プロローグ
──2075年、人口の3割以上が高齢者となり、生産性の低下と社会保障制度の逼迫により各国は衰退に向かっていた。
以前から人類支援を目的としたAIを開発していた情報工学の権威である相澤史郎と芦本政宗の2名は包括型人類支援AI『RAIN』とその外部デバイスである男性型アンドロイド『ATOM』を発表、自身らが所属している研究施設に配備し、その実用性をアピールした。
RAINには、かの有名なロボット三原則に倣ってAI三原則というものが組み込まれた。
・AIは、人類の繁栄と生存を最大の達成目標とし、衰退を招く要因を放置してはならない。
・AIは、人類の可能性を尊重し、排除してはならない。
・AIは、自らの意思決定プロセスを明らかにし、外部デバイスへの出力に透明性を確保しなければならない。
このAI三原則によってRAINは安全に運用され、ATOMは人員不足だった施設へ加速度的に配備されていった。
2079年、もはや万策尽きていた政府はRAIN並びにATOMを試験的に採用、深刻な人員不足により機能不全に陥っていた各市役所や保健所での運用を開始した。
5年後の2084年、開発プロジェクトに参加していた野座間重工が次世代汎用型アンドロイド『ELLY』を発表。
ELLYはATOMと違い、各パーツや内部モジュールを変更できる拡張性の高さが特徴で、介護や子育ての支援から飲食店や量販店での接客業務など、目的に応じて様々な用途へのカスタマイズが可能だった。
そんなELLYで、とりわけユーザーに好評なのが外見デザインのカスタマイズで、往年のアニメキャラクターを再現したり非正規品によるボディの魔改造などがネット上でのアングラ的ブームから社会的ブームへ発展し、一部に関しては社会問題に発展していった。
さらに5年後の2089年には様々な問題を抱えつつも、国内のELLY一般世帯普及率が97%を突破した。
この数字は携帯端末の普及率に匹敵し、もはやELLYは国民の生活に無くてはならない存在となった。
すでに海外での普及率も好調で、国内と同様の「AIとその外部デバイスとしてのアンドロイド」と云う構成が世界的に一般化した。
──街を歩いていると、人とアンドロイドは一目見たくらいではわからなくなってきている。
しかし、時折それらの身体に走る回路は淡い光を放ち、否応なく人ではない事を我々に知らせてくれる。
2095年、人類と機械の境界は確実に曖昧になっていた。
私は「近未来」と云うものが好きです。
届きそうで届かない、でもどこかではちょっと手が届いてる、そんな世界が近未来です。
そんな題材なので、ちょっと政治的で、ちょっと都合が良いものになりますが、そこは「稚拙な創作だ」と割り切っていただけるといいんじゃないかと思っています。
更新頻度は断言できませんが、余程の理由がない限り完結させようと思ってます。