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第5話 ステータスチェック

 気持ちは逸る一方だった。


 だが、それを悟られまいと、なるべく平静を装いながら家へと向かう。

 とはいえ、歩きながら何度も立ち止まり、道端に落ちていたゴミ――空き缶、潰れたペットボトル、破れた傘の骨、果ては錆びた鍵まで――片っ端から手に取り、確認するように変換していたせいで、行きの倍以上の時間がかかってしまった。


 けれど、その手間さえも楽しい。

 まるで秘密の宝探しをしているような気分だった。


 マンションの玄関をくぐるころには、両手はほとんど空っぽになっていた。

 変換された“ガラクタ”たちは、もうどこにも存在しない。


 部屋に戻るなり、まずはコンビニ袋をテーブルに置く。

 急いでレンジで弁当を温め、お茶のキャップをひねると、すぐに箸を取り出してかき込むように食べはじめた。


 腹が減っていたというのもあるが、それ以上に、早く続きを確認したくて仕方がなかった。


 弁当を三分で片付け、お茶で胃に押し流すと、深呼吸ひとつ。

 呼吸を整え、ソファに腰を落ち着ける。


 (よし……)


 意識を集中させると、視界の中心にふわりと光が浮かび上がった。

 淡い青のパネルが、何の前触れもなく現れる。


 どうやら、このパネルは“意識すれば”表示されるらしい。

 しかも、道中すれ違った人々の反応から察するに――他人には見えていないようだ。


 こんなにも目立つ光が、誰の視界にも入らない。

 あれだけ道路のど真ん中で確認していたにもかかわらず、通りすがりのOLも、子ども連れの母親も、まったくの無反応だった。


 (これは……本当に、俺だけの力なのか)


 不思議と、怖さよりも優越感の方が勝っていた。

 誰も知らない、自分だけが使える能力。


 表示されたパネルには、現在の状況がこう示されていた。


 ――【合計ポイント            : 213P】

 ――【交換可能アイテム一覧】


 わずか1時間程度で、200を超えた。


 なかでも驚いたのは、途中の草むらで見つけた古びたCDプレイヤーだった。

 錆びていて、表面は泥まみれ。とても使えるようには見えなかったが、パネルには――150ポイントと表示された。


「……価値基準、どうなってんだ」


 呟きながらも、悪い気はしなかった。

 逆に、ペットボトルのキャップやレシート、何かの紙切れなどは、変換こそされたものの、ポイントは0のまま。

 どうやら、“ゴミなら何でもOK”というわけではないらしい。


 (重さか……素材か……それとも、市場価値?)


  ポイントの価値基準については――まあ、今は横に置いておこう。

 今、自分が気になって仕方ないのは、そのすぐ下にある項目だ。


 


 【交換可能アイテム一覧】


 


 おそらく、ここが一番の“核心”なのだろう。

 俺は、確信じみた予感とともにパネルに浮かぶそれに指を伸ばし、そっと触れる。


 すると、パネルの表示がふわりと切り替わり、ずらりと並ぶアイテムの一覧が目の前に現れた。


 


 ――【合計ポイント            : 213P】


 ――【現在交換可能なアイテム】


 ――【携帯食料(最下級)         : 5P】

 ――【水袋(使用回数5回)         : 5P】

 ――【回復薬(最下級)          : 10P】

 ――【状態異常回復薬(最下級)      : 15P】

 ――【短剣(最下級)           : 50P】

 ――【長剣(最下級)           : 100P】

 ――【革の胸当て(最下級)        : 100P】

 ――【革の手甲 (最下級)        : 50P】

 ――【革の脛あて(最下級)        : 50P】

 ――【ステータスチェッカー(簡易)    : 100P】

 ――【経験値変換球(最下級)       : 1000P】


 


 「おおっと……」


 思わず声が漏れる。

 想像していた通り――いや、想像以上のラインナップだ。


 装備品や回復アイテムに混じって、“経験値変換球”なんてものまで並んでいる。

 ゲームにでも出てきそうなラインナップに、軽く目眩がするほどだ。


 「でもまあ、日常使いできそうなものは……うん、少ないな」


 革の鎧や剣なんて持ち歩いていたら、通報待ったなしだ。

 こんなもの、今の生活圏で使い道があるとは思えない。


 (……まあ、短剣くらいならギリ、ナイフと見なせば不自然じゃない、のか?)


