第二話 白い悪魔
ピー
IDコード入力可能
IDヲ確認シマシタ
HUNTER NAME: KENICHI SUNABA
イツデモ、地上ニ射出可能デス
「行くぜ!『スカベンジャー・スナバケンイチ』出る!!!」
ガチャン
ゴゴゴゴゴゴ
チュイィィィン
機体射出!!
テ、テテテーンテーテテー
シャキーン
「シャキーンって!ちょっと待って春田くん!!これ準備するもの間違えてるから!これ間違えてガンダム用意しちゃってるから!序盤でこれやると本当にそういう世界観だって勘違いさせちゃうからね!気をつけて!」
ピー
通信が入る。
「テス、テス、健さん聞こえてますか?」
「聞こえてるよ!お前、間違えてガンダム用意しちゃってるのよ!俺が頼んだの車よ?TOYOTAのランドクルーザーなのよ!一文字も合ってないんだわ!」
「あれ、健さんって伝説のモビルスーツ乗りじゃなかったでしたっけ?」
「それ何か勘違いしてるよ?昔俺に向けてた、あの熱い視線は勘違いから向けられていたのかな!?」
「あ、すいません電波状況がガガガ」
「いや、不自然に通信エラーしないで!ねぇ、冗談だって言って!?おーい!」
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ガチャ
車のドアを開けて乗り込む。
そしてエンジンをかける。
「懐かしい乗り心地だ。やっぱり地上を走るならこれじゃねーとな」
ピー
「健さん、気に入りましたか?」
「ああ。最高だぜ。
ランドクルーザー100
アイボリーがかった色合い
丸いヘッドライトによる優しそうな面…俺好みだ」
「そいつ、高かったんですからね!必ずT-BACKを地上から引っ張って来てください!」
「いやいや、ガンダムより絶対安いよね?なんで最初にガンダム行ったの?」
「・・・リフトがもうすぐ地上に着きます」
「今の間は何!?やっぱり勘違いしてたの?ねえ、教えて!?」
ピー
「健さん、到着しました。リフトの扉をあけると外は毒ガス、ウィルスによって身体の機能を侵蝕してきます。くれぐれもガスマスクの装着をお忘れなきよう!」
「誰に言ってるんだよ、俺だぞ」
「いえ、世界観の説明で」
「そう言うメタイのやめてー!」
「まあ、わかったよ…」
健一はガスマスクを装着し、グローブをはめた。
「健さん、気をつけて。行ってらっしゃい」
地上時間はAM5:00
地下時間と数時間ズレる。
エキセントリック〜♩エキセントリック〜♩エキセントリック少年ボ〜イ♩
今日も〜
BGMには俺が大好きなビンテージソングを流す。これを聞くと、なんだか考えごとが捗る。
地上には何もない。
荒廃したビルや、かろうじて残っている電柱や電線。
そこにたくさんのお宝が眠っている。
昔は生物がいたというが・・・
今見かけるのはゴキブリや、かろうじてミュータント化した生物だけだ。
もしもミュータントと出会った場合、普通なら逃げ出す他ないだろう。
そして空が青かったらしい。だが、今や雲が一面を覆いつくし、見渡す限り白い雲。
俺たちは慣れちまってるから何とも思わねーが、まるで異世界かと思うだろうな。昔の人たちがこれを見たらなんて言うんだろうか。
「いつもあるものが、当たり前のようにずっとそこにあり続けると思うなよ」
こんな感じか?
