


「……一番の決め手はね、これなの」

 メイリンが見せたその指輪。ぱっと見では、何の変哲もないそれ。


「さっきのアーティファクトの説明、見たでしょ? この指輪、持ち主の運命に関わる人と出会った時に反応するの。それが、あなた」


 彼女の視線が、まっすぐに俺を貫いた。

 俺は一瞬、返す言葉を失った。何も見透かされていないはずなのに、その瞳の奥に、何かを見られているような、そんな気がした。


「運命にもいろいろあるけどね。いい兆しか、悪い兆しか……でも、この指輪が導くのは、“進むべき道”なの」


 メイリンは、言葉を置くように、丁寧に語った。


「この集落の獣人にも、長にも、何の反応もしなかった指輪が、あなたには反応した」

 その意味を、俺はすぐには呑み込めなかった。だが、確かに──この指輪は俺に何かを告げているのだろう。


「もちろん、劣化品だから出る時と出ない時あるけどねー」


 そう言って、メイリンは冗談めかして笑った。場の空気が、少し和らぐ。


「でも、だから。だから私は、あなたと一緒に戦ったの。あなたのこと、信じてみたいって思ったから」


 真剣な口調だった。まるで、さっきの冗談とはまったく別人のような声音。


「──まあ、そもそもさ。ここから帰れる可能性があんまりなかったってのもあるけど」


 舌をぺろりと出して、彼女は笑った。けれど、その笑顔の裏には、確かに“覚悟”が見えた。



 メイリンは、あくまで穏やかな口調を崩さずに言った。


「だからね、あなたの秘密を……ほんの少しだけでいいから、共有してくれたら嬉しいな。もちろん、私も協力できることは協力する。──できることだけね」

 そう言って、彼女はふわりと微笑んだ。どこかいたずらっぽく、けれど真剣さも隠していない、そんな笑みだった。


 俺は、肩の力を抜くように小さく息を吐いた。


 ……ふう。


 気づけば、胸の奥に沈殿していたものが一気に浮き上がってきて、思考を曇らせていた。戦闘の緊張、疑念、推測、それに加えて──「彼女」の言葉。

 なんだろうな。たった一言で、大したことを言ってるわけじゃないのに、やけに心に残る。


 メイリンのことを、完全に信用しているわけじゃない。いや、できるはずもない。彼女が何を考えているのか、すべてが本音とは思えない。だが、それでも──。


 嘘ばかりというわけでもない。

 不思議と、そう思えてしまう自分がいる。


 ……それに、既に俺の手札は、ある程度見られてしまっている。俺が“普通”ではないことに気づくには、十分すぎる状況だった。


 そして彼女は、俺に「協力する」と言った。

 自分の利益のためかもしれないし、気まぐれかもしれない。それでも、「話すな」と決めつけるほどの理由も、もはやない。


 たぶん、もう少し、ちゃんと向き合うべきなんだろうが。相手がどんな人間か、どんな立場か。

 だけど、メイリンが言ったように、運命とか、巡り合わせとか、そんなものがあるのだとしたら──


 ここでの出会いも、そういう類のものかもしれない。


 だから俺は、静かに言葉を選びながら口を開いた。


「……わかった。全部じゃないけど、少しだけ話すよ」


 その声に、メイリンの目がゆるやかに細まった。

 それは、ようやく差し出された小さな信頼に対する、彼女なりの礼だったのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
運命のヒロインはメイリンだった??
こんな場所に流してくれたアイテムの出どころかな… 今は疎遠って何らかの理由で会えない… 望む望まないに関わらず組織に取り込まれて自由が無いとか嫌な想像してしまうな でも長が劣化版もたまに手に入るみ…
個人は信用出来ても所属している国は全く信用出来ないのが悩みだな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