第八話 高収入のバイトには必ず裏があるから注意だぜ
ラブは地下街をトボトボ歩く。
アンダートーキョーのリトルハラジュクは汚い。
飲み屋街、ラブホ、そしてマフィアの事務所など・・・
最近は他国から避難してきた外国人も多く見かけ、よりカオスになってきている。
はぁー・・・健ちゃんに悪いことしちゃったな・・・
洗濯とか家事を手伝って、健ちゃんの家に住まわせてもらおうと思ったのに。
住む場所を探したりしなきゃだけど、お金ないしな・・・
あれ、ここ・・・バイト募集してる!!
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「今日からこの喫茶店で働くことになりましたラブです!よろしくお願いしあっす!」
「じゃあ、ラブくん。あちらのお客様に注文をとってきて!」
「はい!」
「ご注文は何にしあしょうか!?」
「じゃあコーラください!」
「かしこまり!!」
「こちらコーラになります!!!お上がりよっ!」
ゴクゴクッ
「うげっ!!!このコーラくそまずい!なんだこれは?」
「あ、コーラだけだと味気ないのでオレンジジュースとファンタメロンを混ぜてみました!」
「あのさ、高校生がファミレスでやる悪ノリすんのやめなーい!?ってかさ、客に出すもんで遊ばないでー!?」
「え、喜んでくれると思ったんすけど・・・」
「じゃあ、腹減ってるからこのピザと・・・あとコーラ!!!」
「かしこまりー!」
「こちらピザとコーラです!お上がりよ!」
「おい、コーラ来てねーじゃねーか。ここの店員は注文一つ聞けねーのかよ」
「いえ、コーラもちゃんと」
「は?どこにも無いじゃねーか」
「いえ、きちんとピザの生地に入れております」
「えええ!そのサンドウィッチマンのコントのネタみたいなこと、ガチでやるのやめなーい?さっきからなんでも混ぜすぎー!食べ物ってシンプルなのが一番美味しいんだよー!?」(※1)
「え、注文通りに作ったんすけど・・・」
「どうなってんだよ!!ふざけるな!こんな店二度と来るかよ!」
「・・・店長、次のお仕事は?」
「きみ、クビ!!!」
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上手くいないもんだなー・・・真面目にやってたのに・・・
でも初めは誰しも上手くいかないものよ!平常心!平常心!
次、次ー!
「今日からこの洋服屋で働くことになりましたラブです!よろしくお願いしあっす!」
「じゃあ、あちらのお客様を接客してきて」
「はいっ!」
「いらっしゃせー。お客様、ご試着もできますのでー」
「あ、店員さん。今日、これからデートでさ!彼女が俺のことをもっと好きになるようなおすすめの洋服はあるかな?」
「そうですね。それでしたらこのT.M.Revolutionが着用していた“HOT LIMIT“の衣装はいかがでしょうか?」(※1)
「そうそう、この身体にテープを巻いたようなデザインの・・・って、これデートで着ていくのキツくなーい!?色々なとこ出ちゃってるよ!?出すもの、出しちゃってるよ!?」
「お気に召しませんか・・・?これT.M.Revolutionさんがテレビに出てる時、すごくキャーキャー言われていたので最高のモテ服だと思ったのですが・・・」
「他、もっと布面積のあるものをお願いするよ・・・!」
「では1999年に嵐が“A・RA・SHI“を歌唱する時にMステで着用していたこちらの衣装はいかがでしょうか?」(※2 )
「そうそう、これならちゃんと生地があるし安心だ・・・って、スケスケー!!これ上半身に生地あるけど、ほぼ裸だよー!?ある意味で伝説の衣装になっちゃってるじゃんーーー!これ着てフラれても、涙だって明日のエナジー!!!」
「お気に召しませんか・・・こちらもキャーキャー言われてたので、最高のモテ服だと思ったのですが・・・」
「もういいよ!二度とこんな店に来るかよ!」
「・・・店長、次の仕事は?」
「あなた、クビ!」
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仕事って難しいな・・・頑張って喜ばせようとしてるのに・・・
「ねえねえ、そこのギャルのお姉ちゃん、超マブイじゃん!何してんのー?暇してるなら俺と遊ばないー?」
金髪のチンピラ風の男が絡んできた。
「ウチ、お金なくて今から仕事を探さないといけないので遊んでいる暇など無いのです。じゃ!」
「え、仕事?俺が紹介するよ!!お姉ちゃんの体ならめっちゃ稼げるよ!!どう、どう?」