車を運転してる時は色々と考えてしまう。
ピー
「その車は300年以上も昔の物なので、最新の車のような3Dモニターがついていません。なのでマップを見る場合はハンドル左横のエアコン吹き出し口のところに付けたタブレットを見てください」
タブレットから3Dが浮き出て現在地と目的地周辺が映っている。
「健さんが上がったリフトは千駄ヶ谷付近です。そこから原宿までは大体15分かからないでしょう」
「あぁ、到着次第ビンテージを漁る」
車を走らせて、まもなく目的地の原宿だ。
建物は崩壊し、元々どんな店がそこにあったかなんてわからない。嗅覚でアタリをつけてきた位置の瓦礫をどかして地味に探していくしかない。
ピー
「健さん、本当にスコップとシャベルで漁るんですか?今はレーザー仕様のものや簡易的なクレーンが主流ですが」
「ああ。これでいい」
「まあ、欲しいと言われてもガンダムでほとんど予算を使ってしまったので用意はできなかったんですが」
「えー!あれガチで買っちゃったの!?ってか、ガンダム幾らしたのよ!?元あった場所に返してきなさい!」
バタン
車から降りるとトランクからシャベルを取り出し背中のストラップに差し込む。そして小さめのスコップを腰に装着した。
行くか。
300年前、原宿のとんちゃん通りと呼ばれていた場所だ。
「またここに来ちまった」
3日しかないから掘る場所は慎重に決めたつもりだ。
「やるか」
ガシャ ガシャ
目的地点の瓦礫をどかす
この一帯でビンテージが売られていたのは300年前の話。
今手元にあるマップも師匠と俺が過去にざっくりと作った物だ。
だからその位置に必ずしもビンテージが眠っているとは限らない。
「おっ」
ペシャンコになったハンガーラックに、少しだけ埃まみれの服がかかっている。
「ビンテージのchampionか。刺繍タグだがそこそこの値段にはなりそうだな。」(※1 刺繍タグ)
「ここにはもう無さそうだな。」
いくつか漁り終わるとそれらを回収し、車のトランクに積み込む。
ピー
「健さん、調子はどうですか?」
「目的のブツはさすがに見つからない。が、いくつか収穫はあった」
「おめでとうございます!他のハンターは一か月かけて何も持ち帰れないことがざらなのに。やはり健さんは凄い」
「まあ、師匠仕込みの知識でなんとかなってる」
「行けそうですか?レジェンダリー」
「今回は当てがある。今まで、まだ掘ったことがない場所だ」
「それは期待できそうです。それでは僕は仕事なので、後は無事に帰ってくるのを楽しみにしています」
次の地点は近い。
歩いて行こう。
漁って車で寝泊まりをしてを繰り返し、もう今日が最終日だ。
毒ガスやウィルスなどのせいで、基本的に車の中以外ではガスマスクを取れない。
外気を清浄する小型の機械も後部座席に置かれているが、長期間の遠征などになるとこれだけでは耐えられなくなるだろう。
夜までには帰らないと、マフィアへの借金返済が間に合わなくなってまた金額を増やされかねない。
急ぐか。
ガシャ ガシャン
「くそっ。今日はついてねーな」
初日が嘘のようにあれからずっと何も収穫がない。漁れてあと5時間。最後は俺が一番期待している地点に全ての時間を掛けよう。
キャーーーーー
「女の声!?」
※1 刺繍タグ
ビンテージ市場で大変人気が高いアイテムの一つであるchampionのスウェットにおいて刺繍タグというものがあり、年代が比較的新しく現在はそこまで価値が高くない。
年代別に説明すると
50年代近辺 ランタグ
スポーツウェアとして始まったchampionらしく人が走っているマークが入っているタグのもの
60年台 タタキタグ
他の年代のものは襟下に上部を縫い込んでいるタグだが、この年代はタグの四方をたたく(縫う)ものになっている
70年台 単色タグ
タグの文字が全て単色で表記されている
80年代 トリコタグ
タグの文字は黒だが、マークがトリコロールのカラーリングになっている
90年代〜2000年頭 刺繍タグ
タグ自体が織られたものになっており、それにより文字部分なども少し凹凸があるタグのもの
もちろん古ければ古いだけ価値はあるのだが、フロントに入っているプリントによっても価値は変わる。例えば現在はミリタリーのプリントが入ったスウェットが人気で、そのプリントのものが多くみられる70年代、80年代のスウェットが50年代のランタグなどの値段を超えることもある。
ちなみに上記ミリタリープリントのもので安くて5万円、高くて15万円で取引される。オークションなどでは40万円つけられて売れているようなものも存在する。
(2024年11月現在)