表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイント交換だけで成り上がる!? -ダンジョンの回収屋が無双中-  作者: 鳥獣跋扈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/83

第25話 七所迷宮、第一層攻略完了

 虫の“身体部分”と表現していいのか分からないが、下半身に当たるその巨大な躯体が這いずるたび、背から伸びた鞭がしなり、唸りを上げて振るわれる。

 この動きが厄介だった。


 鞭は自在にしなるだけでなく、本体の動きと連動して複雑に変化する。避けても避けても追ってくるような圧迫感がある。

 しかも接近戦を挑もうにも、鞭の軌道だけでなく、土台である虫の胴体そのものの動きにも警戒が必要だ。

 不用意に踏み込めば、跳ねられるか踏まれるか、どちらにせよ無傷では済まない。


 だからといって、距離を取っているだけでは攻撃の糸口が見いだせない。

 ミツイが手にする短剣は接近戦用だし、ケイゴも素手に近い殴打スタイルが主戦法だ。

 誰も遠距離攻撃を持っていない。

 だから、ただただ間合いを詰めるために、危険を承知で踏み込まなければならない。


 ケイゴが果敢に敵のヘイトを引き付け、ミツイがその合間を縫って攻撃を試みるが、決定打には至らない。

 一見うまく連携しているように見えても、実際は圧倒されつつある。


(レベル的にはおそらく問題ない、ただ、単純に手数が足りてない……

 遠距離攻撃が一つでもあれば、また違ってくるんだが……)


 そう考えながら、俺は後方で身を低くして構えたまま、万が一のタイミングに備えて集中を切らさないようにしていた。

 ミツイかケイゴ、どちらかが窮地に陥った瞬間には、即座に飛び込むつもりだ。


 そんな中、突如ケイゴが声を張り上げた。


「だぁーっ、埒が明かん! ヨウちゃん! 懐に飛び込んで押さえつけるから、その隙にぶちかませ!」


「えっ、おい……ケイゴ!? 待っ──!」


 制止の声をかける間もなく、彼は突貫した。


 その豪胆さに、さすがの虫も戸惑ったのか、ギチギチと鳴る音を立てて一瞬動きが鈍る。

 その間隙を逃さず、ケイゴは素早く懐へと飛び込み、虫の腹の下に潜り込む。


 ズン、と大地が揺れるような衝撃と共に、虫が鞭を振り上げようとした。

 しかし、寄生元である虫本体を傷つけることを恐れているのか、動きがやや鈍い。

 あるいは、自分の鞭で自爆するのを避けているのかもしれない。


「今だ!」


 ミツイが、息を呑むような鋭さで駆け出した。

 一気に距離を詰め、敵の背中に飛び乗る。


 鞍でも掛けるような安定感で両足を固定し、彼女は両手に握った短剣を高く掲げる。


「はあああぁぁぁああ!!」


 叫び声と共に、刃が振り下ろされる。


 狙いは、虫本体と寄生部分──すなわち鞭が繋がっている部分の接合部。

 グサリ、と重たい音を残して、短剣は深く沈んだ。


「ギュアアアアァァッ!!」


 凄まじい叫びがあがる。

 振動が足元から這い上がってきて、空気すら震わせる。

 その直後だった。


 ──ブワッ! 


 虫の身体から、紫色の霧が一気に噴き出した。まるで風船が破裂したような勢いで、毒気を含んだ瘴気が辺りに拡がる。


「ぐっ……!」


「くっ、なにこれ……!」


 ケイゴとミツイが咄嗟に跳び退くも、すでに毒の霧を吸い込んでいたようだった。

 次の瞬間、二人ともよろめき、膝を突く。


「大丈夫か!?」


 すぐに駆け寄ろうとするが、それを制するように、二人が自分のポーチから薬瓶を取り出し、素早く服用する。


「どうやら……毒まで吐くらしいですね、こいつは……」


 ミツイが顔をしかめながらも、何とか立ち上がる。


「まったく……炎やら毒やら、ほんとに厄介な奴だぜ……」


 ケイゴも同じように、口元を袖で拭いながら構えなおした。

 血の気はやや戻ってきているようだが、それでも余力は削られているのがわかる。


 俺はその様子を見ながら、唇を噛みしめた。


(……毒まで備えてやがるか。見た目通りのキワモノ……)


 だが、虫の方を見てみるとこちらも大分参っている様子だ。

 ギシ、ギシと軋むような動きの中に、どこか覚束ない気配が混じり始めた。


 ──効いてる。


 ミツイのさっきの一撃が確実に効いている。

 敵の動きが鈍っている。いや、明らかにフラついている。

 地面に爪が引っかかって、バランスを崩すような動きすら見えた。


 ケイゴが見逃すはずもない。


「今だ! 畳みかけるぞ!!」


 そう叫ぶやいなや、彼は爆発的な加速で突っ込んだ。

 鞭のしなりを正面から突破し、躊躇いなく胴体部分へと拳を叩き込む。


 ──ドガッ! ガッ! バンッ! 


