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警察官のELLY その6

──2095年、6月12日(Sun)、12:30

内部モジュール…正常

警察プログラム…正常

RAINとの接続…良好

────────────────


──調布規制線。

「これで何件目だ?」

土門さんの眉間にはシワが寄っていた。

「5件目ですね。」

朔夜が答える。

南日野、多摩、東八王子、府中、で…ここ。

梅雨に差し掛かりジメジメとした纏わりつく空気と、調布規制線(このばしょ)の荒廃した不衛生なニオイが、事件を止められない僕たちに一段と不快感を与えていた。

「みんな物好きだなぁ。毎回現場に来てさぁ。」

和泉の軽口がいつも以上に鬱陶しく感じる。

仙石さんは遠くで鑑識官の話を聞いている。

僕も向こうへ行こうかな。

「仙石さん。」

「あぁ、青井くん。青井くんも見てみてよ。」

仙石さんは鑑識官が撮影した画像データを見せてきた。

「相変わらずグロいですね。これ。」

僕は画像データを見た。

「よく見て、おかしいと思わない?」

正直、虫が湧いてたりしてるから直視したくない。

「何がおかしいんです?」

「これ、今までの切断面とは明らかに違うのよ。焼き切れてるって言うか…」

確かに、今までの投棄された義肢は鋭利な刃物による見事な切断だったが、今回の投棄された義肢の切断面は焦げ跡のようなものが見られた。

「レーザーみたいなもので切られたんですかね?」

「だと思うけど、おかしいでしょ?気軽に持ち運びできるような小型の高出力レーザーなんてあるの?」

「聞いた事は無いですね…なぁ!朔夜、

ちょっと来てくれ?」

「はい?なんですか?」

朔夜が小走りで来る。

「現在、持ち運びできるような小型の高出力レーザーって流通してるのか?」

「…検索します。」

朔夜の手の甲が淡く光る。久々の光景だ。

「検索完了。現在、持ち運びが可能な小型の高出力レーザーは流通していません。しかし、研究施設や軍事施設などで、既に開発されている可能性があります。また、近年では車載可能な中型の高出力レーザーが軍事利用されており…」

