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高校生のイヴ その4


──2095年、6月9日(Thu)、12:30

三多摩府立八王子南高校

────────────────


──昼休み。

「ねぇ、朝の聞いた?」

「聞いた聞いた。この辺で何かあったんでしょ?」

「またテロかな?」

「やるなら学校壊してほしいよねー」

「確かにw」


ビビの所へ向かう途中、そんな事を話している子たちと擦れ違った。

どうやら八王子(このへん)で何かあったらしい。

ビビが聞いてなきゃいいけど…

私は急いでいつもの場所へ向かった。


「ビビ!」

「あっ…イヴ…」

明らかに浮かない顔をしている。

あの子たちが話してたような事を聞いたのがわかる。

「…大丈夫?」

「うん…ごめん。流石にトラウマ…」

「怖くないよ…大丈夫。もう大丈夫だからね。」

私はビビを優しく抱き締めて頭に手を添える。

冷たい。

血の気が引くとは云うけど、本当に血の気が引いていた。

微かに震えているのもわかる。

怖くて怖くて仕方ないのだろう。

「よしよし…」

頭に手を添えてゆっくりと撫でる。

少しでも落ち着いてくれれば…そう思う。


どれだけそうして居たかはわからないけど、ビビから温かさを感じる。

「ありがと。落ち着いてきた。」

よかった…

私は身体を離してビビの顔色を伺う。

「メイク落ちてるよ?」

とりあえずティッシュを渡す。

「ありがと…」

野暮な事は言わないけど、たぶん私の肩にはビビのチークやらアイラインやらが染みている。


「ハァ…久しぶりにバレないギリギリのメイクできてたのに…」

顔を洗ったビビがボヤく。

「またやればいいよ。」

「そだね。」

間違っても『すっぴんの方が可愛いよ?』なんて言ってはいけない。

ビビの成果を否定してしまうから。

「もうすっぴんでいっか。あたし可愛い?」

「うん。可愛いよ。」

心の中で『自分で言うんかーい!』とツッコミつつ、その感情を押し留めた。

「てか急がないと昼休み終わっちゃうね。」

「あたし昼食べてないや。」

「私も。購買行く?」

「…行く。」


校内にはコンビニとまでは云わないが色々と売っている。

ペンやノートなど学校で使うもの。

弁当やパン、お茶に牛乳。

10秒でチャージする系にバランス栄養食。

かつての生徒会がゴリ押しで許可させた黒い稲妻チョコと果肉がガツンと入ったアイス。


私たちが来た頃には目ぼしい食料は無くなっていたので、バランス栄養食と牛乳を買った。

「これが青春の味か…」

「それCMの奴でしょ?」

「まさかホントに言う日が来るとは、ってカンジ。」

「そうだね。」

2人で窓の(へり)に座ってバランス栄養食と牛乳…

しかも後5分もすれば予鈴が鳴る。

これが青春ならやってらんない。

「たまには牛乳もアリかも?」

「うーん…確かにクッキー系と牛乳はアリだけど。」

このパサパサ感は牛乳じゃないと解決できない。

「これってクッキー?」

「微妙。でもパサパサ系だよね。」

ビビとだからギリ耐えられるレベルで中身が無い会話をしてる気がする。

「…そろそろ予鈴鳴るし、戻ろっか。」

「そうだね。」

ビビも同じ事を思ったのか優等生みたいな事を言った。


──教室へ戻ると、辺りは静まり返っていた。

「どうしたの?」

私が近くに居た『奏』に声を掛ける。

「グエンが遂にキレたのよ。」

どうやら散々虐められていたグエンが遂にキレたらしい。

カンの額からは血が出ていた。

「あーぁ。」

「あいつ終わったな。」

「グエン…w」

そんな声が聞こえる。

散々見て見ぬふりをしてきた連中からの心無い言葉。

ふとビビを見ると眉間にシワが寄っていた。

私はビビの手を握って教室を出た。

「ねぇイヴ。」

「ダメ。関わってもビビに良い事ないよ。」

「でもさぁ…」

「どうせ後で聞き取りとかアンケートとかやらされる。その時でも遅くないよ。」

「そんなの…」

わかってる。そんなのは形式的なもので、より学校に利益のある方が残るように対処される。

加害者とか被害者とかは関係ない。

野球部で期待されてるカンと成績上位者のグエンなら、たぶんカンが残るだろう。

学校とは、そういう所だ。


美嘉が教師を連れてきた。

面倒くさそうな態度をしてるのがバレバレだが、そんな事を指摘してまで公正な判断を望む生徒は居ない。

それで目立ってしまえば、次の標的にされかねない。

ただでさえ目立ってるビビをそこへ追いやる訳にはいかない。

「ビビ、お願い…ここは堪えて。」

「…わかった。」

ビビの顔は明らかに苛立っていた。

自由を奪っている…

けど、私が守りたいのはビビの安寧だ。


程なくしてカンは保健室へ、グエンは…恐らく指導室へ連れていかれた。

私たちは席につかされ、何事も無かったかのように午後の授業を受けさせられる。


──放課後。

大袈裟に包帯を巻いたカンが荷物を取りに来ていた。

態度からして軽傷なのはわかるし、恐らくこの後どういう処置が取られるかを教師から知らされているようだった。

こういう態度を見ていると、ビビが怪我した後にそれまで陰口を言っていた連中の反省の無さを思い出して凄くイライラしてくる。