 連撃。

 まるで重機の打撃音のような、肉体と肉体がぶつかる低い音が空間に反響する。

 ケイゴの拳が、虫の胴体を容赦なく貫き、えぐり、潰す。


 続いて、ミツイ。


 一瞬遅れて飛び出し、すり足で滑るように間合いを詰めると、構えた双短剣が鞭の根元を斬り裂いた。

 バシィッ! と肉を裂くような音がして、寄生植物のような部分がブチブチと千切れていく。

 虫は苦しげに声にもならぬ呻きをあげ、そのまま足を取られ、もんどりうって倒れ込んだ。


 ──ドォン。


 巨体が床を叩く音が響いた。

 埃が舞い、震えるような静寂が訪れる。


「やっ……たか?」


 ケイゴが、拳を振りぬいた姿勢のまま、その場で凍り付いている。

 表情は警戒心に満ち、まるで生きている地雷の横に立つ兵士のようだった。


 ミツイは言葉を発さず、呼吸を整えながら短剣を再び構え直す。

 斜めに低く構えたその姿勢からは、一切の油断が感じられない。


 数秒──いや、もっと短かったかもしれないが、

 俺たち三人の間に、張り詰めたような沈黙が走る。


 そのときだった。


 空間が揺れたように感じた瞬間、目の前にパネルが現れた。

 淡い光を放つその半透明の表示は、俺たちが見慣れてきた“通知”だ。


【迷宮第一層ボスが討伐されました】


 その一文に、胸の奥がじわりと熱くなる。


【<毒よけの首飾り(下級)>がドロップしました】

【<仙人漢方>がドロップしました】

【初回討伐報酬として<スキル球:炎弾(下級)>がドロップしました】

【第一層完全マッピング報酬として<転送キー(階層限定)>を獲得しました】


 パネルが淡く明滅しながら、表示を一つずつ終えていく。

 すべての文字が消えたそのとき、俺たちの目の前──正確には、それぞれの足元に、小さな光がふっと現れた。


 手のひらほどのサイズの、金属製の鍵。

 細やかな彫刻の施されたその鍵は、まるで誰かの意志が宿っているかのように、静かに宙に浮かんでいた。


 手を伸ばすと、鍵はすうっと掌に乗り、しっくりと馴染んだ。

 見渡すと、ミツイとケイゴもそれぞれ同じものを手にしているようだ。


 視線を戻すと、虫が倒れていた場所──

 そこには、いくつかの光る物体が落ちていた。


 一つは、淡く赤く輝く宝珠。

 野球ボールほどのサイズだが、中心には脈打つような熱が宿っているように見える。


 一つは、シンプルな革紐に、黒ずんだ金属の輪がぶら下がっているネックレス。

 派手さはないが、妙な存在感を放っている。


 そして最後は、小さなガラス瓶に入った、ほんの一粒の丸薬。

 透明な瓶の中で、青みがかった粒が、微かに光を反射していた。


 手に取って、改めて確認する。


 ──<スキル球:炎弾(下級)>

 ──<毒よけの首飾り(下級)>

 ──<仙人漢方>


 それぞれ、確かな重みと手応えがあった。

 これが、俺たちが命を賭けて手に入れた報酬だ。


「……これで、一区切りだな」

 俺がぽつりとそう呟くと、ケイゴがにやりと笑い、拳を軽く握った。


「はっは! 途中、死ぬかと思ったがよ……何とか二人だけでやり切れたな! レベルも上がったし、上出来だろ!」

 興奮の余韻を残したまま、汗と土埃にまみれた顔を拭うケイゴ。その隣で、ミツイが少し肩を上下させながら、頷いた。


「はい……ギリギリでしたけど、無事に倒せて、ほっとしましたね。ただ……」

 彼女の視線が、空中に浮かんでいたログの一文に向かう。


 ──【第一層】


 俺も気になっていた部分だった。

 つまり、これはこの迷宮の“最初の層”ということだ。ならば当然、その先もある。

 何層まであるのか、どれほどの難易度が待っているのかは──現時点では、わからない。


「第二層以降の探索も視野には入れておくべきですが……今日のところは、一旦引き上げましょう。私もケイゴも、体力がもう限界です」

 その言葉通り、二人の装備は見るからにボロボロだった。

 ケイゴのシャツは裂け、ミツイの袖には血が滲んでいる。戦闘中に破損した防具や、手にした短剣の刃も欠けていた。


