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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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聖剣を持つ者

 移動の途中で川に辿り着き、俺は埃だらけの外套と自分の服と、ついでに体を洗った。衣服の乾燥については英霊の記憶で得た魔法がある。魔法学園に通って明かりくらいしかついぞ使えなかったので、こういう魔法は初めてだったのだが……なんというか、便利だな、魔法。


「魔法を学んでいない一般人みたいな考えだな……」


 自嘲的に呟きつつ、服が乾ききったのを確認後、着直して移動を再開。とりあえず山を突っ切るのだが、魔物の気配などは狩人の能力から把握できるため、問題なくやり過ごすことができた。

 サバイバル知識もあるので、滞在した砦を利用すれば山の中で暮らしていくことも可能だろう……ほとぼりが冷めるまで山の中で過ごすというもの手ではあるのだが、その間に兄や父は謀略を巡らせのし上がろうとするだろう。そこに魔物が関わってくるのであれば血を見る可能性は否定できない。やはり、迅速に行動した方がいい。


 俺は何一つ障害なく山を進み……野宿を一度挟んだ後、山を下りた。そして街道を見つけ歩いていると、結構大きめな町を発見。まずは看板などを確認して現在位置を把握する。


「えっと、町の名前はフラシェスか。うん、大体目論見通りかな」


 交通の要所であり、王都から南西に存在する町だ。俺が行こうとしていた別荘とは方角が違うので、誰かが探しに来る可能性も低い。

 俺がここにいることを隠すため魔法で見た目を誤魔化す方法もあるのだが……町中で魔法を使うことは禁止されているので、これはこれでバレたら面倒なことになる。リスクを背負うような真似はするべきじゃないので、あくまで最終手段だ。


 俺はまず、外套で衣服を隠しつつ魔法に関する道具屋へ赴く。そして砦から拝借した魔石を換金した。価値は正直わからなかったのだが、それなりに魔力のこもった良い物だったらしく、予想以上の金額で売却することができた。

 これで装備を整えられる……荷物を入れるザックや町中を歩く剣士などを参考に冒険者用の衣服を購入。その後、宿をとって部屋の中で着替えることに。


「そういえば、緊張も何もなかったな」


 換金して店を回って、などという経験はないんだけど、何も感じなかった……俺に宿った騎士や狩人の記憶がそうさせたのだろうか?

 あるいは、俺自身自由になって心境に変化があるのか……考えながら新たな衣服に袖を通す。


 ――目立たないよう意識してか、藍色を基調にした地味な物になった。革製のベルトには小さなポーチをつけている。これは山へ入るのに必要になりそうな薬草とか、携帯食料とかを入れるための物だ。また砦から持ってきた外套は処分することに。

 顔とかを隠すために何か新たに購入すべきか悩んだのだが、それは逆に怪しまれそうだし、やめることにした。


 そしていくらか旅に必要な物を購入し、支度は全て完了。あとやることは……、


「魔物に関する情報集めか……?」


 能力の検証すべく魔物と戦うなら当然、どこに魔物がいるのかを調べないといけない。ただ、路銀を稼ぐために森や山の中に入るのであれば、その道中で遭遇することもあるだろう。


「ギルドで登録していなくても、能力を使えば調べられるかな……?」


 一瞬悩んだのだが、リスクを少しでも低くするために明日は自分の足で探してみようと決断する。砦から山の中を歩いていて、それなりに距離のある魔物も狩人の能力によって感知していた。なら、多少散策すれば魔物を見つけることは可能かもしれない。

 方針は決まり、宿へ戻る。そして部屋に入り、ベッドをソファ代わりにして座り込んだ。


「……今頃、セオは何をしているかな」


 魔物が消滅したことはわかっているのだろうか。あるいは――


「俺がここにいるのも、わかっている可能性もあるか?」


 さすがに考えすぎだろうか……? ただ、警戒するに越したことはないはずだ。

 セオと父、どちらの仕業なのかは不明だが様々な想定をしているはずだ。葬儀の最中に生きている俺が現れる、なんてことがあったら大恥をかく羽目になる。


 政争を繰り広げ、体裁を気にする以上は俺の死体が見つかるまでは行方不明として捜索するかもしれない……今の段階で見つかるわけにはいかない。慎重に行動しようと決意しつつ、一日を終えることとなった。






 ――翌日、日の出からしばらくして俺は起床した。ベッドから起き上がると、見慣れない部屋に一瞬混乱した後、自分がどこにいるかを思い出し、


「……よし、やるか」


 起き上がって支度をする。とりあえず朝食をとってから、近くの森へ……と、ここで俺は外がザワザワしていることに気がついた。


「ん……?」


 窓を開けてみる……のだが、俺の部屋は大通りが見える場所ではないので、騒がしいのはわかるが原因は確認できない。


「とりあえず、宿を出るか」


 昨日の時点で朝食をどこで食べようかというのは目星はつけているので、まずはそこへ――と、思いつつ宿の外へ出た時、俺の足が止まった。

 目の前に、鎧に身を固めた町を歩む兵士と騎士の姿が見えた。一瞬、俺の顔を知る人間がいるかもしれないと思ったが……こちらへ視線を向ける人など皆無であったため、俺はじっと彼らの姿を観察することに。


 おそらく魔物の討伐を行うために移動しているのだろう――騎士にも関わらず騎乗する人間が誰一人としていないため、山へと向かうのだろうと推測できた。

 ふと、学園で話し込んでいる学生のことを思い出す。そういえば魔物討伐云々の話題があった。そして、それに参加する学生がいることも――


 その時、俺はある人物を視線に捉えた。話したことはない……同じ授業を受けてその姿を見た程度であったが、鎧姿でもその人物に見覚えがあった。


 ――肩を越えるほどの長さの金髪と碧眼を持つ女性騎士。腰に差しているのは純白の鞘と柄を持つ剣。それは勇者が使っていた聖剣であり、知っている人もいるのか彼女へ目を向ける人がいた。

 白銀の鎧を着る出で立ちは威風堂々としていながら可憐さも併せ持つ。すれ違うだけで男女問わず釘付けにする気品と、圧倒的とも呼べるその美貌――学園では女神が現れた、と評する者もいたが、それは茶化したものではなく本心からのもの。


 その名はメイリス――メイリス=シャルレードといい、アスディア王国を建国した勇者の子孫である。

 聖剣とは勇者が所持していた武器であり、魔王を打ち破るために精霊や天使から力を授かり生まれた剣……アスディア王国は勇者の血筋が治めているため当然彼女も王族ではあるのだが、位置としては遠縁であり、彼女が聖剣に選ばれるまでは騎士を輩出する下級貴族だったらしい。


 けれど、彼女が聖剣を手にしたことで……もっとも学生という身でありながら魔物討伐に参加するのはそれだけが理由ではない。彼女には騎士としての才覚がある……聖剣がなくとも現役の騎士を倒せるほどの実力を持っている、と俺は学園のどこかで聞いた憶えがあった。

 俺はそっと下がり、一度宿へ戻った。彼女が俺のことを知っているかどうかはわからないが、もし見覚えがあるなら面倒なことになりかねない。


 彼らがどこへ行くのかは不明だが、さすがにかち合うことはないだろう……ここでやり過ごせば問題はないはず。そう思いつつ、宿の中で騎士達が去るのを待った。


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