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病院のELLY その1


──2095年、6月2日(Thu)、13:05

三多摩メディカルセンター

医療モジュール…エラーコード:0x80004005

介護プログラム…正常

RAINとの接続…条件付き良好

────────────────


「失礼します!比奈子先生~?いらっしゃいますか~?」

私は医学研究科の岩木研究室の扉を開き、声を掛けた。

「あれ…?先生?居ないんですか~?」

辺りを見渡しても比奈子先生は居なかった。

私はソファに座り、少し待つ事にした。


──私の名前は『ハルカ』。

今回、訳あって三多摩メディカルセンターにやってきたELLYタイプの医療型アンドロイドです。

と云うのも…私って結構ドジみたいで、前に居た病院では患者さんの名前を間違えたり、カテーテルや注射器の扱いを間違えたりと…自分でもロボットとしては致命的だと思ってるんです。

こんな様子だから…「今度こそ解体される~!」って思ってたんですけど、岩木比奈子ってお医者さんが私に興味を持ってくださったみたいで、それで関西の病院からこちらに転属?される事になったんです!


廊下から声が聞こえてきます。

この声は比奈子先生です!

「あら、ハルカ、来てたのね?」

「先生!こんにちは!じゃなかった…こちら、患者さんの経過報告書です!」

私はこれを渡しに来たのでした。

カルテや報告書はデジタル化されてPCや端末でも確認できるようになってますが、比奈子先生はズボラなので直接渡すように看護師長さんに言われてます。

「いつもありがとうね。ハルカが居て助かるわ。」

後ろに居た男の人には見覚えがあります。

「岩木先生、彼女は?」

「紹介するわ、えーっと…私の助手のハルカ。」

「初めまして!ハルカです!よろしくお願いします!」

私はお辞儀をした。

挨拶は大事です!

「おう、初めまして。なかなか元気なELLYだな。俺は加賀って云うんだ。刑事をやってる。」

加賀さんはお疲れに見えます。

警察官と云うお仕事が大変なのは知っていますが、お役に立てそうな事はありません。

「ハルカ、私はしばらくこの人と話すから…」

「わかりました!じゃあ片付けしちゃいますね!」

比奈子先生はお部屋を片付けないので散らかってます。

なので私が毎月1回は片付けをします。

不思議な事に、看護師として活動する時はミスばかりしてるのに、部屋の片付けで失敗した事は1度もありません。

こっちの方が向いてるのかな…?


「いい助手じゃないか。」

「まぁ、片付けはね…」

お二人が何か話してます…私の事かなぁ?

…そういえば、なんで私の事を助手って紹介したんだろう?

確かに、やってる事は比奈子先生の助手っぽいけど…


──ハルカ?ちょっと聞いてるの?ハルカー?」

「はっ!はいっ!な、ななな、何でしょうか!?」

いけない…つい考え込んでしまいました。

「私、彼を送るから、ついてきてくれる?」

「わかりました!お供します!」

比奈子先生は私を傍に置きたがります。

どうしてかはわかりませんが、本来の私たちは付き添うものなので、正しい私だと思います。

こういう時、人間なら安心を覚えるのかな…?

まぁ、機械なんで不安とかもないんですけどね。


比奈子先生と加賀さんは何かを話してます。

内容は全くわかりませんけど、私がわからないって事は私が担当してない患者さんの情報が含まれてる可能性があります。

看護師のELLYはそうやってプライバシーを侵害しないようにできてます。

私も佐藤さん以外の患者さんに関しては名前もわかりません。


エントランスにつきました。

今日もテレビ前に座ってるお爺ちゃんお婆ちゃんたちは元気です。

始めの頃は『元気なのに病院へ来るなんて変だなー』なんて思ってたし、今でも先生たちは裏で迷惑そうにしてるんですけど…私としては元気な姿が見られるのは良い事だと思っています。


「悪い、事件だ。車、借りてっていいか?」

事件…大変そうです。

「それっていいの?」

「大丈夫だろ、多分。」

鍵を受け取った加賀さんは軽く挨拶をして走って行きました。

「お気をつけて~!」

私は加賀さんの背中に向かって手を振りました。

「さてと、昨日の続きでもしよっか!」

私たちは研究室に戻ります。


「あの…比奈子先生…大丈夫ですよね?」

「大丈夫大丈夫、もう何回もしてるでしょ?」

比奈子先生は私で実験をしてます。

ELLYとしては、とても有意義な実験だと思うのですが…ハルカとしては、ちょっとだけ不安になります…ショートとか。

「じゃ、サクッといくわね。」

先生は私の腕を覆っているバイオスキンにメスを入れて機械部分を剥き出しにします。

人間だったら、こんな事されたら耐えられないでしょうけどELLYの私は大丈夫です。

けど、裸を見られてるようで少し恥ずかしい気がします。

剥き出しになった腕のネジにドライバーを差し込んで回します。

医療向けにカスタムされたELLYは患者さんを介助する為にパーツやモジュールが特別なものになっています。

比奈子先生は私からそれを取り外し、今回は新しいモジュールに替えるみたいです。

「これでよし。ハルカ、エラーコードはどう?」

「エラーコード?」


──2095年、6月2日(Thu)、13:38

三多摩メディカルセンター

医療モジュール…正常

介護プログラム…正常

RAINとの接続…条件付き良好

────────────────


「あっ!消えてますよ!」

「よかった。やっぱりこの前替えた部品が古かったようね。」

比奈子先生はそう言いながらネジを止め、バイオスキンを元に戻します。

「一応縫っておくわね。」

私の剥がされていた皮膚が綺麗に縫われていきます。

これくらいなら放っておけば1ヶ月くらいでくっつきそうですけど、それまでの処置って事なのでしょうか?

