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警察官のELLY その3

僕は車に乗り込んだ。

自分のじゃない車を運転するのは久々だから気を付けないとな。

アシストのお陰でペダルを踏むだけとはいえ、車の運転は知識と技術が無ければ命に関わるものだ。

それに、警察官はアシスト無しで運転できなければ逃走する犯人を追う事ができなくなる。

いつかは朔夜にも交通科の犯人追跡トレーニングをさせて独り立ちできるようにしないといけない。

まぁ、まだまだ先の話だが。


本部へ戻る道中の信号待ち。

平日の昼間だってのに制服姿のギャルが公園のベンチに座ってるのが見えた。

普通ならサボりの学生なんてもんは交番に任せる所だが、少し気になった僕は近くに車を停めた。

「朔夜、少し待っててくれ。」

「わかりました。」

僕は朔夜に車番をさせて公園へ向かった。

やっぱりそうだ…あの脚、見慣れないタイプだが義足だ。

「あの、ちょっといいかな?」

「何…?」

ギャルらしくワイシャツのボタンを開け、スカートを折り込んで短くしてる彼女。

僕を警戒してるのか半身で身構えている。

武道の素養でもあるのだろうか?

トラブルにはしたくない、しっかりと身分を明かして正攻法で話を訊こう。

「あ、いや…幾つか質問に答えてほしいだけなんだけど、いいかな?」

僕は警察ライセンスを見せる。

「…任意だよね?あたしがダメって言ったら?」

そう言われると困るなぁ…

こりゃあ普段から職質されてるな…?

「…サボってるのを学校に伝えるだけかな。その制服、この辺の学校だろ?」

「ハァ…いいよ、わかった。で?何が聞きたいの?」

彼女の仕草から早く済ませたいってのが伝わる。

まぁ、所詮は知らないおっさんだろうしな…

「その、キミの義足について訊きたくてさ。」

僕は彼女の脚をちょんちょんと指差してみた。

「へ?」

僕の問いが予想外だったのか、彼女は気の抜けた声を出した。


「…その義足、ちょっと珍しいタイプだよね?」

彼女の意を汲んで早々に本題へ入る。

「ひなちゃんの特注だから当たり前だよ。」

「ひなちゃん?」

「この先のでっかい病院の先生だよ。」

この先って、三多摩メディカルセンターか。

ひなちゃん…そういえば、あの人の名前…

「…もしかして、岩木先生?」

「知ってるんだ?」

「今さっき、病院で話を訊いてきた所なんだよ。岩木比奈子だからひなちゃん、だろ?」

「あー、それで帰り道であたしを見掛けたからナンパしたんだ?」

「…ナンパではないけどね?」

「じゃあオジサンって、さっきニュースでやってたバラバラ事件の捜査してる?」

「おっ…よくわかったね?」

「普通わかるよ、これくらい。」

彼女はベンチに座ったまま脚をブラブラさせている。

「いやいや、ちゃんとニュースを見てるのは偉いって話さ。」

「まぁ…バカって言われたくないからね~…」

彼女の表情が曇った。

何かあったのだろうか?

「アハハ…ごめんごめん。ちょっと決めつけちゃったね。」

「ううん。いいよ、ホントはバカかもしれないし。」

やっぱり何かあったんだな…?

「何かあったのかい?警察官として、よかったら相談に乗るよ?」

「ん?あぁ…そんな深刻な奴じゃないよ。ちょっと友達と喧嘩しただけ。さっきのオジサンみたいに決めつけてさ、茶化しちゃったんだよ。」

「あぁ…そういう事か。」

「それで、バカって言われてさー…それを思い出したの。」

「その様子じゃ仲直りはまだみたいだね。」

「うん。まだ。どうしようかなって。」

「もしかしてそれでサボってる?」

「それだけじゃないけど…半分くらいはそう。」

「謝るなら、二人きりの方がいいよ。」

「わかった。そうする。」

彼女は話して楽になったのか、気を遣ってくれたのか、表情が少し明るくなった。


「まぁ、でも、キミがサボってる事情はわかったよ。ついでに義足を使ってる人の事も少しわかったしね。」

僕自身、義肢というものがピンときてなかったから、実際に見るのは大事だった。

「そうなの?義足(これ)の話って殆どしなかった気がするけど?」

「実際に見る事が大事なのさ。知識の方はあるからね。」

僕はこめかみの辺りを指でトントンした。

「ふーん、やっぱり警察官って凄いんだね。」

「まぁ、これが仕事みたいな所あるから。」

「そういう事なら、あたしもオジサン見ててわかった事あるよ。」

「ん?なんだい?」

「オジサンってさぁ、もしかして…」


彼女がそう言い掛けた時、

「青井さん。」

車番を任せていたはずの朔夜が、そこに居た。

「さ、朔夜…?どうしてここに…?」

朔夜の手の甲が淡く光っている。

「緊急の連絡がありました。新たな事件が発生しました。」

「何っ!?」

「え?事件?」

しまった、彼女にも聞こえてしまった。

朔夜に隠語を覚えさせるのを忘れていた。

「ごめん、そろそろ行かないとダメみたいだ。あと、事件の事は内緒で頼むね。」

「うん、内緒ね。いいよ。けど楽しかった。たまには不審なオジサンと話してみるもんだね。」

からかわれている気がする。

「あまりサボってると本物と遭うぞ!」

僕は警察官としてビシッと釘を刺した。

「はーい。気をつけまーす。」

僕は彼女の緩い返答に手を振りつつ、公園を後にした。


──僕と朔夜は車に乗り込んだ。

朔夜が言われなくてもナビを設定している、着実に成長している。

そこに課長から連絡が来た。

「現場に寄らず帰ってこい!」

課長は僕たちが情報を得るであろうと予測していたのかもしれない。

「朔夜、このまま本部に戻ろう。」

そう言うと朔夜はナビを本部へ修正し、僕はアクセルを踏んだ。

三多摩メディカルセンターから警察署までの道は国道へ繋がる事もあり、行きはサクサクと進んでいたが、時間と共に混み始めていた。


僕は赤信号で待ちながら

「データを纏めておいてくれ。」

と朔夜に頼む。

「共有はしますか?」

「いや、まだいい。漏洩の可能性はできるだけ避けたい。」

「わかりました。」

どんなに技術が発展しても漏洩を完全に防ぐ事はできない。

RAINのようなAIでもクラッキングされる可能性はゼロじゃないし、ELLYのようなスタンドアローンでの活動が可能な機械であっても、それは同様だ。

ましてや警察署のサーバーなんてものはそれらに比べれば脆弱で、現代の技術では覗くくらいなら専門的な知識がない者でもELLYの違法モジュールやプログラムで可能かもしれない。

だからこそ現場の画像などは物理的なシートに焼き付けて保存する事でデジタル面での流出を防いでいる。

「…っと、中々進まないな。朔夜、課長に連絡して渋滞に捕まった事を伝えておいてくれ。」

「青井さん、提案があるのですが。」

朔夜の手の甲は淡く光を放っていた。






簡単な登場人物紹介

・義足のギャル…17歳の高校生。怪我をして陸上を辞めた。当時は黒髪のショートヘアだったが、現在は髪を伸ばして明るい茶髪にしている。

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