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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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未来へ

 ――そこからの出来事は、詳しく語る必要のない事柄ばかりだった。


 研究の痕跡により力を得た存在はオーズロー以外にも確かにいた。けれど、そのどれもがオーズローよりも遙かに弱く、俺とメイリスだけなら容易に対処できた。


 俺達二人が旅を始めた事件は、結構な騒動になった……らしいのだが、最終的に国のために動いたということで認められた。

 結果的に俺達は障害なく旅を続けることができた……それは強大な敵と戦うような困難ばかりのものではなかった。時折町に長居して観光することもあったし、寄り道をしたりもした。


 そうやって旅を続け、世界の脅威を取り除いていく……時折、兄の夢を見ることがあった。自分の手で滅した時のことを思い出す。

 ただそれは悪夢というわけでも、かといって良い夢というわけでもない。言わばそれは、兄がどこからか見ている……そんな風に主張しているように思えて仕方がなかった。そうした要因があってなのか、時折寄り道はするけれど、目的を見失うことはなかった。


 やがて俺達はアスディア王国内を一通り見て回り、王都へ戻った。そこで歓待を受けて、俺は騎士となった。

 まさか自分がそういう立場になるとは思わなかったので、そう言われた時は驚いたのだが……メイリスの方は別段不思議そうではなく、むしろ当然という感じだった。


「ま、旅の報酬とでも思っておけばいいんじゃない?」


 そんな軽い口調で彼女は言った……俺としては自分に務まるのかと不安ばかりだったが、最終的には受け入れて騎士として活動を始めた。

 内心の予想通り最初は無茶苦茶大変だったけれど……それでも数年経過したら次第に慣れてきて、騎士という役目を全うすることができた――そんな風に仕事をし続けていたら、さらに数年の時間が経過した。


 メイリスはいつのまにか騎士団における副団長という地位に収まり、俺は現場で動き回る最前線の騎士として忙しくしていた……そんな折、たまに訊かれることがある。君はメイリスのことをどう思っているのかと。

 時間が経つにつれ、オーズローやセオとの戦いについて色々と言われるようになった。そして俺とメイリスはペアのような扱いとなって、彼女のことについて尋ねられる。


 俺と彼女の関係は……正直、どういうものなのか長い間旅をしてきてもよくわからなかった。おそらく多くの人は恋愛感情云々のことに興味があるのだろうと予想はつく。ただ、俺もメイリスも旅の途中で何かしら関係を結ぶことはなかった。

 彼女が俺に対しどんな風に考えているのかについて、なんとなく理解した瞬間もあったけれど、俺は踏み込まなかったし彼女もまた近づいてこなかった……中途半端ではあったのだが、俺も彼女もそれで居心地が良かったので、それで満足していた。


 ただまあ、さすがに年齢を重ねてくると結婚云々の話だってやってくる。聖剣使いということでメイリスに対しては求婚する人物が結構多いらしい。一方で俺の方はそんな話は一つもない……まあ、ジェイム王子の後ろ盾があるとはいえ、俺自身は家を捨てている身だからな。

 カーヴェイル家の名前はそのまま引き継いでいるけれど、当主となった弟は懸命に頑張っているらしいし、俺の出る幕はない。だからまあ、政争的な意味で俺を取り込む理由はまったくないから、縁談を申し込んでくる貴族がいるわけもない。


「なんというか、そういう話について淡泊だな、アルフは」


 そんな風にジェイム王子から言われたことがある……いやまあ、確かにそうなんだけど俺が騎士になって年数経つのに未だに独身である王子に言われてもそっちも同じだろう、などと胸中でツッコミを入れてしまった。

 まあそういうわけで、俺はきっと一生独身のまま生きることになるのだろう……別に悲しくはないし、むしろ自分の立場を考えると無理矢理俺と結婚させられる女性の方がかわいそうだと思うようになった。


 そんな風に騎士になってから何度も季節が巡り……ふいに、副団長であるメイリスに呼ばれ、執務室で話をした。


「一緒に行ってもらいたい場所があるの」


 そう告げる彼女は騎士服ではなく、書類仕事をやるために貴族服姿である。


「魔物でも見つかったのか?」

「魔物ではないけれど、手強い存在ではある」


 何だろう……? 首を傾げる俺に対し、彼女は厳命する。


「とにかく、騎士としてではなくちゃんとした正装で向かうから」

「……わかった」


 何かしら交渉事か、と納得した。俺が英雄ということで引き合いに出されることも何度かあったから。

 この時の俺は、大した話じゃないだろうと思っていた――翌日、メイリスの実家に連れられて色々と騒動を引き起こすことになるのだが、まあこれも大した話ではないと思う。


 ――英雄となり得られた平穏。けれど俺はきっと、死ぬまで変わらないだろうと思いながら、未来へと進んでいく。


完結となります。お読み頂きありがとうございました。

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