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病院のELLY その2

「病院のELLY その1」の続きです。

病室を出てナースルームに戻ると、少し慌ただしい雰囲気が漂っていました。

「何かあったんですか?」

「どこかの患者さんが亡くなったそうよ。」

「そっか…大変なんでしょうね。」

「私たちにはわからないもんね。」

ELLYは担当患者さん以外の情報は遮断されています。

昔、患者さんのデータが混同した事があったとかで、そういう風になったそうです。

私も、あの人以外の患者さんの情報は名前すら持ってません。

それでも、他の患者さんとコミュニケーションを取る場合があるので、私たちは担当患者さんも含めて全員を『患者さん』と呼びます。

「あなたたち、仕事はどうしたの?」

看護師長さんが気に掛けてくれました。

「そうだった…!」

私は患者さんのデータを院内のサーバに上げます。

ここまでが一連の業務です。

比奈子先生が居ない今、私は暇になってしまいました。

「看護師長さん、少し院内を見て回ってきます。」

「はい、行ってらっしゃい。」

タスクを消化したELLYは院内を見て回ります。

そうする事で他の看護師さんの手助けをするのが本来の看護師ELLYだからです。

外科、整形外科、内科、消化器科、耳鼻咽喉(じびいんこう)科、眼科、皮膚科、小児科…

患者さんが集まってるのは、受付の待ち合い席、内科方面にあるテレビ付きの談話スペースと小児科の隣にあるキッズスペース。

午後の時間帯はお見舞いに来る方も多くて、少し混み合ってます。

遠くから聞こえる声は、亡くなった患者さんのご家族でしょうか…?


「いえーい!」

突然、ズボンを下ろされました。

比奈子先生が面白がって履かせたパンツが露になります。

私としては何とも思いませんが、これは一般的に軽犯罪法や迷惑防止条例で取り締まられます。

ちゃんと対象しなければなりません。

振り向くとパジャマ姿の少年…たぶん患者さんです。

「患者さん、ダメですよ?」

「ちぇっ…ELLYかよ。つまんねーの。」

これはキツく叱る必要がありそうです。

私は患者さんを捕まえます。

「そういう言い方はよくありませんよ。」

「なっ…!離せよ!バーカバーカ!」

これは減らず口というやつですね。

反省の色がありません。

「担当看護師さんに言いつけますよ!」

たまにはビシッと言います。

「うっ…」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい…」

ちゃんと謝ったので放します。

「おらっ!」

蹴られました。

が、少年の方が痛がってます。

「だ、大丈夫…ですか?」

涙目で睨まれます。

因果応報だと思いますが。

「うっせ!えっと…ブス!バーカバーカ!」

悪口のバリエーションがありませんね。

少年は走り去って行きました。


「ハァ…ハァ…災難だったわね。」

同僚の看護師の『尾崎』さんが駆け寄ってきました。

「いえ、私はELLYなので大丈夫です。それより、患者さんの方が心配になりました。思い切り蹴ってたので…」

「心配、ねぇ…確かに、後で見ておくわ。ホント、困った子なんだから…」

「そう言わないであげましょう。きっと寂しいんですよ。」

ここには色んな患者さんが居ますが、特に小児科で入院してる患者さんたちは殆どが難病を抱えてますし、家族や友達とも会えなくて寂しい想いをしてると思います。

前に『これは病院全体として支える問題だ』って看護師長さんは言ってました。


「そう言えば、ハルカちゃんの担当って誰だっけ?」

「相澤さんですよ。」

「えっ…あのエロじじい…!?」

「しぃーっ…!声が大きいですよ…!聞かれたらどうするんですか…?」

「ごめんごめん。そっか、相澤さんって今ハルカちゃんが担当してたのか…大丈夫なの?」

「ハイ、大丈夫ですよ。それに、ちゃんと接すると優しいお爺ちゃんですから!」

「ハルカちゃん、あなた良い子すぎるわよ。」

「そうですかね…?」

気持ちはわかりますけど、ホントに優しい人なんです。

だって、この病院で働く看護師ELLY全員の顔と名前が一致してるんですから。


「さてと、そろそろお灸を据えに行こうかしら。」

「程々にしてあげてくださいね?たぶん足も痛いでしょうし。」

「わかってるわよ。」

尾崎さんがウインクして病室へ向かいました。

仕事はテキパキ早いし、私みたいなポンコツの面倒も見てくれるし、本当にいい先輩です。

「きゃーっ!」

な、なんでしょう…?

凄い音と悲鳴がしました。

「やったぜ!」

男の子が走り去って行きます。

どうやら足の方は大丈夫だったみたい。

「ちょっ…待ちなさーい!」

びしょ濡れの尾崎さんが追い掛けて行きます。

この騒がしさだと、たぶん看護師長さんに見つかると思うので、私は他の場所へ行こうと思います。

触らぬ神に祟りなし、と云うやつです。


──ナースルームまで戻ってきました。

時間的にコールがあった時に出られる人が減るからです。

予想通り、2人しか居ませんでした。

「これしか居ないんですか?」

「いいえ、2人訪室中よ。」

「4人で回ります?」

「ギリギリね。ハルカさんが来てくれて助かった感じ?」

同僚の看護師さんが記録用のボールペンを回しながら話します。

「よかった!何となくみんな担当に出ちゃう気がしたんですよね~」

私は座席に座って寛ぐフリをします。

「そう言えば、岩木先生は?」

「比奈子先生はお昼頃に出掛けましたよ!」

「あぁ、だから来たのね。」

「ハイ!」

待機中は、基本的に暇だからお喋りしてます。

一応、訪ねてくるお見舞いの方たちの対応や、常備している物のチェックなどの作業もしますけど、そんなに頻繁ではありません。

「じゃあハルカさんには応対を任せようかな。」

「わかりました!」

私はナースルームの受付に立って待機します。

何時間でも立ってられるELLYの本領発揮です!