他人を貶めるタイプの人間は決して反省しないのかもしれない。

私はゆっくりと深呼吸して心を落ち着かせようと思った。

フゥーーー…


「ビビ、帰ろ?」

「…そだね。」

いつもより足取りが重い。

深呼吸した所で、イライラは治まらなかった。

何ならビビとふたりでカンを殴った方がスッキリするかもしれない。

「カラオケでも行く?」

「そんな気分じゃないよ。」

「そうだけど…発散しようよ。」

「イヴは平気なんだね。」

「…別に、平気じゃないよ。」

私の言い方が冷たかったのか、視線を感じる。

「イヴは冷たいよ。」

「ビビがトラブルに巻き込まれるくらいなら、私は何だってするよ。」

「イヴ…」

それ以上、ビビは何も言わなくなってしまった。


校門を出ると、グエンが両親と思われる大人と一緒に頭を下げている現場を見掛けた。

ビビは視線を逸らしている。

そうさせてるのは、きっと私だ。

私も目を逸らすようにスマートグラスの電源を入れた。

通知が来ている。

「これは…」


「ねぇビビ、これ、見てよ。」

「こんな時に何…?」

私は自分のスマートグラスをビビに掛けさせる。

「…見える?」

「えっ、これって…」

「今までのがアップされてるみたい。」

学校サイトのBBS。

生徒会の私は管理運営を一任されていて、書き込みがあると通知が届くようになっていた。

そこに次々とカンがグエンにした行為が画像付きでアップされていた。

「どうなってんの…?」

「わかんないけど、我慢できなかった人が居るんじゃない?」

「これ、拡散できないかな?」

「大丈夫。もうしてるっぽいよ。」

視線を上げると、辺りは騒がしくなっていた。

「おい!SNS見てみろよ!」

どうやらBBSに上げられたものはSNSにも上がって拡散しているらしい。

何人かはグエンたちに駆け寄っていて、グエンの母親と思われる人は安堵の表情を浮かべている。

「…ヒーローって居るんだね。」

ビビがボソッと呟いた。

「…」

異様な騒がしさが嫌になった私はビビの手を引いてその場から逃げ出した。


──駅前、バーガー屋。

「なんか、どっと疲れたぁ~…」

ビビを椅子にどさっと座る。

「ビビ、はしたないよ。」

「ごめんごめん。」

私は食べ損ねた昼食を取り返すように2段重ねのビックバーガーにかぶりついた。

「いいなぁ。イヴは太らなくて。」

ビビがじとっとした目で見てくる。

「ビビはムチムチだからナンパされるかもね。」

「も~!それが嫌なんだってば!」

「大丈夫大丈夫。私と居ればチャラいのは寄って来ないよ。」

私の冷めた視線はチャラい男を寄せ付けない。

「そうかもしれないけどさー…」

ビビはアイスコーヒーで我慢してるようだった。

「ポテト食べる?」

「…食べる。」

私が頼んだポテトは殆どがビビの胃袋へ吸い込まれていった。


「ねぇイヴ。」

「ん?何?」

「あれ、どうなるのかな?」

ビビはまだカンとグエンの件を気にしてるようだった。

「さぁね。証拠が出てきたし、カンが終わるんじゃない?」

「そうなると、解決なのかな?」

「逆転するだけだよ。」

「どゆこと?」

「今までは、グエンがカンに理不尽な目に遭わされてたでしょ?」

「うん。」

「次はカンが全く無関係な誰かに延々と責められるようになる。」

「…うん。」

「でもさ、その誰かがカンを責めていい理由って無いでしょ?責めていいのは、グエン本人とか…グエンの両親とか…あとグエンの友達だけだよ。」

「そうなのかな…」

「そうだよ。そして無関係な以上は、どんな理由でもやってる事は理不尽だよ。」

「うーん…」

「別に虐めを許せって訳じゃないけどさ、貴方には関係ないでしょ?って私は思う。」

「うーん…」

「納得できない?」

「イヴの言う事もわかるんだけど…なんかスッキリしないかな。」

「じゃあ、さっき誰かがやったみたいに、コツコツと証拠揃えて、バーッとばら蒔く?それでどうする?」

「どうするって?」

「『これが真実だー!』ってやる?」

「…嫌だね。」

「でしょ?言われるよ?『お前は止めずに何をしてきたんだよ。』ってさ。」

「そっかぁ…」

「その場で止められた人しかヒーローにはなれないんだよ。」

そう、その場に居ながら、私はビビを守れなかった。

ビビに関する黒い噂…教室で聞いた時点で私が止めるべきだったのに…

「ねぇイヴ?聞いてる?」

「ん?何?」

「この後カラオケ行かない?」

「行こっか。」

「うん…!」

私たちはトレイを戻し、バーガー屋を出た。


「ねぇイヴ。あれ歌ってよ。」

「えー…またぁ?」

カラオケに行くと、ビビが好きな女性シンガーの曲をよく歌わされる。

「だってイヴ上手いじゃん。」

「じゃあ一緒に歌おうよ。」

「いいよ!やろやろ!」

「ノリノリね…」

「こういう時は発散しなきゃ、なんでしょ?」

「ハハッ…そだね。」

この日は2時間も歌った。

ビビは帰宅が遅くて怒られたらしい。

私の親はいつも通り不干渉だった。


私のクラスメイト

奏…大人っぽい子。確か美嘉と仲良い。

謎のヒーロー…正体はわからないけどクラスメイトの誰かだよね。


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