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夏を染める楓〜一族から無能と捨てられた少女は、鬼の末裔に愛される〜  作者: 海空里和
第五章

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33.想いを確かめあったあと

 あれから日ノ宮は、呪詛を埋め込んでいたとして罪に問われた。

 首謀者は柊ちゃんのお父さんでもあるご当主だった。ご当主は瘴気に毒されて寝込んでおり、柊ちゃんとともに浄化されて消えたようだ。ご当主が寝ていた布団の上には、彼が着ていた着物だけが残されていた。

 首謀者は消えても、それに加担していた者は解呪師専門部署がある刑務所へと入れられた。

 日ノ宮一族は解呪師の資格をはく奪され、残った者たちは月之院の監視のもと地方で再出発することになった。


「栄光を取り戻そうと焦った先代の日ノ宮当主が呪詛を乱発させていたようだな。そしてその息子も悪事に加担していたようだ」

「そうだったんですか」


 病室のベッドで身体を起こす夏煌さんの説明に頷く。

 夏煌さんは命に別状はなかったものの、腕の傷が深かったため、入院することになった。

 わたしはお見舞いに訪れ、日ノ宮の処遇を聞いていた。


 大昔、呪詛をしかけたあやかしもいたみたいだけど、鬼の一族は仕掛けていない。日ノ宮は鬼姫からその(すべ)を聞きだし、仕掛けては鬼のせいにしていたようだ。


(日ノ宮は自分たちの利権のために自作自演を続けてきたんだ)



 この国を巻き込んでの日ノ宮の罪に、申しわけなく思った。


「楓、亮磨に身の回りのことは頼んであるけど、大丈夫? 不便はない?」


 夏煌さんが入院してからも、わたしはあのマンションでお世話になっていた。


「寂しくない?」

「はい! 食事も月城さんが一緒にとってくださるので」

「亮磨?」


 心配かけないように笑って言えば、夏煌さんは入口近くに立っていた月城さんをぎろりと睨んだ。


「ちょ、俺が悪いんですか!? 夏煌様~!」


 たじろぐ月城さんを夏煌さんがまだ睨むので、わたしは彼の手に自身の手を重ねた。


「……っ、かえ、で?」


 身体を硬直させ、夏煌さんはわたしに視線を戻す。


「夏煌さんがいなくて本当は寂しいです……。だから、早く元気になってください」


 久しぶりに会えたと思ったら深刻な話から始まって、今は月城さんを見ている。

 わたしは夏煌さんの視線を奪いたくて、大胆なことを言ってしまった。


「……っ、」


 夏煌さんが顔を赤らめ、身体を震わせている。


「夏煌さん?」


 動かない夏煌さんを下から覗き込む。


「ぶっ、は!」


 月城さんが盛大に吹き出した。


「夏煌様、いつも自分が押せ押せだったから、楓ちゃんにそんなこと言われて感動でフリーズしてるよ!」

「えっ!?」


 いつも恥ずかしいくらいの愛を囁いている夏煌さんが?


 彼をちらりと見れば、顔が真っ赤だ。


「仕方ないだろう……。楓が俺を選んでくれただけでも夢みたいなんだから」


 そんな可愛いことを言う夏煌さんに、わたしの顔まで赤くなる。


「あー、はいはい。ごちそうさまです! じゃあ俺、その辺ぶらついてくるから帰るとき電話して」

「えっ」

「ごゆっくり~」


 月城さんは立て続けに話すと、病室を出て行った。去り際のウインクが、わたしの気持ちを見透かしていたようで恥ずかしい。


(二人っきりだ……)


 二人残された病室、久しぶりに夏煌さんと二人だけで向かい合いドキドキする。


「二人っきりだね」

「!」


 心を読まれたのかと驚き、身体をこわばらせてしまう。

 そんなわたしを見て、夏煌さんはふっと笑った。


「こんなところで何もしないから安心して」

「えっ、あの?」


 これでは、わたしが過剰に意識しているみたいだ。恥ずかしくて顔が熱い。


「本当はキスしたいけど」

「!」

 甘い夏煌さんは健在で。


「ふっ……」

「ふふ」


 変わらない彼に思わず笑えば、彼からも笑みがこぼれた。


「元気そうで安心しました」


 改めて夏煌さんに向き直る。


「うん。心配かけて、寂しい思いをさせてごめんね。もうすぐ退院するから待っていて」

「はい。待っていますね」


 優しい眼差しに返事をすれば、左手を取られる。


「離れていても、伝えられない間も愛しているよ」

「!?」


 夏煌さんは愛を囁くと、左手の指輪にキスをした。


「キスはしないって!?」


 真っ赤になって椅子から落ちそうになったわたしの手を、夏煌さんがぐっと掴む。


「ごめん、楓が可愛くて」


 くすくす笑う夏煌さんは余裕の表情で、わたしは口を尖らせた。


「それも続くんですか?」

「それ?」


 わかっているくせに意地悪な顔で聞き返す。


「その……っ、愛を伝えてくれるやつです!」


 恥ずかしくて目を見られない。一気に言葉にしたところで彼に手を引かれ、わたしは夏煌さんの胸へ飛び込む形になった。


 夏煌さんは私をしっかり受け止め、ベッドの端に座らせる。


「当たり前でしょ。結婚してくれるまでは伝え続けるよ」

「~っっ! わたし、まだ高校生です!」

「じゃあ卒業したらいいの?」

「~~!!」


 想いを確かめ合ったせいか、夏煌さんはぐいぐいと容赦なく迫ってくる。


「それに、誕生日を迎えたら卒業しなくとも結婚できる年齢だよね?」

「な、夏煌さん!!」


 顔を寄せられ、耐えられなくなったわたしは叫ぶ。


「まあ楓が俺と結婚するのは決定事項だから、婚約期間を楽しむのもいいかもね? お披露目パーティーでもしようか」


 からかうように笑いながら夏煌さんの顔が遠ざかる。


(わたしばっかりドキドキさせられている気がする)


 大人の彼には敵わない。さっき月城さんが言っていたことを思い出し、ささやかな反撃を思い付いた。


「わたしはウエディングドレスが着たいです」

「えっ」


 笑っていた彼が固まる。

 頬が紅潮し、じわじわとその熱が高まっていくのがわかる。


(本当にこんなことで喜んでくれるんだ)


 反撃が成功したようで、くすぐったい気持ちになる。


「楓……! それって!」

「話は退院してからです! 早く元気になってください! それじゃあお大事に!」


 それ以上はわたしには無理で。恥ずかしさを隠すように早口でまくしたてると、高揚していた夏煌さんを置いて病室を出た。


(結婚かあ)


 病室の扉を背に、ドキドキする胸を落ち着かせる。


 自分の未来に期待する日がくるなんて、夢にも思わなかった。


 幸せを思い描く自分にびっくりして、幸せで、わたしは別れたばかりの夏煌さんにまた会いたくなった。

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