怠惰は空白になりうるか【完結】
月曜日は嫌いだ。多分、僕だけじゃない。せっかく土日で回復したのに、また戻ってくる「日常」。土日が日常にならないだろうか。2月の寒さに僕は布団から出たくない。
ずっと土日なら、きっと、楽なんだろう。
さっきから鳴りっぱなしになっているスマホのアラームを切る。ああ、今日はどんな「ストレス」が待っているんだろうか。
僕はアラームを止めて何となくロック画面を見る。
……あれ?
そこにはありえないことが起こっていた。
土曜、だったんだ。
いや、今日は月曜日だ。しかも、日付もおかしかった。そこには「未来」の日付が表示されていた。今日は2月3日の、月曜のはずだ。でもそこには2月8日、土曜と書いてあった。5日先……? 一体どういうことだろう?
何かの間違いだろう。僕は制服に着替えて、家を出る。
いつもなら、通勤通学の時間だ。制服やスーツ姿の人で埋め尽くされている駅前が、「休日の賑わい」だった。各々が、この休日の土曜を謳歌している。
僕だけが、浮いていた。
最寄駅につき、いつも通り改札を潜ってホームで電車を待っていた。しかし、電車は来ない。遅延でもしているのだろう。僕は待ち続ける。なかなか来ない。
もう一度スマホを見る。やっぱり「土曜」と表示されていた。
電車は来た。でも、それは「土日ダイヤ」だった。僕はその「事実」をなんとか理解しようとする。
――もしかして、僕は本当に「土日しかない世界」いるのだろうか?
トボトボと歩いて学校のある坂道を登る。誰もいない。僕の制服だけが、時間を食べている。しかし教室にまで行っても「誰も」いなかった。誰もいない?
今更になって僕は混乱する。
誰もいない教室。しん、と静まり返ったそこは、余計に僕の焦燥を煽ってくる。帰りの電車もやっぱり土日ダイヤだった。
その薄ら寒さ。
一晩経ち、朝になってスマホを見ても、そこには昨日の土曜の次の日……2月9日、日曜日、と表示されていた。
家で取っている新聞も、日曜版になっていた。
日付は、「僕でいう火曜日だったはず」なのに、日曜にすり替わっていた。
嫌な、予感がする。
その「日曜」が終わろうとしている。
僕は至極冷静に考える。――本当に「明日」が「土曜」だったら……。
僕はベッドに潜り込む。こんなに眠ることが怖いとは思わなかった。この薄ら寒さはどんなに布団を被っても、消えなかった。
次の日……。
――やっぱり、そこには5日後の「土曜」と表示されていた。初めてゾッとした。心臓の音が、分からない事実に脈打ち始める。
僕の、5日間はどうなっているんだろう。
誰が、僕の5日間を過ごしている?
それは本当に僕なんだろうか?
授業で使っているノートには、知らないことが書いてあった。僕の筆跡で。
知らない、僕がいる。
LINEのメッセージも、知らないやり取りが続いていた。「明日サボるから、ノートお願い」「自分でやれ」などとくだらないメッセージが繰り返されている。
知らない間に過ぎていく5日間。ずっと続く「土日」。
僕はそれに抗う手段を知らない。
延々と続いていく、待ち望んだはずの「空白」の時間。
僕は、「毎日」空白を生きていく。