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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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使命感

 俺が起床したのは朝方。ずいぶんと長く眠っていた……座りながらの睡眠だったので少し体は痛かったが、疲労は抜けており早速行動を開始する。

 何をするか……まず、狩人の記憶で得た能力を確かめる。魔術師の私室には色々と残された物があり、その中の一つに狩猟用の弓矢があった。魔力が込められているようであまり劣化しておらず、弓も矢もとりあえず使えそうだったので、これを持って外へ出た。


「でも、ここにいた魔術師は弓矢で狩りをしていたのか?」


 そんな疑問を口にして……魔法を組み合わせれば十分可能かと思い直しつつ、弓を構えながら森へと目を凝らした。

 ――狩人の力。それを身に宿したことで、森の中にいる生物の気配を強く感じられるようになっていた。加えて弓の技術……それがどれほどのものか確かめる。


 俺はじっと意識を集中させる。目で、耳で、魔力で森の中を探り続け……やがて俺は茂みの中に気配を見つけた。

 同時、弓を構え矢をつがえた。さらに握る矢に魔力を注ぎ、それが矢全体に伝わって淡く光る。


 見つけた気配は動かない。俺はそれを確認した後、矢を放った。それは注いだ魔力の効果もあって一直線に――落ちることなく、真っ直ぐ目標に直撃した。

 それで気配は動かなくなる……俺はゆっくりとした足取りで歩き始め……茂みをかきわけ成果を確認する。


 一匹のウサギが矢を受けて倒れていた。俺はそれを見て間違いなく狩人の力が記憶を通して宿っていることを確信した。






 魔術師の私室に狩猟用のナイフも転がっていたので、それを使って獲物を解体し食事をする。薪を集め砦の入口で火をおこし、肉を焼く。


 ――勉強はしていたけれど、さすがに獲物のさばき方なんかは学んでいない。けれど、今の俺には知識がある。それは間違いなく狩人の記憶によるものだ。

 さらに言えば森の知識も得ているため、食べられる木の実とか果実とかも理解できた。薪を集める際に食べ物を集めることにも成功し、しっかりとした食事ができる。


「いただきます」


 肉が焼き上がったタイミングで、食事を始める。木の実や肉を口に入れた瞬間、体に染み入るようだった。

 しばらくの間は淡々と食事を進め……やがて全てを食べ終えた瞬間、俺は地面に大の字に転がった。


「はあ……助かった……」


 腹も満たされ、自分の状況を改めて理解し息をついた。絶望的な状況だったけれど、奇跡的に得た魔法の道具――そこから記憶を得て、魔物を倒しこうして食事にありつくことができた。

 幸運からさらに幸運が重なったかのようだった。ただ、元々家を追い出さなければこんなことになっていないというのを考えたら、良いのか悪いのかわからないな。


「ま、いい……改めてどうするのか……」


 空を見ながら考える。魔物を倒せるだけの力を手にすることはできた……が、まだまだ検証はしなければならない。二つの記憶――片や全てを失った騎士。もう一方は故郷を滅ぼされた狩人。どういう経緯で記憶が道具に込められたかわからない。しかし俺は今、騎士と狩人、その二つの記憶に秘められた力と技術を宿した。


 俺は相応に強くなったと考えていいだろう……なら、何をすべきなのか。まず優先すべきはこの二つの力をさらに調べていくこと。それは実戦で――魔物などと戦うことで調べていくしかない。


 そして……昨日の魔物を思い出す。あれは間違いなく、セオか父の仕業だろう。魔物を使役していることが公になればカーヴェイル家がどうなるかは想像に難くないが、だとしてもこんな所業は止めるべきだと思う。

 政治の世界は綺麗事だけではないというのは俺も理解しているが、政争の相手を魔物で……なんて、そんな方法でのし上がろうなんて、いずれ破滅するに決まっている。


 何よりそうして屍の山を築いて政治の頂点に立つなんて……。


「でも、止めるなんてできるのか?」


 魔物を倒す力は得た。でも、今の俺にできるのはそれだけだ……色々考えるが、まずは何より力の検証からだと結論づける。俺が得た力がどれほどのものか。それを見極めることで今後の動き方も変わっていく。

 今から何をすべきかも決めた。俺は立ち上がり砦の中へ。魔術師の私室へと入り、埃っぽいが使えそうな藍色の外套を手に取った。


 どういう目的で動くにしろ、町へ赴く必要がある。けれど俺の格好は貴族が着るような衣服なので、どう考えても目立つ。よって格好を隠すための物が必要であり、外套を使おうと考えた。汚れは川で洗えばいいし……ついでに今の衣服も泥だらけだし、体を洗うのと合わせて川へ向かうとしよう。


 あと必要な物は……俺は魔術師の私室を漁る。結果として、魔力が込められた石をいくつか手に入れた。


 これは魔法実験などで触媒に使う物だ。そういったことをしない俺にとっては価値のない物だが、しかるべき場所で売れば路銀くらいにはなる。うん、必要な物は手に入れたかな。


「それじゃあ、行くとするか」


 何はともあれ、まずは町へ。情報収集に加えて、金を稼ぐ必要がある――アスディア王国を含め、旅人や傭兵などは仕事を斡旋してもらうためにギルドに登録をする。力を手に入れたのであれば、そういう場所に所属して魔物討伐を行う……というのも一つの回答ではある。


 ただ俺は、別の可能性を見いだしていた。そういう場所に登録をするとなったら当然、本名は明かせないので偽名になるのだが……そもそも俺の人相を見て、噂になる可能性がある。カーヴェイル家とギルド――繋がりはないはずだが、実際は俺の知らないところで何かしら関係を持っているかもしれない。


 そういうのを避けるために、別の方法で金を稼ぐ……具体的に言えば、手に入れた狩人の力を使い狩猟によって日銭を稼ぐ。これならギルドに所属しなくてもいい。


「まずは手にした能力を見極めながら路銀を稼ぎ……そこから先は、後で考えよう」


 結論を出し、歩き始める……やることは多いけれど、ワクワクしている自分がいた。


「……自由、か」


 俺はなんとなく呟く。そう、思わぬ形ではあるけれど、俺は自由を得た。

 何もかも全てを失い、死にかけた後に舞い込んだ自由。無論、こうなった経緯を考えれば兄や父に感謝などしない……けれど、恨んでいるかと言われるとそうでもない。


 ただ、止めなければならない……使命感に近い感情が、どこまでも俺の胸に宿っている。


「記憶の中の騎士も、似たような感じだったのかな……」


 呟いてみたけれど答えは出ない。記憶を垣間見ることで力や技術を手にしたが、英霊達の心理状況まで克明に分かるわけではないためだ。

 俺は思考を中断し進む。まずは森を抜けなければ。


「けど、馬車で向かっていた方角へ進むのは微妙だな……もう少し南へ行くか?」


 王都から西ではなく南西へ向かうと、山岳地帯が存在する。そこには稀少な鉱石などが眠っていることから、周辺には大きな町もある。そうした場所を拠点にして情報を集めた方がいいかもしれない。

 とりあえず、西ではなくそちらを目指そう……心の内で決定し、砦を後にして森の中へ入ったのだった。


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