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高校生のイヴ その5


──2095年、6月18日(Sat)、14:00

三鷹駅北口

────────────────


「遅い…」

今日はビビが行きたいと言っていたカフェへ行くはずなのに、約束の時間になってもビビが来ない。

こんな事なら現地集合にしない方がよかった。

さっきなんてナンパしてきた男にフラれた女だと思われてしまった。

『今どこなの?』

『ごめん、国分寺』

『なんか奢ってね』

『うん』

あと3駅くらいか…


「ごめんごめんごめんごめん!」

割と遠くからビビの声が聞こえた。

「奢ってくれればいいよ。」

ビビの肩に手を置くと、多少でも走ったのか火照ってるのが伝わる。

駅前を少し歩くと目当てのカフェについた。

「こんだけ近いなら先に入ってればよかったかも。」

「そしたら、あたしが入りづらいよ…!」

ビビはこう見えて人見知りだ。

初めての場所なんかでは借りてきた猫と云うか、野生の猫のように警戒心が強い生き物になる。


店に入ると、できたばかりと云うのもあって昼過ぎでも店内は賑わっていた。

内装はレトロポップな雰囲気が漂っていて、私たちみたいな若い層を狙ってるのがわかる。

配膳をしてるのはELLYか…手の甲が光ってるから学習が済んでなくてちょっと不安。

ビビの義足(あし)を見たELLYは、マニュアル通りなのか出入口とトイレの両方が確認できる広めの座席に案内してくれた。

渡されたメニューをスワイプすると特に目立ったものはなく、普通のカフェに感じ…いや、一番後ろにデカ盛りメニューがあった。

「何飲む?」

「あたしはこれかな。雑誌に載ってたし。」

ビビはワッフルにアイスが乗ってるオサレメニューとゴリッゴリのラテアートを指差していた。

「じゃあ私は…」

何となくビビが甘味の暴力に負ける予感がしてきたので普通のサンドイッチとコーヒーにした。

「イヴって冒険しないよね。」

理由(わけ)は後でわかると思うよ。」

「そう?」


程なくして頼んだメニューをELLYが運んできた。

「ごゆっくりどうぞ。」

ビビはラテアートを撮っている。

「ビビってそういうの好きだっけ?」

「1回やってみたかったんだよねー」

ビビは時々ギャルの真似事をする。

本人が楽しそうにしているから口を挟んだりはしないが、ちょっと無理してるように感じる時もある。

一頻(ひとしき)り写真を撮った後は普通に食べ始めた。

私もサンドイッチを口に運ぶ。

ふわふわのタマゴ、折り重なった薄切りのハム、シャキシャキのレタス、自家製っぽいマヨネーズベースのソース…美味しい。

堅実で王道な味はリピーターが増えそうだと思った。

「あ、甘い…」

気付くとビビはワッフルでノックアウト寸前だった。

「交換する?」

私はビビにサンドイッチの皿を寄せる。

「する…!」

「サンドイッチどう?」

「…おいひぃ。」

「そ、よかった。」

前から何となく思ってたけど、ビビって甘いの苦手なんだと思う。

代わりにワッフルを食べる。

控え目な甘さの滑らかな生地の中にザクッザクッと粗目(ザラメ)のような砂糖の食感がきて口の中で甘さが広がる。

後味でほんのりレモンか何かの柑橘系がふわっと抜けて、見た目ほどの甘さを感じさせない。

しかも、コーヒーを啜ると計算していたかのようにスーッと甘さが引いていく。


「ふぅ…美味しかったぁ…」

結局、私が頼んだサンドイッチは殆どビビが食べた。

「雑誌で紹介されてた中では当たりの店だね。」

「確かに~」

ファッション系の雑誌で紹介されてる店なんて大半が70点くらいの無難な店で、こういう90点を叩き出すような店は当たりと言える。

会計を済ませる。

2人で4500円だからリーズナブルな方だった。

店を出るとジメッとした空気が肌に纏わりつく。

「あっつい…」

「どこ行く?」

「とりあえず入ろうよ。」

中央通りを歩いてセーフポイントと云えるストアに入る。

「あ゛ー…涼しいー…」

ビビが胸元をパタパタさせる。

「見られてるよ。」

「ん?別にいいよ…めんどくさい。」

代わりに私が睨んでおく。


「何か買う?」

「そうだね。ただ涼んでるだけじゃ申し訳ないし。」

「イヴってそういうの気にするタイプ?」

「だって気まずくない?」

「まぁわかる。」

適当にお茶のペットボトルを選んで会計を済ませる。

「ねぇイヴ…」

「ん?あぁ、行こっか。」

ついでにトイレへ寄った。


「目的地決めてから出ようよ。」

鏡の前でメイクを確認ビビに話す。

「そだね。うーん…カラオケ…は行ったしなぁ。」

「この前『カラオケは無限に行ける!』とか言ってなかったっけ?」

「そだっけ?まぁいいじゃん。歌う気分じゃないって事で。」

「じゃあゲーセン行ってみない?…レトロすぎる?」

「逆にいいかも。ナンパとか無さそうだし。」

「じゃあ駅まで戻ろう。」

私たちはストアを出て中央通りを駅方向へ戻った。


──ゲームセンター。

最近では殆ど見掛けなくなったモニターを見て遊ぶタイプのゲームやメダルを使った物理的なゲーム、置かれた景品を捕るクレーンゲームや写真を加工して遊ぶプリクラなんかが所狭しと並んでいる。

