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第七話 少し楽しみだった日曜日---忍耐編---

日曜の朝。

集合場所は、駅前の広場だった。


オーバーサイズのベージュシャツに、白のインナー。

ボトムスは同系色のワイドパンツで、首元にはいつも付けているシルバーネックレス。

髪型はいつも同じ、前髪を遊ばせて、後ろでひとつに団子結びをしている。

 

俺は少し早めに着いて、自販機の前で缶コーヒーを買った。

……べ、別に楽しみで早く来たわけじゃない。


未来が心配なだけだ。

佐藤が、何をしでかすかわかったもんじゃないし。

それに、未来の私服が可愛いかもしれない──


……いや、正直に言おう。

たぶん、楽しみにしてた。


ベンチに腰を下ろし、コーヒーをひと口。

缶から立ちのぼる微かな香りに、無理やり気持ちを落ち着かせる。

ふと顔を上げると──未来が小走りで近づいてきた。


「慎爺くん、おはよ!」


白のパーカーに、デニム。

シンプルなのに、まるで絵みたいに似合っている。

小走りしたせいか、頬が少し赤い。

微笑む彼女に少し見惚れてしまった。

これも普段、女子と遊ぶ機会は少なかった事への弊害か……


「おはよー。早いな」


できるだけ普通を装って返す。

未来は明るい笑顔で頷き、隣のベンチへ座る。

つられて俺も、頬が緩みそうになったが、慌ててコーヒーに口をつけた。

(心臓、うるさい……落ち着け、落ち着け)

 

少しして、龍ちゃんと凛恵ちゃんが並んでやってくる。

二人はすっかりカップルモードだ。

183センチの龍ちゃんと、彼の胸元くらいの小柄な凛恵ちゃん。

……身長差カップル。ハグとかしたらエモすぎるだろ……これ。


「おっす慎爺、未来ちゃん!」


「おはよう、鶴留くん!」


凛恵ちゃんは控えめな声で挨拶したが、笑顔は柔らかかった。


そこへ、やや遅れて佐藤と、見知らぬ女の子が現れた。

小柄で、活発そうなタイプだ。


佐藤が俺たちに声をかけた。


「おはよ、鶴留。未来ちゃん、おはよー。ごめんね、待たせちゃって」


佐藤は、相変わらず未来にだけ甘い声を向ける。

まあいい。気にしない。

笑顔で返す未来は大人だな……。いや、普通に接してるのか!?

未来が楽しいなら俺も嬉しいからいいか。


隣の女の子が、明るく挨拶してきた。

短髪がよく似合ってて、少し日焼けをしている美少女だ。


「初めまして! 未来の友達の佳織かおりです。よろしくね!」


「よろしく。……本当に初対面だよな? 俺、自分で言うのもなんだけど、見た目は覚えやすいと思うし」


俺は人の顔を覚えるのが本当に苦手で、未来が隣の席だった事も一ヶ月経っても気付かなかったレベルだ。

それに対して俺の見た目は覚えやすいとよく言われる。

佳織に一応だが、聞いてみた。


「あはは、凛恵の彼氏が言ってた通りだ。見た目は怖いけど、掴みどころない感じって。私、前から気になってたんだよ? 龍一くんと一緒にいるところ、見かけて」


佳織は腕を後ろに回し、前のめりになって笑う。

その仕草は自然とした動きで迷いがない。

 

……この子、間違いなく無意識で男子をドキドキさせるタイプだな。


そんな事を思いつつ、俺は立ち上がる。

 

「気になってた? 俺、そんなに目立つ?」


「慎爺は、自分で思ってる以上に女子会で話題に出るんだよ? 知らなかった?」


平然と初対面の男子を呼び捨てにしてくる。

更にはこのフレンドリーな感じ、首をかしげる佳織を見て思う。

──この子、マジで男子キラーだな。


俺たちのやり取りを見ていた龍ちゃんが、わざとらしく咳払いをした。


「よし、メンバーは揃ったみたいだな!」


今日のメンバーは、俺、未来、龍ちゃん、凛恵ちゃん、佐藤、佳織。

この六人で確定らしい。


行き先は、駅近くの大型ショッピングモール。

ゲーセンも、カフェもあるし、適当に時間を潰すにはもってこいだ。


「さて、行きますか!」


龍ちゃんの声に応えて、俺たちはモールへと歩き出した。



ショッピングモールに着くと、まずは服屋へ。

わちゃわちゃ騒ぎながら、店を見て回る。


そして、事件は起きた。


──美少女三人による、即席ファッションショー。


凛恵ちゃんは、オーバーサイズパーカーに細身ジーンズ。

控えめな中にも、可愛さが弾ける。


未来は、ベージュのニットにフレアスカート。

試着室から顔を出した瞬間──本気で天使かと思った。


佳織は、パーカーにショーパンで元気全開。

「これ、どうかな!?」と無邪気に回って見せる姿は、もう反則だった。男子でちゃんと見てたのは、まあ、佐藤は未来しか見てないから、俺だけだった。


「めっちゃ、可愛いじゃん! 佳織のイメージに合う組み合わせだ、活発な女の子って感じ、ショーパンも良いね! スタイルがグッと引き立つからとても良い感じ」

 

……我ながら全力で褒めた。お世辞じゃない、素直な感想だ。

マジで恥ずかしかった、自分で褒めててめっちゃ照れた。


龍ちゃんは当然、凛恵ちゃんに夢中。

佐藤は、未来の隣に居て彼女だけを見ている。


……だから、俺が動いた。


佳織にちゃんとアドバイスをして、未来にもさりげなく声をかけて、

佐藤の穴を埋めるように、陰ながら場のバランスを必死に取った。


慣れない事をして大変だった。

でも、その見返りに──

美少女三人のファッションショーを、正面特等席で見られた。

目の前で見られるなんて十分すぎるご褒美だろう。


その後、雑貨屋、キャラクターグッズショップへと移動。

しかし、そこでも構図は変わらない。

相変わらず、佐藤は未来の隣で色々な話題を話している。

俺にも、佳織にも一切話を振らない。

まるで、二人の世界に居るように見えた。

 