チンピラは鼻の下を伸ばしてラブの胸をいやらしい目でじっと見る。
「あ、ウチそう言うエロそうなのやらないんで!じゃ!」
「ちょっと待った!ならめちゃめちゃ簡単に稼げる仕事あるけど、やる?」
「・・・どんな仕事ですか?」
「猫を探したり、鳥を撮影したりするだけ!どう?お姉ちゃんでもできそうでしょ?」
「え?そんな簡単なことでいいの?ウチ、猫好きだから天職かもしれない!」
「うん。簡単だろ?日当7500円。お姉ちゃん、見たところ家出中でしょ・・・?金ないんだったらやってみない?」
「え、ウチやる!!」
「そうと決まったら事務所に行こう!」
チンピラにラブがついて行こうとしたその時。
「ちょっと待て」
一人の男がそれを止める。
「え、健ちゃん・・・」
やれやれといった感じで健一が頭を掻いた。
「お前、危なくて見てらんねーな・・・」
「おい、お前誰だよ!俺はこの子に今から仕事を紹介するとこなんだよ!邪魔すんな!」
「あのな、ラブ。そいつが言ってる猫は高級車の隠語。つまり猫探しってのはな“高級車“を探す仕事だ。」
「え・・・?」
「さっきニュースで大富豪から高級なビンテージカーが盗まれる事件が多発してるって言ってた・・・犯人はお前らか?つまり“猫探し“をするってことは知らぬ内に犯罪に加担するってことになるわけだ」
「おい、兄ちゃん。さっきから誤解がひどいじゃねーか」
チンピラは少し焦った様子を見せる。
「お前らがビンテージカーを盗もうが俺は知ったこっちゃねー。このアンダートーキョーでは犯罪は日常茶飯事だ。だがな、ラブみたいな若い子が犯罪に手を染めるのを俺は見逃せねーな」
「おいおい。冗談は勘弁だぜ・・・」
男はそう言うとポケットからナイフを取り出し健一に向かって突き刺してきた。
健一は男のナイフを避けると腹に拳を叩き込む。
うっ
チンピラが血を吐いた。
「いてーぜ・・・兄ちゃん。だがな、俺たちの顔を見られたからにはただじゃ済まねー!お前がポリに俺たちを売らねーとも限らないからな。ここで始末しておく」
チンピラの男が片手を上に上げると、周辺にいたチンピラの仲間たちが数人集まってきた。
「やっちまえ!!!」
男たちが襲いかかってくる。
「ラブ、こっちにこい」
「・・・うんっ」
チンピラの一人が健一に飛びかかってきたがそれを避けてカウンターを喰らわせる。
横からはバットが勢いよく振られるがそれを腕で止めると足で蹴りを入れた。
チンピラたちの攻撃を全て避けて確実に一人づつ仕留めていく。
地上でミュータントと戦っていた健一にとって普通の人間の攻撃など屁でもない。
「お前ら、全然連携できてねーな。そんなに人数いるのに、なんで一人づつ攻撃してくるんだっつーの。ポケモンの四天王かよ。全員でかかってくりゃお前らにも勝機があったかもな」
「こいつどうなってやがる・・・!つえー・・・!」
「ダメだ。勝てねー・・・」
「に、逃げよう・・・!」
チンピラたちが逃げるようにその場を立ち去って行った。
「まっ、わざわざ捕まえる筋合いは俺にはないからな。面倒だし逃してやるよ」
「・・・健ちゃん、また助けられちゃったね・・・」
「・・・」
「ごめんなさい・・・」
健一はため息を吐くと
頭をポリポリと掻いた
「洗濯物」
「え・・・?」
「まだ取り込んでねーだろ。さっさと家に帰って取り込め」
「健ちゃん・・・」
「ほら、帰るぞ」
ラブの顔が嬉しそうな笑顔で溢れる。
「健ちゃーーーん!!!」
ラブは健一の方に飛びかかり抱きついた。
大きい胸が健一の腕に押し付けられる・・・
「おい!逮捕されんだろ!気をつけろ!」
「家帰ったら、あのね・・・(コソコソ)」
「アホか!!!」
原宿エキセントリックボーイにまた一人仲間が増えたのであった。
※1 サンドウィッチマンのコント
2016年のネタで「ピザ」ってコントがございまして・・・すごく面白いのでyoutubeとかで見てみてください。
※2 T.M.Revolutionが着用していたHOT LIMIT
身体に黒いテープを巻きつけたようなデザインの衣装。アバンギャルドなデザインでこれが成立してしまうT.Mさんって本当すごいなって当時思いました。
※3 嵐『A・RA・SHI』 1999年Mステ初登場時衣装
全身スケスケの衣装でいまだにファンの間でも伝説になっている衣装です。
最近はどのアーティストの衣装ももちろんかっこいいんだけどどこか型に収まっている感じで。
当時のデザインはすごく攻めたデザインで面白かった。作った人たちの発想に脱帽です。
改めて今見るとすごい時代でしたね。
興味が湧いた人はネットで調べてみてください。