比奈子先生はいつも丁寧に処置してくれます。

「これでヨシ。」

「ありがとうございます!」

比奈子先生がわざわざ縫ってくれた。

人間扱いされてるようで嬉しいです。

「処置も済んだし、私は少し出掛けてくるわ。」

「どこへ行くんですか?」

「学校サボってる不良娘の所かな。」

私はこの不良娘さんに会った事はありませんが、比奈子先生は出掛ける時によくこの子の事を言います。

「じゃあ帰りは夕方頃になりそうですか?」

「そうねぇ…もしかしたら食事もするかもしれないし、私の事は気にしなくていいわよ。」

比奈子先生は身嗜みを軽く整えながら言いました。

「わかりました!」

比奈子先生は白衣を椅子に掛けると、鞄を肩に掛けて出掛けて行きました。


──これから担当患者さんの様子を見に行きます。

私は研究室を出て、研究区画から医療区画へ向かいます。

ここの廊下は薄暗くてちょっと怖いです。

廊下の先のナースセンターで担当患者さんのデータを取得、病室へ向かいます。

データを逐一取得するのは、最新に更新する必要があるからです。

患者さんが居る病室の扉は常に開け放たれています。

「お加減いかがですかー?」

「おー!ハルカちゃん、今日もおっぱいおっきいね~」

私の担当患者さんは開幕でコレをします。

基本的には優しいお爺ちゃんなのですが、ちょっとエッチです。

「そんなんじゃ女の子に嫌われちゃいますよ?」

「別に構わんよ。もう身体半分くらい棺桶に入っとるしな。」

「そういう言い方は好きじゃありません。」

「そうかい?自虐ネタって奴だよ。」

セクハラで辞めていく人間の看護師さんが多いので、本来なら私みたいな看護師ELLYは重宝されます。

私はドジばっかしちゃいますが。


──日差しが和らいで来たのでカーテンを開けます。

「なぁなぁ、ハルカちゃん。」

「なんですか?」

「名前で呼んでくんない?」

「ダメですよ~」

「じゃあ、腰が治ったらデートしてくれんかね?」

「ダメですよ。なんでイケると思ったんですか?」

「知ってた。」

「あ、でも…リハビリ頑張ったら考えてあげてもいいですよ?」

考えてあげるだけです。

リハビリを頑張ってくれるなら、これくらい言います。

「フッ…そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。」

そう言って寂しそうな顔をします。

たぶん見透かされるんでしょうけど、患者さん自身、きっと心が折れそうでモチベーションを上げようとしてるんだと思います。

正直、独り身の患者さんは治療を拒んだりする事が多いです。

だから、そんな中でもモチベーションを上げようとしているのは偉いと思います。

…致命的に何かが間違ってる気もしますが。


そんな事を考えてる間も、私はお尻を撫でられてます。

「もー…ダメですよぉ?」

「へっへっへっ…(こっち)もいいねぇ…」

それでもセクハラした後は少し寂しそうな表情をするので強く叱れなくなります。

可哀想だな、って。

「他の看護師さんには絶対にやっちゃダメですからね?」

「…ハイ。」

ちゃんと言うと、しばらくはちゃんと止めてくれます。


いつものように患部をスキャンしながら患者さんの服を脱がせて、身体を拭きます。

「もう少し良くなったら一緒にお風呂入れますよ?」

間違ってはいません。

看護師として介助するので。

「そうだなぁ!みなぎってきたー!」

ちょっとノッてあげると楽しそうにします。

単純です。


身体を拭いた後は服を着せて、寝る向きを変えてあげます。

一応、自力で寝返りは打てますが、もし床擦れしちゃったら可哀想なので。

「テレビ見ますか?」

「あぁ、頼むよ。」

テレビをつけると、そこにはニュースが流れていて、この前あった事件が報道されています。

「バラバラ殺人、ねぇ…」

チャンネルを変えてバラエティ番組に切り替えますが、疲れてしまったのかボーッとテレビを見ています。

「お布団、掛けますね。」

「あぁ、頼むよ。」

返答がひとつになってるので眠いんだと思います。


少し窓を開けると心地よい風が入ってきます。

振り返ると、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていました。

午前中、リハビリ頑張ってましたもんね。


「早く元気になってくださいね、相澤さん。」

私は普段呼べない担当患者さんの名前を呟くと、窓を閉め、テレビの電源を消し、病室から出ました。



簡単な登場人物の紹介

・ハルカ…医療用にカスタマイズされたELLY。よくミスをするので処分寸前だったが、やらかす内容が人間の看護師と大差が無い為、岩木比奈子の研究対象として引き取られた。黒髪のお団子頭には(かんざし)のように体温計が刺さっている。

・ハルカの担当患者…リハビリの為に入院中。無類の巨乳好き。尻も好き。


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