 自分に言い聞かせるように思考をまとめる。

 常識的に考えればアウトだが、好奇心が勝っていた。


 しかし、今気になって仕方がないのは、装備でも薬でもない。

 ひとつだけ、俺の中で強烈に引っかかっているアイテムがある。


 


 【ステータスチェッカー(簡易)    : 100P】


 


 「……やっぱ、これだよな」


 自分の能力を“数値”として確認できる――そんなワクワクが詰まった道具。

 心臓がひとつ跳ねた気がした。


 やや震える指先で、その項目に触れる。

 反応はあっさりしたもので、アイテム名が一瞬だけ光ったかと思うと――


 ひゅ、と何かが落ちてきた。

 反射的に手を伸ばしてキャッチする。


 


 「うわっと!」


 


 思わず身をよじりながらも、なんとか受け止める。

 手に収まったのは、クレジットカードほどのサイズの“何か”。

 厚みがややあり、白と黒に分かれたシンプルな配色。表裏の区別もない。


 「これが……チェッカー?」


 裏返したり傾けたりしながら観察し、とりあえず白い面を上にして、心の中で「ステータス」と念じる。

 すると、カードの表面に黒い文字が浮かび上がるように、じわじわと情報が現れた。


 


 【種族 :人間】

 【レベル:0 】

 【経験点:0 】

 【体力 :5 】

 【魔力 :1 】

 【筋力 :3 】

 【精神力:6 】

 【回避力:5 】

 【運  :5 】


 


 「おおう、すごいな……」



 まるでRPGのキャラクター画面そのもの。

 だがこれは紛れもなく――現実の自分の能力だ。


  表示されたステータスカードをじっと見つめながら、俺はひとつずつ、気になる部分を確認していく。


 まず目につくのは一番上――【種族:人間】。


 「まぁ……それはそうだよな」


 自分はどこをどう見ても人間だ。そこに疑いの余地はない。

 だが、こうやって“わざわざ明記されている”ことが逆に気になる。


 (人間、ってことは……人間以外も、いるってことなのか?)


 例えば、犬や猫、いや、もっと別の――エルフとか、獣人とか。

 漫画やゲームでは定番だが、現実でありえるかといえば、首をひねりたくなる話だ。


 「いやいや……ないない」


 苦笑しつつも、完全に否定しきれないのが今の状況だった。

 だって、ステータスだのポイントだの、そもそもこの“システム”自体が非現実の塊なのだから。


 


 続いて視線を落とす。【レベル:0】。


 「……おや?」


 思わず声が漏れた。

 普通、“レベル”ってのは1から始まるもんじゃないのか?

 ゲーム的に言えば、0は未登録とか未覚醒の扱いだ。


 (逆に、【経験点:0】のほうは納得できるな……)


 日々の生活に“経験”がなかったとは言わないが――

 この世界の“システム”においては、俺の20数年は“無価値”と判断されたようだ。


 おそらく、特定の行動、あるいは何かしらの“フラグ”を踏むことで経験点が得られる仕組みなのだろう。

 そして、そのフラグは、少なくとも今までの俺の人生には一度も現れなかった。


 


 さらに視線を移すと、自身の能力値が並んでいる。


 「体力、5か……魔力、1ってのも気になるな……」


 数値の大小がどのくらいの意味を持つのかは、正直わからない。

 だが、それでも“何が得意そうか”という方向性くらいは見えてくる。


 (体力と精神力がやや高め……外回り営業とブラックな社会生活のおかげか?)


 冗談めかして思ったが、妙に納得してしまうあたりが情けない。

 一方で、“魔力”の存在が、どこか異質に思えた。


 「……魔力、ねぇ。本当に存在するのか、魔法ってやつが」


 もしそうなら、それは世界のあり方が根本から変わってしまうレベルの話だ。

 とはいえ、いくら考えても答えは出ない。想像しても詮無きこと――と首を振って思考を切り替える。


 


 ふと、何か追加の情報が得られないかとパネルを指先で軽くなぞる。

 すると、“経験点”の箇所をタッチした瞬間、また別の小さなウィンドウが開いた。


 


 【次のレベルまでに必要な経験点:5】


 


 「おお……そういうことか」


 ただ、その表示はグレーアウトされていて、なにかしらの“制限”がかかっているような印象もあった。

 経験点が5必要――これは多いのか少ないのか、判断がつかない。


 「まぁ、確認できる方法は、あるにはある……か」


 俺は再び“交換可能アイテム一覧”に目を向ける。

 そこに並ぶ項目のひとつ――


 


 【経験値変換球(最下級)       : 1000P】


 


 「これだよな……」


 たしかに高額だ。今の所持ポイントが113Pでは、まだまだ届かない。

 だが、あの草むらで拾ったCDプレイヤーが150Pになったことを思えば、意外と早く貯められる気もする。


 (まずは、ポイントの規則性を探る。ついでに1000Pを目指す)


 自然と、明日の行動計画が固まっていく。


 


 時計を見ると、いつの間にか夜も深くなっていた。

 俺はステータスカードをそっと枕元に置き、布団に潜り込む。


 が――


 


 「……んー、やっぱ気になるな……魔力……精神力……体力……」


 ステータス画面を何度も開いたり閉じたりして、ついにはスマホのロック画面を眺めるような感覚で繰り返す始末。

 興奮と好奇心で脳が冷めきらず、しばらくは寝返りばかり打つ羽目になった。


 


 ――“新しい現実”が、そっと始まりを告げた夜だった。

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― 新着の感想 ―
この時点ではまだダンジョンが一般に周知されてないのかな 交換品を見れば戦えと言ってるとわかるだろうし
ふと思った。神つうか、上位存在から棄てられたで、人類やら地球ポイント化なんて、、、。
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