「ありがとう、朔夜。もういい。」

流通はしていない…だけど、既に存在してるかもしれない。

…投棄されたものの精巧さからも嫌な予感がしてきた。

「青井くん、これ以上は課長と相談した方がいいかも。」

「そうですね。僕も同じ事を思ってました。」

土門さんや和泉にこの事を話すと、2人も同じ結論に行き着いた。


──署に戻ると、李さんが積んだ段ボール箱を運んでいた。

「李さん、お疲れ様です。」

「あっ…!青井さん!お疲れ様です!」

わざわざ箱を置いて敬礼してくれる律儀な李さん。

「そう畏まらなくていいって、階級や着任期間に拘ってたらチームは回らないよ。」

「恐縮です。」

李さんは直立不動だ。

「荷物、運ぶの手伝うよ。」

僕は男らしく箱を2つ取った。

「あっ…!えっと、ありがとうございます。」

捜査員が増えた事と件数が増えた事で捜査本部が会議室に変更された。

もはや殺人事件の捜査本部と変わらない規模感になりつつあった。

「最初はただの不法投棄だと思ったんだけどなぁ。」

僕は軽い口調でボヤいてみた。

「そうですね。私は途中参加組ですけど、普通の不法投棄事件でもここまで大規模にはなりませんよね?」

「だな~。」

僕は普段より軽い口調で話して李さんが気を遣わないようにさせてみた。

「ふふっ…青井さんって何だか和泉さんみたいですね。」

「ん?そうかい?あいつキャリアだぞ?」

「そうなんですよね!だから最初は凄く緊張してたんですけど…」

「なんかあった?」

「その…凄く気さくに話してくれる方で…」

言葉を選んでるのがわかる。

「『呼び捨てにしないと泣く~!』とか言われた?」

「えっと…まぁ…そんな感じです…」

想像がつく。

駄々でも捏ねたんだろう。

「アイツ自身、階級とかが嫌なんだよ。そんな変人だから三多摩(こんなところ)で刑事やってんだと思うけどな。」

李さんが止まった。

「おい青井。」

やっちまった。

どうやら和泉に聞かれていたようだ。

「言っとくがな、俺は左遷された訳じゃないぞ!?」

そうなのか。

「すみませんでした。訂正してお詫び致します。」

僕は頭を軽く下げた。

「わかればヨシ!」

いいのか。

「っと、俺も持つぜ。」

3人で箱を1つずつ持って会議室に入った。


新しい捜査本部は賑わっていた。

僕たち三多摩署の捜査員に加え、日野、多摩、八王子、府中、調布の捜査員も数名ずつ加わっている。

ざっと見ただけで30人くらいか…?

入り口から上手側(こっち)は課長と一応キャリアの和泉の席か。嫌がりそうだな。

下手側(あっち)は僕たち捜査員の席か。

真ん中のテーブルやモニタに捜査情報が纏められてるのは助かる。

「俺あそこ嫌なんだけど…」

案の定、和泉が自分の席を嫌がってる。

「仕方ないだろ。キャリア様を同列にはできないだろうし。」

「ただ国家試験に受かっただけなのに…」

和泉はぶつくさ言いながら真ん中のテーブルへ段ボールを運んで行った。

その姿を見た他の署の捜査員たちが慌てていた。

まぁ、普通ないよな…キャリアが雑用してるって。

たぶん仙石さんが見たらまたツボるだろうな。


「おい、青井。」

振り向くと加賀が居た。

「おぉ、どうしたんだ?」

「ようやくこっちに集中できるようになってな、一応言っておこうと思って。」

「そうか、解決したのか。」

「まぁな…」

含みがある辺り、疑問の残る事件だったんだろうか?