「そうですね……出てきたアイテムも気になりますし。今日はもう、切り上げましょうか」


 俺は目の前に落ちているアイテムへと視線を移す。

 スキル球、首飾り、そして丸薬──いずれも、ボスからのドロップ品だ。そしてもう一つ、三人の手元に現れた小さな金属の鍵。


 ボスのドロップについては、流石に戦闘に参加していない身空としては、所有権を誇示するつもりはなかった。

 ……というのも、件のアイテムがドロップした後、ポイント交換パネルの方にもアナウンスが表示されたからだ。


【第一層ボスの討伐により、交換アイテムが更新されます】


 試しに二人に感づかれないよう交換リストを開いてみると、そこにはさっき入手したアイテムが既に加わっていた。


 ──【仙人漢方         : 50,000P 】

 ──【スキル球:炎弾(下級)  : 75,000P 】


 以前、三鷹迷宮で見た<毒よけの首飾り(下級)>は既にリスト入りしていたから、今回追加されたのはその二つということだ。

 ただし、“鍵”は含まれていない。特別な性質を持っているのかもしれない。


 鍵を見つめながら、口を開く。


「この鍵なんですが……名前からして、多分、使うと入口まで戻れる類のものじゃないかと。いわゆる、転送アイテム?」


 ミツイも小さく頷いた。


「そう……ですね。転送だなんて、SFじみた話ですが、今までの出来事を思えば、否定もできません」

 言いながらも、彼女は真剣な眼差しで鍵を見つめる。すると──


「なるほどな! そんな便利なもんだったら、使ってみるか。どっちにしろ、検証は必要だろ」

 こちらの制止も聞かず、ケイゴが笑いながら鍵を掲げた。


 瞬間、ふわりと光が舞い上がり、その姿が霧のように溶けて──消えた。


「……まさか、警戒もなく使うとは思いませんでした」

 呆れたように呟くミツイに、俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


「どうしますか? 安全を考慮して、徒歩で戻ることも……私はそれでも構いませんが」


 たしかに、その選択肢もある。ただ、なぜだろうか。直感的に、この迷宮は“悪意”をもって罠を仕掛けるような構造ではないと感じていた。


「……いえ。使ってみましょう。きっと大丈夫です」

 俺も同じように鍵を握り、意識を込めて“戻る”ことを念じた。


 ──次の瞬間、世界が一度、白に染まった。


 光が引いた先には、見覚えのある光景が広がっていた。

 見覚えのある室内。その向こうには、迷宮の入り口である“穴”が口を開けていた。


「よお! 遅かったな!」

 胸を張って笑うケイゴの姿がそこにあった。


 続けて、再び光の粒子が舞うと、ミツイも現れる。


「……すごいですね、この距離を一瞬で」

 手にした鍵をじっと見つめる彼女の目に、驚きと興味が浮かんでいた。

 どうやら、転送キーの使い方は間違っていなかったらしい。


「よっしゃ! じゃあ凱旋と行こうぜ! まだ時間も早いし、待機してる連中も誘ってパーッと祝勝会と洒落込もうや!」

 ケイゴが陽気に提案するが、それをバッサリと遮る声が飛んだ。


「ダメです。今日はこの後、本部で報告がありますから……イトウさん、そういうことですので、申し訳ありませんがご一緒いただけますか?」

 ミツイが冷静に言い放つと、ケイゴが「あー……やっぱそっちか」と頭をかく。


 俺はふっと笑って、うなずいた。


「ええ、了解です。同行しますよ」









 * * *








 迷宮の外に出ると、待機していた隊員たちが一斉にこちらに駆け寄ってきた。

「お疲れ様です!」「お怪我はありませんか!?」

 次々と声が飛び交い、拍手が湧く。思った以上の歓迎ぶりに、俺は少し気圧された。

 ケイゴが「へっへ、まあな!」と得意げに手を振って応える一方で、ミツイは「ありがとうございます」と淡々と礼を返している。