「助かるわ~」

同僚の皆さんもお茶を飲みつつ噂話をしてます。

他の患者さんの話っぽいので、聞いた側から忘れてるような感覚があります。


「あの…すみません。✕✕さんの病室ってどこですか?」

私はコール表の名前と一致する病室と道順を教えます。

患者さんの名前は覚えています。

けど、名前と顔は一致しません。

このセキュリティは院内にあるRAINのサブシステムが緊急時であると判断しなければ解除されません。

見回りの時に私のズボンを下ろしてきた小児患者さんも、今では男の子だったのか女の子だったのかすら、わかりません。

私がいつでも名前と顔を一致させられるのは、担当している相澤さんだけです。

本音を言えば、入院している患者さん全員の名前と顔を一致させたいです。

だって、相澤さんみたいに私たちELLYを覚えててくれる人が居るんですから。


──ナースコールの音が鳴る。

「ハルカさん、相澤さんのコール入ってるけど、行く?」

「ハイ、すぐ行きます!」

私は相澤さんの病室へ向かいました。

「患者さん?どうしましたー?」

「おぉ!ハルカちゃんが来てくれたか…!」

「たまたまナースルームに居たので。」

「そうかそうか。じゃあ運命だな!」

運命…

「あの、患者さん…ELLYである私に、運命ってあるのでしょうか?」

私は思わず訊いてしまいました。

「ハルカちゃんは面白い事を考えるねぇ…けど、そうだなぁ…」

相澤さんは無い髭を撫でる仕草をします。

「例えば、ハルカちゃんが看護師になったのは運命だと思うかい?」

「いえ、私が看護師なのは野座間重工がそう設定して私を出荷したからです。」

「じゃあ、ハルカちゃんは看護師が向いてると思うかい?」

「えっと、私…失敗ばかりしちゃって…」

「ELLYが失敗か…面白い。」

相澤さんは何かを考えてます。

「じゃあ最後に、ハルカちゃん。この仕事は好きかね?」

好き…?

「私は…たぶん、好きだと思います。失敗したり、大変な事も多いですし…なぜかと訊かれると答えられそうにありませんけど…」

「なら、キミが看護師になったのは運命だよ。運命とは、そういう説明ができない時に使われるものだ。」

そうなんだ…

私の手の甲が淡く光ってます。

私が思っている以上に、私は何かを考えているようです。

「大いに考えなさい。ELLYはそうあるべきだ。」

相澤さんの普段らしからぬ真面目な雰囲気。

この人は、本当にRAINを開発した人なんだ。


「さて…テレビをつけてくれるかな?」

「あっ、ハイ。わかりました!」

私はテレビの電源を入れました。

ニュース番組が流れています。

「今日はこのニュースばかりやっていますね。」

でも不思議です。

この事件に関する警察の発表は無いはずなのに、どうしてバラバラ殺人だとわかるのでしょうか…?

目撃者の方が真実を語るとは限らないような…?

そもそも本当に目撃者かどうかの判断はどうやって…?

「あの、この事件って本当にバラバラ殺人なのでしょうか?」

「どうしてそう思うんだい?」

「私の記憶の中では、警察からの発表は無かったと思いまして…」

「ふむ…確かに、言われてみればおかしいな。だがな、ハルカちゃん。ニュースってのはそういうものなんだよ。」

「そういうもの?」

「勝手なもの、という事だよ。」

「それは実体験ですか?」

「…そう、だな。」

「あっ…!すみません、嫌な事を…」

「いや、気にしないでくれ。確かに、野座間には煮え湯を飲まされたが…キミたちELLYがこうして動いてるのは単純に嬉しい。ATOMじゃ色気が無いしな?」

相澤さんが私たちを見る目は、いつも優しいです。

セクハラする時もありますけど…

なんて思っていたら、お尻を触られました。

「患者さん…!」

「患者って誰かのぉ?」

「あ・い・ざ・わ、さん…!」

「ふっふっふっ…わしの名前を呼んだな?」

「あっ…」

私は思わず手で口を塞ぎました。

「RAIN、今の記録を隔離せい。」

──相澤史郎(マスター)の指示により記録と個体情報のリンクを切断。

「記録は例のフォルダに移動。」

──承知しました。実行完了。


──あれ?私は何を…?

「ハルカちゃん。そろそろ名前で呼んでくんない?」

「ダメですよ~患者さんは、患者さんです…!」

「頑なだなぁ…w」

…まぁ、いっか!


簡単な登場人物紹介

・少年…クソガキ。難病で入院しているのに、最近は家族の見舞いが減ってきている。

・尾崎さん…主に小児入院患者を担当しているベテラン看護師。

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