「えっ…加賀巡査って事件抱えてたんですか!?」

李さんが驚いている。

そりゃあそうか、何だかんだ言いつつ割と徹夜して参加してたもんな。

「加賀ってそういう奴なんだよ。」

「はぇ~…」

李さんから憧れつつも呆れてるような声が漏れてる。

「間違っても真似しないように。」

たぶん真似しないだろうけど。

「あ、ハイ。」


──何度か部屋を往復して捜査情報を移し終わった。

「ちょっと疲れたな…」

加賀が汗だくになっていた。

「お疲れ様です。」

朔夜が荷物を運んだみんなに飲み物を渡している。

「今更だけど、朔夜に運ばせればよかったな。」

僕は口を滑らせた。

「それを言うなよ…」

加賀は汗を拭っている。

「すみません…」

傍に居た朔夜が気にしてるようだった。

「いや、朔夜は朔夜でやる事を見つけてたんだよな?」

僕はフォローした。

「えっと、他の署の方と話をしていました。」

朔夜は今後の連携の為に挨拶をしに回ってくれたらしい。

地味に助かる。

「ありがとよ。そういうの大事だぜ。」

加賀もフォローしてくれた。

「よかったです…!」

朔夜が微笑んだ。

段々と感情が発露してきている。

朔夜は僕たちが本当に気が回ってない部分に気付いてくれるようになった。

異なる視点を持ってるのは、捜査が行き詰まった時にも役立つだろう。


「皆、揃ってるな?」

課長が部屋に入ってきて、その後ろには署長も居た。

「うわ…」

加賀がボソッと呟いた。

僕もげんなりする。

大した現場経験も無いんだから引っ込んでてほしい。

課長の進行で今までの事件を振り返り、新たに参加する事になった捜査員たちに情報共有させている。

僕たちにとっては散々聞いた内容と言える。

その間の署長は座席にふんぞり返って脚を組んでる。

隣の和泉に到っては先輩キャリアに対して不快な顔を全開にしていて見てる側としては笑いそうになる。

やめてくれ。

笑うのを堪えている内に会議は終わった。

署長が途中から寝てくれたお陰で滞りなく進んだ。

「ふぅ~…やっぱ会議は疲れるなぁ。」

加賀が首や肩をバキボキと鳴らしている。

「あんま鳴らすと癖になるぞ?」

「もうなってるぜ。」

「おーい、加賀、青井。こっち来い。」

課長に呼ばれた。

「なんですか?」

「方針変更だ。加賀は和泉と組め。」

方針変更…つまり署長の思い付きだ。

ちなみに、課長の隣でふんぞり返っているこの男が捜査に役立った事は一度も無い。

「わかりました。じゃあ僕は朔夜と2人で捜査すればいいですね?」

課長に確認する。

「あぁ、しっかりやってくれ。」

「承知しました。」

僕と加賀は形だけの敬礼をして、それぞれ別れた。

和泉と加賀は早々に会話しながらその場を去って行った。

長居するとロクな目には遭わないだろうから僕も朔夜を連れて部屋を出た。

「はぁ…2人で頑張ろうな、朔夜。」

「心中お察しします。」

「モチベ下がるよなぁ…ホント。」

「そうですか?」

「しばらくは気楽に行こう。署長が五月蝿(うるさ)い内は台無しにされる事もあるし。」

「…わかりました。」


そこに和泉からメッセージが届いた。

「例の件は課長に話しておいた。現状は保留。課長が各所と連絡取るらしい。」

本当に小型の高出力レーザーが使われたなら、この事件は僕たちの手を離れてしまうだろう。

どうやら課長は僕たちの手で解決させたいようだ。

自然とモチベーションが上がる。

更に追加でメッセージが届く。

「お前たちは過去の現場を回っておいてくれ。」

マジか…


──最初の現場である南日野にやってきた。

「この捜査、あまり効果的だとは思えません。」

「僕もそう思うよ。」

そう言いつつ僕は最初の現場を見渡していた。

「鑑識がELLYメインになってからは見落としなんてある訳ないよなぁ…」

それでも、和泉警部殿に言われれば末端の僕らはやるしかない。

「朔夜、何か気付いた事はあるか?」

「いえ、特には…」

朔夜が辺りを見渡している。

「ちゃんとログ残しておけよ?それが目的だろうしな。」

鑑識官へのフォローは和泉がやってくれると信じよう…

30分ほど(しらみ)潰しに現場をサーチしたが、事件に繋がるようなものは見つからない。

「よし、朔夜。次の現場へ行くぞ。」

「わかりました。」

僕と朔夜は車に乗り込み、2件目の現場である多摩へ向かう。

車窓には巡回中の警察官が映っていた。

現場周辺は事件が解決するまで警戒区域に指定されている。

犯人が戻ってくるような事があれば即刻逮捕できるだろう。


多摩の現場は南日野の現場とも近い。

車で10分以内の距離感だ。

3件目の東八王子も同様、車で10分と掛からない距離で、地図で見ると正三角形って感じだ。

どちらも1件目と同様に周辺をサーチしたが鑑識官の優秀さを証明するだけで成果と呼べるものは無かった。

「地道だなぁ…」

僕は車を走らせながら呟く。

しかし、和泉も考えなしに提案なんかしないだろうし、こうした地道な捜査が実を結ぶ事だってある。

4件目の府中。

それまでの3件とは明らかに距離が離れており、車で30分以上は掛かった。

「朔夜、さっきと同様に。」

「もうやってます。」

まぁ、朔夜の経験値稼ぎと思えばいいか。

「それにしても、府中にこんな場所があったとはなぁ…」

駅前の大通りを進んだ先の脇道、レトロな雰囲気が漂う飲み屋街と云った場所。

そこの駐車スペースが現場だった。

「こんな場所があったとはな…」

ん?じゃあ犯人はこの辺の土地勘があるって事になるのか…?

こういう地道な捜査は結果がわかりにくいから正直苦手だ。

「青井さん、サーチ完了しました。」

「よし、じゃあ…次行くか。」

次は5件目、調布規制線の現場。

最低でも車で40分弱は掛かる。

「頼むから渋滞しないでくれよぉ…?」

僕は朔夜のナビを信じて車を進めた。


簡単な登場人物の紹介

・三多摩署の署長…偉い人。課長よりも歳下で、所謂キャリア。思い付きで現場を混乱させる。

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