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警察官のELLY その4

「警察官のELLY その3」の続きです。

渋滞に捕まった僕は抜け道を使って現場についた。

「計算通りでしたね。」

突然抜け道を提案された時は朔夜の成長に驚いたが、僕が知らないだけでELLYと云うのは元からこれくらいの速度で成長するのかもしれない。


現場には既にブルーシートの囲いが作られていて、何人もの警察官が野次馬の対応を行っていた。

その中には、まだ朔夜に会わせていない捜査員の姿もあった。

「『仙石さん』、状況はどうですか?」

僕は一番近くに居た同僚に声を掛けた。

「ん?あぁ、青井くん…と、その子が例の?」

仙石さんは野次馬対応をしつつ、答えてくれた。

僕は手袋を用意しつつ朔夜の紹介をした。

「そうです。彼女…朔夜が新しい相棒になりました。」

「朔夜です。これからよろしくお願いします。」

最早慣れた行動なのか、朔夜は手の甲を光らせる事なく仙石さんに会釈をした。

段々と人間に近い反応になってる朔夜を僕は微笑ましく思う。

「遂に私以外の女の子が捜査課に入るのね。」

仙石さんは少し嬉しそうだ。

まぁ、捜査課ってむさ苦しい男所帯だもんなぁ…

「私、初めての現場で緊張してます。」

朔夜の手の甲が淡く光っている。

彼女はこれを緊張と表現したか…面白いな。

「まぁ、臨場なんて何回やっても緊張するわよ。」

現場慣れしてる仙石さんが後輩に優しく言葉を掛ける。

※臨場とは、現場の初動捜査を指す警察用語で、交番勤務の警察官たちによる現場保全、鑑識官による証拠保全、そして僕たち本部の警察官による周辺調査や機動捜査が主な内容である。※