 ……その隣で、俺はなんとなく座りが悪い気持ちでその様子を見ていた。


 一通りの称賛と労いが終わると、俺たちは簡単に装備を脱いで身なりを整え、七所神社の脇に止めてある、隊員の車両に乗り込んだ。


「さてと、こっからどうすんだ?」

 俺と一緒に後部座席に陣取ったケイゴが尋ねると、運転していた隊員がちらりとバックミラー越しに目線を投げてきた。


「本部指令よりの指示で、七所迷宮に関する正式報告のため、都内の駐屯地に向かいます」

 そう言って車を走らせること一時間と少し、車中で軽く飲み食いして小腹を満たしていると、見覚えのある建物が見えてきた。


「あ、あのときの……」

 三鷹迷宮のアレコレの後に連れてこられた場所だった。

 車が駐屯地の敷地に入ると、厳めしいゲートが開き、見覚えのある建物の間を縫うように進んでいく。数週間前まで、俺がここで過ごしていたのかと思うと、なんとも言えない感慨があった。


 隊員とは入り口で別れ、ミツイが先導する形で、俺とケイゴの二人がそのあとをついていく。ケイゴは初めて来る場所なのか、あちこちを物珍しげに眺めながら歩いていた。

「おー、結構でかい施設じゃねえか。ここで前に缶詰になってたんだっけ?」


「ええ、まあ。一週間くらいしかいなかったので、あまり詳しくはないですよ」

 そんな会話をしながら数分歩くと、白い壁と長テーブルのある簡素な会議室に案内された。

 中に入ると──その場に、数日前にあったばかりなのに、なんだか懐かしい顔が待っていた。


「お疲れ様です」

 姿勢よく立ち上がり、満面の笑みで出迎えてくれたのは、タケウチだった。


「車中からミツイに聞いてましたが、七所迷宮の第一層──ボス撃破、おめでとうございます」

 彼はそう言って、右手を差し出してきた。


 ……一瞬、何を求められているのか理解できなかった俺は、数秒固まってしまい、ようやくそれが“握手”だと気づいて慌てて手を出した。


「い、いえ……自分は見守っていただけですから、あんまり貢献は……」


「それでもです。ミツイたちにとって、後ろでイトウさんが控えていてくれるというのは、何よりの安心材料だったはずです」

 そう言って、タケウチは視線をミツイとケイゴに向ける。


「確かになあ。何かあってもイトウがどうにかしてくれるって思えたから、思い切って突っ込めたぜ。あれは心強かったな」


「ええ、倒れても助けてもらえるという安心感……後ろ盾として、これ以上の存在はいませんでした」

 真顔で言われると、こそばゆくて仕方がない。思わず視線をそらしながら、もにょもにょと口を動かしてしまう。


「そ、そんなことよりも……ボスからドロップしたアイテム、<識別の石板>で確認したいんですが」

 変に照れ隠しのように声が大きくなってしまい、自分でも少し気恥ずかしい。

 タケウチはそれを見て苦笑したが、すぐに表情を引き締めた。


「ええ、了解しています。すでに石板は準備してあります。まずはアイテムの確認から始めましょう」


 手際よく、会議室の端から取り出されたのは──見慣れた黒い石板。これが、迷宮アイテムの正体を解析するためのツールだ。

 俺たちはそれを囲み、再び戦利品と向き合うと、目の前にアイテムの情報が次々と現れる。




 ────────────────────────────────────────



【スキル球:炎弾(下級)】


 種別

 :スキル球 (アンコモン)


 効果

 :スキル《炎弾(下級)》を取得可能

 下級の炎弾を打ち出すことができる。

 威力や使用できる回数は、使用者の魔力に依存する。



 ────────────────────────────────────────




【装飾品:毒よけの首飾り(下級)】


 種別

 :装飾品 (レア)


 効果

 :装備している者が毒に罹らなくなる首飾り。

 ただし、猛毒などに効果はない。



 ────────────────────────────────────────




【消耗品:仙人漢方】


 種別

 :消耗品 (レア)


