警察官のELLY その7
「警察官のELLY その6」の続きです。
渋滞に捕まったせいで余計な時間を食ったが、5件目である調布規制線の現場についた。
「まだ現場保全されたままだな。」
僕と朔夜は警戒中の巡回警察官に警察ライセンスを見せてブルーシートの囲いの中へ入る。
朔夜は早速サーチをしてるようだった。
夕方近いと言うのに、この時期特有の不快感が一層増していた。
「サーチ完了しました。」
「お疲れ。リラックスしてくれ。」
「はい。」
「この辺は瓦礫も目立つなぁ…」
台風でも来たら崩れそうなビル郡には業者が使う重機が停まっていて、日本人も含めた様々な人種の人間が協力し合っているのが見える。
皮肉な話だが、旧都心部は街を壊すのも更地にするのも、建て直すのも移民が中心になっている。
警察官としては、移民と関わるのは被害者か被疑者か、後は目撃者などの市民対応…
同僚の中に李さんのような混血は何人か居るが、純粋な外国人が警察官になる場合は帰化しなければならず、三多摩署には帰化人の警察官は居ない。
日本が、その辺の法律を変えなかった事は現在で見ればプラスだったが、それにより一時期は警察官不足と云う治安の根幹に関わる危機が起きかけた。
RAINとATOMの登場で全国の窓口業務やデータ処理などを機械に委任できたのは本当に幸運だったし、現在では朔夜のようにELLYが捜査官として配備されている。
ホント、このシステムが存在しなかったら日本はどうなっていた事か。
RAINのシステムが発表されてからの約20年、日本は徐々に機能が回復していた。
他の国のAI事情は、って話だが…
アメリカは、主に公平な視点の統率者として利用していて、裁判官からテレビ番組やイベントの司会者まで、あらゆる場面の纏め役としてAIやアンドロイドが使われている。
中国は、個人情報や人民スコアの管理など、人民の統制に利用していて、低スコアの人民や国内の不穏分子にはアンドロイドが派遣されて様々な"指導"が行われているが、台湾など一部の地域は派遣されてきた"指導員"をクラックして独立の味方にしている。
ロシアは、言うまでもなく軍事利用だ。AIにより統率されたアンドロイド兵が国内外の脅威に対応している。
ヨーロッパ連合は、地域によって区々(まちまち)で、統率・統制・軍事、そして日本のように国家維持や福祉に利用した国など、十人十色と云った様子だ。
中東などのイスラム文化圏は、『神を冒涜する人類の新たな罪』としてAIとアンドロイドを規制した一方で、軍事や油田施設の警備にAIとアンドロイドを利用している。
韓半島は、主にエンタメ方面で利用していて、アンドロイドのアーティストや俳優が世間を賑わせている。
北欧諸国は、教育に利用した。AIで統率されたアンドロイド教師が各学校や各家庭で活躍している。
どの国にも特色が出ているが、共通しているのは『AIによってアンドロイドを統制している。』と云う点で、これは芦本先生と相澤博士の功績と言っていいだろう。
そんなRAINシステムも今年で運用が20年になる。
2人が行方不明にならなければ、夏頃には式典でもやっていた事だろうな。
芦本先生と相澤博士が行方不明になったのは5月の中頃だった。
芦本先生は、大学卒業後に野座間重工へ就職したが約7年で退職。ラボを立ち上げて情報工学と医療福祉を繋ぐ研究に従事。岐府で行われた医療交流会に参加したのだが、その数日後には連絡が取れなくなった。
相澤博士も、大学卒業後に野座間重工へ就職。定年となった現在も相談役として在籍。しかし芦本先生と同じ時期に連絡が取れなくなった。
ちなみに"先生"や"博士"は愛称で、昔テレビ番組に出演した際、そう言った呼称をされたのがキッカケで定着したらしい。
二人の天才の行方不明は連日のように報道され、今回の"バラバラ事件"が発生するまではマスコミのトップニュースだった。
──僕がそんな事を頭の中で整理していたら、朔夜が話し掛けてきた。
「青井さん。」
「ん?なんだ朔夜?」
「少し、思った事がありまして。」
話をするなら車内の方がいいだろうと思い、僕たちは車内に入る。
じめじめとした空気が多少は緩和されて、話易くなっただろう。
まぁ、朔夜はELLYだから関係ないだろうけど。
「データを纏めていて気付いたのですが…これまでの現場で投棄された義肢や臓器に特定の傾向があるんです。」
「傾向って…どういう事だ?」
「まず最初の3件の現場ですが…義肢も臓器もバラバラで、とりあえず三等分したって雰囲気なのですが、それぞれを3体分として人工的につけられた切断部を繋げた場合…右上肢から右肩峰、右下腿部から右足、左大腿部から左側腹部の一部と周辺の臓器…と、いう風に綺麗に欠損したものが3体分出来上がります。」
「…それで?」
「4件目の府中では左上腕部から左胸部までと肺の一部、5件目で胴体の一部とその周辺の臓器…」
「つまり…なんだ?何者かが奪ってるって言いたいのか?」
「そこまでは断言できませんが…明らかに偏ってるんです。"それぞれを個体とした場合"ですけど…」
うーん…
「それに、あの切断面です。わざわざ高出力のレーザーを使ったとすれば、戦闘の可能性だって…」
「待て待て、それは…!だけど、うーん…」
僕は頭を軽く掻いた。
確かに朔夜の推論には一定の説得力がある。
特に、人工的に切断された部分を繋ぎ合わせた結果と云うのは元の状態を探り当てた結果で、確かな説得力になる。
ただし、前提から間違っている可能性だって充分にある。
どこかの業者が運搬の為に無造作に切断して投棄していった場合だ。
…これは皆の意見も聞いてみた方が良さそうだ。
「よし、とりあえず…レポート的なもので纏めておいてくれ。本部に戻ってから皆と共有しよう。」
「わかりました。」
僕は本部へ戻る為、車を走らせた。
──帰りは渋滞に捕まらずスイスイと戻る事ができた。
それでも40分弱は掛かった。
「ただいま戻りました。」
会議室へ入ると、加賀と和泉も居た。
「なんだ、ふたりも居たのか。」
「よう!サニーちゃん。」
和泉のダル絡みはスルーだ。
「新しい可能性が出てきたぞ。」
僕は朔夜を促してデータを共有させた。
「今日1日掛けて最初の現場から情報を集め直し、それまでの情報も含めた推察をしました。」
朔夜は、投棄された義肢や臓器を組み合わせると不自然に欠損した人体模型が出来上がる事や、始めの3件と以降の2件での相違点、高出力レーザーによる戦闘の可能性などを説明した。
「つまり…朔夜は、これが殺人…的な事件だって言いたいのか?」
和泉が朔夜のレポートを読みながら訊いてきた。
「そうです。これらは、それまでにそれぞれが何らかの行動をしていて、そして争い、どちらかが破壊された。さらに破壊した何者かは自身の破損を補う為にパーツを奪った。」
朔夜は確信でもあるかのように推察を披露し、ひとつの結論に到った。
「つまり、犯人も被害者も、アンドロイドです。」




