騒動の終結
戦いは終わり、騒動は終結し――俺達は王都へと戻った。凱旋といっても魔物の存在が公になっていないため、単純に魔物討伐しただけで終わり、という形で別に国の人に感謝されるわけでもない……騎士なのだから責務を果たした、程度のものだ。
しかし俺はそういう解釈で良いと思った。むしろ魔物の恐ろしさを広めることは混乱を招くだろう……オーズローを始め、彼らはあくまでアスディア王国を標的としていた。他国に影響があるわけでもないし、これで事件は解決だ。
「君がいなければ、国々を巻き込む戦いになっていただろう」
王城で俺はメイリスと共にジェイム王子から話を聞く……王族からすると俺の活躍は相当大きいという考えのようだ。
「被害を最小限に留めることができたのは間違いなく君のおかげだ……感謝する」
「いえ、国の人間として当然のことをしただけですし、それにセオのことを追い掛けたいという考えもありました。俺自身のしたいように動いただけです」
「……君は今後どうする?」
「とりあえず家を出たという形なので、学園に通いつつ今後のことをどうするか決めようかと思います」
「そうか、わかった……指輪については、今後も検証を続けていくとしよう。使用する君への影響なども調べなければいけないからな」
「はい」
「それと……アスディア王国が抱えていた負の一面が今回現れた。今後、こんなことはないようにしなければ」
そうジェイム王子は語ると、俺とメイリスは頷いたのだった。
話は終わり、俺は騎士エイントと合流する。家を出て眠る場所もなかったのだが、国が手続きを行って学生寮の一室を確保してくれたとのこと。
「功績から考えて相応の報酬が支払われる……とはいえ、学生である君にとってはいきなりそれを渡されても混乱するだけだろう」
「そうですね……学費などに充当することとかは?」
「ああ、それはもうやったよ……免除という形もあり得たが」
「それはさすがに……俺が兄を追い国のために戦ったのは事実ですけど、学園内で成績優秀者になったわけではないですからね」
そう述べた後、俺は――
「……世間的にセオのことはどう説明するんでしょうか?」
「さすがに力を得るべく魔物となった、とは説明できないな。ただカーヴェイル家の現当主には説明することになるし、今回の戦いについて内密にしていてもどこからか漏れるだろう……セオドリック=カーヴェイルが国を滅ぼそうとした、というのは公然の秘密みたいな形で広まるとは思う」
「そうですか……」
「カーヴェイル家が今後どうしていくかは現当主次第だな……ただ一方で兄を君が倒した。それは紛れもなく真実である以上、君が悪いようにはならないさ」
俺はただ頷いた……そこで俺は、
「あの、一ついいですか?」
「構わないが」
「……報酬の一部を受け取っても?」
「構わないよ。そもそも学生寮に入る君には渡す方が大変だろうと配慮しただけで、君にはいつでも受け取る権利がある」
「わかりました……なら」
俺は騎士エイントに金額を伝え、彼はそれに了承したのだった。
そして俺は、国の用意してもらった学生寮の一室へ辿り着く。学園生活に必要な物は揃えてくれたようで、制服や教科書など、しっかりと用意されていた。
個室であることもポイントは高い……俺は部屋の窓へ近寄り、外の景色を眺める。
「……そう、だな」
小さく呟く。懐には受け取った報酬の一部。俺はその重さを感じながら一つ決断をした。
そうして日は沈み、夜を迎える……なんというか、家を追い出されてから激動の日々だった。そして最後には兄を――ただ、感傷的かと言われると微妙なところだった。
兄が人を捨ててしまったが、おそらく原因だろう――あの時の戦いが頭の中で蘇る。油断、という形で決着がついたけれど、セオの実力は脅威だった。最初から俺を侮ることなく応じていれば、勝敗はきっと違っていただろう。
一連の事件は解決し、もうアスディア王国を脅かす存在はない……そう思いたいが、気になることも多い。
「よし……」
俺は決断し、支度を始める。といっても夜なので買い出しなんかもなく、これまでに得た荷物をまとめるくらいだが。
懐に十分な資金があるので、必要な物があれば購入すればいい……そして俺は外に出た。学生寮であるし、きっと寝静まった中で警備の人とかいるかもしれないけど、俺は何の障害もなく外へ。
そして学園の敷地を出る……このまま王都を出て、旅を始める。それが俺の答えだ。
その理由は、セオやオーズローといった存在。彼らは国が秘密裏に研究をしていたものを利用していた。そうした技術が、まだ残っているかもしれない……そんな可能性を感じたのだ。
国にその旨を告げ調べてもらうのもいい……けれど、そこはジェイム王子がやるだろう。ならば俺は俺なりに……そういう考えだった。
俺がいなくなることで騒ぎになるかもしれないけど……書き置きくらい残した方が良かったかな、などと思った時――俺は、あることに気付き立ち止まった。