「イヴってこういう雰囲気好きだよね。」

「うん。好きだよ。」

私は40年代くらいのレトロな雰囲気の場所が好きで、最寄り駅にあるゲーセンにも行った事があった。

三鷹(ここ)には、まだ遊んだ事の無いゲームが幾つかあった。

「ここは当たりだなぁ。」

「当たりとかあんの?」

「うん。最寄りのゲーセンはメダルゲームが多めだけど、ここは筐体がいっぱいあるんだよ!」

ついテンションが上がってしまった。

「筐体?」

「あのモニターがある奴!」

語彙力が失くなる。

「フフッ…楽しそうだね。」

ビビに笑われてしまった。

ちょっと恥ずかしい。

「あっ!ビビ、あれやろうよ!」

私は恥ずかしさを紛らわせるようにビビの手を引く。

協力してクリアするタイプのゲームならビビにも楽しさが伝わるかもしれない。


「ねぇイヴ!ヤバい!」

「いま助け…あっ!」

2人で協力して面を進めていくけど、難易度が高くて全滅してしまった。

「あ~…もうちょっとだったのにぃ!」

私よりビビの方が悔しがっていた。

「ビビ、楽しい?」

「楽しい!けど悔しい!」

今度はビビに付き合って再チャレンジした。


「ふぅ~…まさかこんなに面白いとは~…!」

「途中、私よりビビの方が熱中してたよね?」

「そ?…そうかも。」

結局、並んでいた筐体を端から順に遊び尽くした。

「最後はアレやろ?」

「何あれ?」


案の定プリクラはビビのギャルセンサーに引っ掛かった。

「50年以上前のギャルはゲーセンと云ったらプリクラだったらしいよ。」

私が本で聞き(かじ)った情報を話すとビビのテンションは上がっていた。

撮影を終えて、写真をデコると、その場でシールになって出てきた。

実際に見ると可愛くて面白い。

「けど貼る場所ないね。」

「昔はタブレットとかに貼ったらしいよ?」

「ふーん。」

「あっ!私これに貼ろ。」

私はバッグからスマートグラスのケースを取り出して、上蓋の部分に貼った。

「あたしはー…そうだ!」

ビビは義足の接続部分に貼り付けた。

「ビビ、それは流石に恥ずかしいって。」

「え?いいじゃんいいじゃん!」

ビビはすぐそういう事をする。


──ゲーセンを出ると空は少し赤らんでいて、幻想的な雰囲気が漂っていた。

「いま何時?」

ビビが時計を気にしてるので、私はスマートグラスのスリープを解く。


──2095年、6月18日(Sat)、17:21

ミハイルeステーション三鷹JOY店

────────────────


「…5時過ぎかな。」

「もうそんな時間かぁ。」

「気になるなら後は駅ナカにする?」

「そだね。それがいいかも。」

私たちは駅ナカと呼ばれているエリアに入った。


「土曜日だから人多いね?大丈夫?」

「余裕余裕。ひなちゃんの義足は世界一だよ。」

最近の義足は見た目がカムフラージュされてたりするけど、ビビの義足は目立つ。

比奈子さんに会ったらその辺をお願いしてみようかな。

でもそういうのビビは嫌がるかな…


人集(ひとだか)りが凄すぎて2人でベンチに座る。

「八王子祭か!ってくらい人居るじゃん…」

「その例え…他ではしないでね…?」

「え?なんで?」

「たぶん学校でも半分くらいにしか伝わらないし…」

「ガチぃ?」

「ガチ。」


その時だった。

ドーンって音と同時に建物が揺れて、少し先の広間にガラスと何かが降ってきた。

辺りの人が叫びながら逃げ惑っていて、パニック状態になっていた。

そんな中でも私の頭は変に冷めていた。

もしかしたら府中のアレのお陰かもしれない。

「イヴ…何あれ…」

ビビの声が震えている。

「あれは…」

目を凝らすと見覚えのあるフード姿が見た事もない何かと取っ組み合いになっていて、一瞬だけど目が合った気がした。

「ビビ、逃げよう…!」

私はビビの手を取って広間とは逆方向に走った。

周りの人たちと肩をぶつけながら通りの角を曲がる。

ビビを見ると恐怖のせいか震えていた。

「ビビ!?しっかりして!」

私はビビの目を見て頬を軽く叩く。

「あっ…い、イヴ…私…」

「大丈夫。私がついてる。行こう…!」

息を整えたお陰か、周りに爆音が轟いてる事に今さら気付いた。


どうやって逃げたかわからないけど、駅ナカから出られた。

「「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」」

「ビビ…大丈、夫…?」

「うんっ、何とか…」

2人して肩で息しながら無事を確認する。

「とりあえず、警察…連絡しよう…」

「そだね…」

たぶん誰かが通報してるだろうけど、そう思って誰も通報してない可能性が(よぎ)って、連絡する事にした。

スマートグラスを起動させると、圏外の表示。

「ダメだ。圏外になってる。」

「なんで…」

「わからないけど、もっと離れた方がいいかも。」

「そだね。」


──線路沿いを急ぎ足で駅から離れると、パトカーを見付けた。

「よかった!パトカー…!」

私たちはパトカーの側で休憩する事にした。

少しするとスーツ姿の女性が2人やってきた。

「大丈夫ですか?」

「怪我はありませんか?」


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