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高校生のイヴ その7


──2095年、6月20日(Mon)、9:30

三多摩メディカルセンター

────────────────


同じベッドでビビと寝ていたはずなのに、目が覚めた時は床だった。

ビビの寝相の悪さを久々に体感した私は、犯人を叩き起こして病院へやってきた。

数日前に巻き込まれた事件で身体に異常が無いかを検査する為だ。

ぶっちゃけ、ここ数日なんとも無かった訳だから異常なんて無い気がしているけど、周りを安心させる為にもやっておく必要があるのかもしれない。

まぁ、私の親は心配なんてしてない気がするけど。


「ひなちゃん会えるかな?」

私は社会性について考えていたけど、ビビは院内に居る恩人の事を考えていたらしい。

義足(それ)のチェックするなら会えるんじゃない?特注なんでしょ?」

「あー…別に特注って訳じゃないよ?」

「そうなの?」

「うん。ひなちゃんが開発してる新型ってだけ。」

「えっ、比奈子さんってそんな凄い人だったの!?」

「あたしも詳しくは知らないけど、若い頃から学会とか論文とか凄いらしいよ?」

知らなかった。あの人そんなに凄い人だったんだ。

「その言い方だと今は若くは無いみたいね?」

背後から聞き覚えのある声がした。

「あっ…」

「あ、アハハ…ひ、ひなちゃん…」

比奈子さんの微笑みがちょっと怖かった。


午前中と云う事もあって病院内は空いていた。

「ラッキー!これならすんなり済みそう。」

「そうだね。さっさと終わらせて学校サボろう。」

「そういうのは大人が居ない所で言いなさい?」

比奈子さんに(たしな)められてしまった。

「でもひなちゃんだって同じ立場なら学校サボるでしょ?」

「私は真面目に学生してたわよ?」

「え~…?ホントかなぁ…?」

ビビが比奈子さんと話し始めてしまった。

私も会話に交ざれば良いんだろうけど、また比奈子さんに心の中を見透かされるかもしれないって思うと一歩が踏み出せなかった。

「そろそろ行くわ。また後でね。」

去り際の比奈子さんと目が合った。

もしかしたら私に気を遣ってくれたのかもしれない。

「イヴ?どした?」

「比奈子さんってさ、大人だよね。」

「…?そだね。」

私の脈略の無い呟きでビビの頭上にはクエスチョンが浮かび上がっていた。


──検査は早々に終わった。

看護師タイプのELLYに全身をスキャンされ、医者の質問に幾つか答えただけだった。

ビビを探したけど待ち合い席には居なかった。

「義足…どれくらい掛かるんだろう…?」

普段は些細な呟きにもビビの軽いリアクションが返ってくるから独りを自覚すると嫌に寂しさを感じる。


談話スペースのソファに座って昼近くまで待ってもビビは戻って来なかった。

待ち合い席の方からは常連と思われる老人たちの話し声が聞こえていた。

「先に何か食べようかな…」

朝食を抜いていたので耐え難い空腹感に襲われてしまった。

だけど、病院の食堂を使うのは気が引けるので売店代わりに併設されているコンビニでおにぎりとお茶を買って食堂の座席へ向かった。

「ふぅ…」

やっと一息つけた気分。

待ち合い席や談話スペースは病院特有のニオイが充満していて、私には居心地が悪かった。


「『先に食事済ませるね。』っと…」

私はコンビニのおにぎりを食べながらビビへメッセージを送った。

まぁ、当然ながら診断区画などでは携帯端末の類いが使えないから返事なんて来る訳ない。

食堂からは待ち合い席が見えるから、ビビが来ればわかるはず。


なんだけど…

昼過ぎの病院と云うのは平日でも人とELLYで溢れ、病院特有のニオイも相まって人酔いが酷い。

食堂でコレなのだから、他に逃げられそうな場所は外しか無いと思った。

『ごめん。先にビビの家戻るね。』

私はビビへメッセージを送ると、正面を避けて逃げ出した。

「確か、こっちに…」

人酔いでフラフラになりつつあった私は、さっき食べたものが出てきそうになるのを耐えながら微かな記憶を頼りに裏口を探す。

「ここだ…」

前に配送のお兄さんがここを通って行ったのを見た事があった。

扉を開けると、建物の陰で日が差さない場所に出られて、ひんやりとした空気が私を癒してくれているようだった。

そのまま道なりに進むと裏手の駐車場まで行けた。


スーーーっ…ハァーーーっ…

何度か深呼吸した所で、私の人酔いは治まった。

「ふぅ…助かった…」

「何が助かったんですか?」

後ろから急に声を掛けられ、私の身体はビクッとなった。

振り返ると、そこには一人の看護師さんが居た。

「ちょっと人酔いしちゃいまして、それで。」

「それで裏口を使ったんですね!納得しました!」

やけに元気な口調の看護師さんだと思ったら、手の甲から淡い光が放たれた。

「あぁ…ELLYだったんだ。」

「ハイ。私はELLYですよ!」

どうも要領を得ない会話だ。

さっさと切り上げた方が良さそうだ。

「そ、それじゃ…もう帰るので。」

「…待ちなさい。」

「え?──


ここで私の意識は途絶えた。



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