自然と俺は佳織の隣に立ち、趣味の話など話した。

人見知りではないが、佳織のフレンドリーな感じには助けられた。話してて楽しいし、普通に会話が続く。

 

周りの空気を読みながら、自然に会話を繋ぐ。

……これ、思ってた以上に、疲れる。


未来が楽しそうなら、まあ、いいか。

俺は、そう思ってた。


キャラクターグッズショップで佳織と二人で店の外に出た。

佳織はアニメは見るがグッズにはあまり興味ないと俺と意見が一致したのだ。


「ねぇねぇ、キャラクターグッズって普通はどういう物買うの?」


店で楽しそうに見てる四人を見て佳織はグッズに対して理解しようとしていた。

正直、俺も少し興味あるけど、良さがわからない。

アクリルスタンドとか買っても飾らないと思う。


「んー、俺は扇子とかあれば買うかもな。グラサンもグッズとしてあるのかな」


日常生活で使う物があれば買うが、今は欲しい物がない。

夏になれば扇子は買おうかな。


「扇子って、雑貨屋で買えたんじゃない? それに慎爺がグラサンしてたら、不良に見えちゃうよ? 」


「俺が不良? どこが輩に見えるんだよ。せめて、ストリート系にしてくれよな」


「だって、細い体にダボダボの服装でしょ? それに、その髪型とシルバーネックレスが高校生とは思えないんだもん」


「え? 全部じゃん、普通だと思ってたんだけどな。あと、細い体やめて? これでも筋トレしてるんだぜ? ほら、腹筋触ってみ」


「知ってる。放課後にグラウンドで走ってるの見てたから。あ! 腹筋すごいね! 割れてる!」


俺の自慢の腹筋に佳織は触れて、驚きながらはしゃいでいた。

二人で喋っていると、店の中にいる未来と目が合った。

未来に気付いた俺は片手を上げる。

すると未来は少し慌てて棚に隠れてしまった。

可愛らしい反応に少し癒された。


しばらくすると、未来が駆け寄ってきた。

佐藤は龍ちゃんたちに捕まったらしい。


「佳織ちゃんが慎爺くんの腹筋触ってたけど……何の話をしてたの? お腹空いてる…とか?」


無理やり腹筋の話に持ち込もうとしてるのがバレバレだった。

少し緊張してるのか、目が泳いでる。

手をもじもじしてて、わかりやすい未来が可愛く思えた。


「お腹空いてたら普通は自分で触るでしょうよ。いや、腹筋割れてるから触らせただけだよ。前に見たじゃん?」


「え!? 二人ってもしかして、付き合ってたの!? まさか、そこまで関係が進んでたとは!」


佳織は素早く反応して、大袈裟なリアクションをする。

変な誤解を招く言い方ぁぁあ!

俺はそんな彼女に軽くチョップをする。


「からかうのはほどほどにな?」


その時、腹筋を触られる感触を感じて視線を向けると、未来が耳まで赤くしながら触っていた。

意外にも大胆な未来の行動に少し驚きながら、俺は未来にも軽くチョップした。


「男の腹筋に興味あるとか可愛いかよ」


チョップされた二人は顔を見合わせ、それぞれ違う反応をした。

佳織は「ごめんね〜」と笑って。

未来は無言で手を引いた後、「可愛い……とか、またからかった…」と言って少し頬を膨らませて、俺に軽くチョップを仕返した。

俺たち三人は少しの時間だけど、ふざけ合った。


しばらくして、店から龍ちゃん達が出てきた。

それからは、相変わらずの二人組だ。

未来が俺と佳織の話に混ざろうと近づこうとするが、佐藤が話題を振って呼び止める。

未来は優しい性格をしていて、ちゃんと話を聞いていた。

佳織と話してる最中、未来と何度か俺たちをチラチラ見ていた。

 

この状況が一日続くのか?

今日のこれからを考えてた時、限界が来た。

一人の時間が必要だと思った。

そうでないと、自作自演をしてでも帰ろうと思ったからだ。


「……ちょっと、トイレ」


そう言って、俺はその場を離れた。



トイレを済ませた後、休憩スペースのベンチに腰を下ろす。


ひとりになった瞬間、胸の奥が重たくなる。


「……佐藤、マジで自分勝手だな。周りを見ろよ…」


ため息混じりに呟いた。


龍ちゃんと凛恵ちゃんは、完全なカップル。

残った四人の中で、未来にべったりの佐藤。

置き去りの佳織。

フォローする俺。


(……これ、最初から狙ってたんじゃねぇのか)


両手で顔を塞ぎ、大きく深呼吸をする。

はっきり言って、帰りたい。

誰でもいいからヒーロー的存在が登場してくれたら助かる。

俺と代わって欲しい。それなら帰れる。

弱音を考えている俺は目元を押さえて天井を見上げる。


──未来が笑っているなら、もうそれでいい。

みんなも楽しそうだし、俺がどう思おうが関係ない。

大きく息を吐いて、ゆっくり立ち上がった。


歩き出しながら、ふと、心の底で願った。


できることなら。

今日は一日、未来の隣に居たかった……なんて。


……欲張り、だよな。


女々しい自分に苦笑しながら、首に手を当て、上を見上げる。

始まったばかりだし、もう少し頑張るか。

俺はみんなの元へ歩き出した。

忍耐編を見て頂きありがとうございます!

次の話をお楽しみ下さい!


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