証拠保全に一区切りがついたのか、現場を覆っていたブルーシートから鑑識官が出てくる。

そろそろ僕たちも現場に入れる頃か。

僕は朔夜に手袋を渡し、嵌めるよう指示した。

「それじゃ、行くわよ。」

仙石さんは気合いを入れた。

僕も気合いを入れた。

朔夜は手袋を嵌めるのに手間取っていた。


ブルーシートを捲り、中へ入る。

既に何人かの警察官が現場の様子を見つつ鑑識官の話を聞いていた。

「おっ、お前も来たのか。」

「まぁ、近かったんで。」

「その子はELLYか。お前も苦労するなぁ?」

「『土門さん』も、クマできてますよ。」

ヤ○ザみたいな見た目にクマが追加されて相当怖い。

「張り込み終わりで直行さ。帰って寝ても良かったんだけどな。」

「やっぱ組織関連は大変そうですね。」

「そこは元四課の意地で乗り切るさ。」

土門さんの空元気は、加賀の徹夜と同様に心配になる。

育ち盛りの娘さんたちの為にも頑張ってるんだろうな。

…この前「洗濯物別にしてって言われた」とか言ってたけど。

「二人共、現場では集中。」

仙石さんは若いが、捜査課では大先輩だ。

交番上がりの僕なんかは捜査課(ここ)に来た頃、仙石さんの世話になりっぱなしだった。


現場は前回と同様、一般に流通してる義肢や臓器よりも精巧な作りのパーツたちに何かが蠢いてる。

「前から思ってたけど、これって義肢のバイオ部分が喰われてるって事よね?」

仙石さんの顔が少し引き攣っている。

「だろうな。四課に居た頃、結構グロいのを見てきたが…これはかなりキツいな。」

向こうで他の警察官が嘔吐(えづ)きながら出ていった。

チラッと朔夜を見たが問題なさそうだ。

こういうのに強いのがアンドロイドの強みかもな。

「こんなに虫が寄る程バイオパーツを使った場合、義肢は形を保持できないと思います。」

朔夜が冷静に分析している。

「その通りですね。何件も鑑識してますが、本当に不思議です。」

鑑識官のひとりが私見を述べた後、現場の状態を教えてくれた。


前回と同様に、義肢と臓器がブルーシートに覆われて放置されていた事。

幾つかには人工的に切断された跡があった事。

虫に喰われる程バイオパーツが使われている事、同様に腐敗が進行している事。

ここまで精巧なパーツはどこにも流通していない事。

そして、それらの投棄が、誰にも、何にも目撃されていない事。

これがこの事件の共通点だ。


「最大の謎は目撃証言の無さだな。」

いつの間にか加賀が居た。

「加賀、来てたのか!?」

こういうのを心臓に悪いと云うのだろう。

仙石さんも驚いていた。

「ちょっと!驚かせないでよ~!」

胸を撫で下ろしたと云った感じだ。

「わりぃな。そういうつもりじゃなかったんだが…」

加賀は頭を軽く掻いてる。

「まぁまぁ、とりあえず聴き込みは済んでるようだし、本部に戻ろうや。」

この中の最年長である土門さんが纏めてくれた。

「じゃあ、そういう事で!」

仙石さんも加賀も異論はなかった。

もちろん僕や朔夜も。


──みんなはそれぞれの車に乗り込む。

「あれ?仙石さん…車は?」

「乗せてってよ。土門さんも加賀くんも運転荒くて…」

なるほど、確かに。

「わかりました。じゃあ、行きますね。」

僕はペダルを踏んで車を進ませた。

朔夜の警告は聞こえてこない。

運転中、仙石さんは朔夜に話し掛けていた。

「ねぇ朔夜さん、調子はどう?」

まるで人間に話し掛けてるようだ。

「少々内部温度が上昇してますが大丈夫です。」

春先とは云え、昼過ぎになると少し暑い。

「内部温度とか言っちゃダメよ?ちゃんと暑いって言わなきゃ!」

どうやら仙石さんは朔夜に人間的な返答を求めてるらしい。

「わかりました。ちょっと暑いですね。汗を掻きそうです。」

「もっと砕けた感じで!」

「マジ暑い…ワイシャツ透けちゃう~」

「ぶはっ…!」

僕は思わず吹き出した。

「さすがに砕けすぎよ~」

仙石さんは楽しそうに朔夜と話していた。


──本部につくと、課長や加賀たちの他にも捜査員が居た。

「ただいま戻りました~」

仙石さんが僕たちの帰還を知らせてくれた。

「戻りました!」

朔夜が真似をするように言った。

和泉がチラッとコチラを見たが、すぐに情報の整理に戻った。

「お疲れさん!その子が例の朔夜って子かい?」

課長同様にハゲ散らかしたおっさんが話し掛けてきた。

「朔夜です。よろしくお願いします!」

慣れた動きで挨拶をする朔夜。

仙石さんのお陰か、だいぶ親しみやすい感じにはなったかな。

「おう。俺は『上杉』だ。よろしくな。」

誇張なしに額がキラリと光る。

「朔夜、上杉さんは僕たちとは違う班だけど凄く頼りになる人なんだよ。」

これも誇張はない。

僕だけじゃなく捜査一課の誰もが、大ベテランの上杉さんから多くの事を学ばせてもらってる。

「おいおい、そんなにハードル上げないでくれよ。俺はそういうの潜るタイプだぜ?」

上杉さんは軽い冗談を交えて場を柔らかくしてくれる。

たぶん事件が難航してるからだろう。

「さて、私語はこの辺りにしておこう。」

課長が話を進めていく。

内容はさっき鑑識官から聞いた事と大差は無く、最大の疑問の『なぜ全く目撃情報が無いのか?』に焦点が絞られていた。

どの現場も比較的見通しが良いので近隣住民の目撃情報があっても良さそうなものだが、周辺への聴き込みではそういった情報はゼロ。

上杉さんが居る班の刑事たちが現場周辺の防犯カメラを全て調べ上げたそうだが、そこにも怪しい人陰は無かった。

ただし、どの現場も見通しが良い場所だった為に防犯カメラには死角が多く、現場自体も絶妙にカメラ位置から外れた場所だった事が確認された。

「つまり、犯人は意図的にカメラの死角を狙った…?」

仙石さんが一番に発言した。

「そういう事だろう。最初は場当たり的な不法投棄かと思われたが、状況は綿密な計画の下で行われている可能性を示している。ここからは慎重な捜査を行い犯人側に進行状況を悟られないようにしなければ、最悪の場合は逃走されてしまうだろう。わかったな?」

課長の目には普段以上の気合いが宿っている。

「「「了解!」」」

加賀、仙石さん、土門さんが息を合わせたようにハモった。

「りょ、了解!」

「了解!」

遅れて僕や朔夜も続いた。

「お前ら仲良いな!」

上杉さんがツッコんだ。


「ちょっと待ってくれ。」

データの整理をしてた和泉が加わった。

「これを見てほしいんだ。」

和泉が防犯カメラの映像を見せてきた。

そこにはフードを目深に被った"いかにも"な人物が映っていた。

「こいつは…」

加賀が顎に手を当ててる。

「流石に怪しすぎるわね…」

仙石さんが呟いた。

僕もそう思う。

「しかし調べない訳にはいきませんね。」

朔夜も会話に加わる。

なぜか土門さんが嬉しそうにしてる。

娘とダブらせてるのか…?

まぁ、いいか。

「だがフード被ってるからって犯人にはできないぞ?」

僕がツッコむ。

「それなんだがな…」

和泉は画面を見ながら呟き、他の防犯カメラ映像も見せてきた。

「これはさっきの映像とは別のカメラ…と言うより別の現場の防犯カメラで~…あ、ここだ。」

映像に映ってたカーブミラーを指差す。

「次に~…これ。」

要約すると、和泉は各現場の防犯カメラからミラーの反射や見切れてる衣服の特徴などで同一人物を割り出してみせた。

「つまり、このフードの人物は全ての現場に居合わせた可能性があると?」

課長が問い掛ける。

「断言できますよ。」

そう言って和泉は各映像から3Dモデルを生成してPC画面上で照合させた。

「科捜研も悔しがる俺の才能が唸ってしまったな~」

そこには適合率98.5%という数字が出ていた。

「科捜研が悔しがるかは別として、この人物を重要参考人に指定。捜査は慎重に行うため、箝口令を敷く。」

和泉から一斉メッセージが届いた。

事件捜査の進捗を他部署の警察官やELLYたちに漏らさない事、捜査に参加してるELLYは記憶をローカル保存する事、(居ないとは思うが)家族や報道関係者に漏らさない事などが書いてあった。

「毎回思うけど…和泉って天才だ何だ言う割にこういう細かい事に積極的だよな。」

「ふふっ…そ、そうね…w」

僕の呟きが隣に居た仙石さんのツボにハマったらしい。

「ふふっ…w 雑用…w 和泉さん…w」

そんなにおかしな事言ったかな…?

仙石さんはしばらく震えていた。


簡単な登場人物紹介

・仙石茜…捜査課の紅一点。黒髪のショートヘアで10代に見えるくらいには童顔。ナメて掛かると得意技のガードをブチ抜く中段突きが炸裂し、相手は死ぬ。

・土門信也…二児の父。捜査課の中でも血の気が多い暴力団絡みのアンドロイド事件を担当する。見た目的にはどっちがヤ○ザがわからない元捜査四課。

・上杉さん…勤続35年の大ベテラン。課長と同世代。


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