 効果

 :かつて仙人が常飲していたとされる仙薬。

 使用すると、すべてのステータスが一定値上昇する。

 また、この効果は永続する。


 ────────────────────────────────────────



【転送キー(階層限定)】


 種別

 :迷宮専用アイテム


 効果

 :その階層を踏破した証。

 使用すると、その階層の入口まで瞬時に転送される。

 使用できるのは手に入れたもののみで、他人は使用できない。

 更に、使用者の身に危機が迫っている場合は使用できない。


 ────────────────────────────────────────





「おお……これはすごい」


 目の前の<識別の石板>に浮かんだ文字列を見て、タケウチが低く唸った。

 彼の目は真剣そのものだったが、そこに浮かぶ興奮は隠しきれないようだった。


 表示された内容はアーティファクトほどではないにしろ、いずれも貴重なアイテムばかりだった。


「……イトウさん」

 唐突に、タケウチがこちらに向き直った。珍しく、声に迷いが滲んでいる。


「契約に抵触することは重々承知しております。ですが……このアイテム群、可能であれば、こちらで買い取らせていただくことはできないでしょうか」


 その表情は実に苦渋に満ちていた。

 タケウチという男は、責任感の強さが時折真面目すぎるほどに顔に出る。それだけに、こうして正面から頭を下げてまで頼み込んでくるということは、それだけ緊急性があるのだろう。


 けれど──俺としては、特に断る理由もなかった。


(交換ポイントで後から手に入れるし、ポイントの"目途"もある。ここで貸しを作っておいたほうが、後々やりやすくなるだろうな)


 相手にとっては喉から手が出るような品であり、こちらは必要であればポイントで補える。それなら、多少の駆け引き込みで譲ったほうが得策だ。


「ええ、もちろん構いませんよ。ボス戦についても、自分は見守ってただけですから」

 そう言って肩をすくめると、タケウチは一瞬目を見開き──そして、深く頭を下げた。


「……本当に、ありがとうございます。先のアーティファクトの件に続いて、心苦しい限りです。

 額面については、改めて正式にご提示させていただければと思います」


「いえいえ。代わりってわけじゃないんですが、ちょっと相談があるんですが──いいですか?」

 俺が話を切り出すと、タケウチは一瞬、警戒をにじませながら身を正す。


「……なんでしょうか。これまで便宜を図っていただいているぶん、できる限り誠意をもって対応いたします」


 その構え方に少し笑いそうになりながらも、俺は本題に入った。


「今日、七所迷宮でボスがいたじゃないですか。たぶんですけど、あれ、三鷹迷宮にも同じようにボスが存在してると思うんですよ」


「……ええ、それは私たちも仮説として立てていました」


「で、それに挑んでみたいんです。今度は──自分一人で」


 言葉を区切って言うと、室内にほんのわずかな沈黙が流れた。

 横で聞いていたミツイとケイゴが、ぴくりと眉を動かすのが見える。


「もちろん、監視として誰かに同行してもらっても構いません。ただ、戦闘そのものには自分以外は手を出さない形で」


 タケウチは、しばらく黙ったまま目を伏せて考え込んでいた。

 その顔には、慎重というよりも、懸念と納得が入り混じったような影が浮かんでいた。


「……三鷹迷宮の、ボスですか」

 繰り返すように呟いたあと、彼は意を決したように顔を上げた。


「わかりました。こちらから掛け合ってみます。その上で、可能であれば──私が同行させていただけないでしょうか」

 思わぬ申し出に、俺だけでなく、ミツイとケイゴも軽く驚いたような顔をした。


「……タケウチさんが?」


「ええ。私も三鷹迷宮の内部調査を進めるよう、"上"から強く要請されておりまして。ご迷惑でなければ、同行させていただきたいのです。あくまで監視と補佐として──戦闘には一切干渉しません」


 その言葉には、明確な誠意と、そして何かの使命感がにじんでいた。


「もちろん、構いません。むしろ、よろしくお願いします」

 そう返すと、タケウチの表情が柔らかくなる。


「ありがとうございます。では、実施に向けて手続きと許可の取得に少々時間をいただきます。

 週末までには整えられるよう尽力しますので、それまでお待ちいただけますか?」


 二、三日とのことだったので、自分の予定を頭の中でざっと組み直し、頷いた。


「問題ありません。それまで、ちょっと"買い出し"でもしながら準備しておきますよ」


 さあ、ポイント回収と、──俺一人で挑むボス戦だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ポイント大量獲得の為にも、粗大ゴミが大量にある場所へ行きませんか? 夜中にコッソリ産業廃棄物置き場とか、山間部の産廃不法投棄現場とか。 頑張れば一晩で億単位のポイントゲットですよ?
ボスドロップですが、回収の描写が無いのでそこもちょっとあると自然ですかね。 当然回収したんだろうとは思ってましたが、アイテムボックスに入ったのかポーチに突っ込んだのか、はたまた両手で抱えてたのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