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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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決着の剣

 この攻防は一瞬で終わり、勝敗がつくだろう……俺は動き出す寸前にそう確信した。だからこそ、瞬間的に……セオが対応できないほどの力で一気に決着をつけると決心する。

 魔力量が少ない俺にとって、それは完全な賭けにだった。今こうしてセオと戦っている間にも魔力は消費している。おそらく魔力が尽きる前に援護は来てくれるとは思うが、それでもいずれ限界が来る。


 だから枯渇する前に、仕留める――失敗すれば余力が残らず負ける可能性はあるけれど、それでも俺は決断した。

 刹那、俺の力を目の当たりにしてセオは目を見開いた――が、


「なるほど、そちらも全力か」


 冷静に言葉を紡ぎながらセオもまた力を入れる。

 例え俺がどれほど力を込めようとも、反撃で勝てる――そんな考えが透けて見えた。セオが俺の能力をどれだけ把握できているのかはわからない……けれど、こちらはセオが剣に込めた魔力を完全に理解している。


 もし、この戦いの勝敗が左右するものがあるすればそれは単純な力ではない――それは、


「はああっ!」


 俺の剣が放たれる。それに対しセオもまた剣を振りかぶり、剣同士が――激突する。

 それは今までと同じように鍔迫り合い……にはならなかった。剣が衝突した瞬間、セオも感じ取ったらしい。


「っ――」


 短く声を漏らした。この攻防がどういう結末になるのか、セオも理解した。しかし、それを否定するかのように剣に魔力を収束させる。

 後追いという形で剣の威力を強化する――が、それは間に合わなかった。


「アルフ……!」


 名を呼んだ。それに俺は一片の容赦なく剣を振りかぶり――セオが握る剣を両断しながら、その体へ斬撃を叩き込んだ。






 そして、獅子の魔物達は騎士やメイリスの手によって倒され、城内は静寂に包まれる。魔術師が索敵を行い、その結果他に魔物がいないことが確認された。


「……アルフ」


 そしてセオは再び名を呼ぶ。彼は俺の剣戟を受けたことによって倒れ伏し、動けない状態だった。

 その理由は、体の中にある魔力が尽きて手足から崩れ落ちようとしているため……間に合わなかったのだと改めて俺は感じつつ、それと共に先ほどセオから聞いた内容を考えれば、セオが本性を現した段階で手遅れだったのだと察した。


 もし、町における戦いでちゃんと捕まえることができていれば――


「……なぜ、俺は負けた?」


 セオが問う。それに俺は、


「色々と敗因はあると思う……でも、一番の理由は俺のことを舐めていた……どこまでも弱い存在だと思ったことだろう」

「はっ、油断というわけか……」

「もし、俺の能力を看破していたら、きっとこんなことにはならなかったさ」


 その言葉でセオは笑う。皮肉を込め、自分が至らなかったということを理解する。


「……何か言いたいことがあるみたいだな、アルフ」

「俺は……どんなに虐げられていて、鬱屈とした人生だったとしても、活躍するセオのことを恨みはしなかった。なぜ、力を得る……全てを支配するなんて無茶な考えを持つに至ったのかは、話を聞いても理解できなかった。でも、俺の考えは変わらないよ」

「……どこまでも、甘いな。そんな考えではカーヴェイル家の未来は暗いな」

「俺はもう家を出た。俺が当主になることなんてないさ」

「……そうか」


 いよいよ、セオの体が消える。その寸前に至り、兄は言う。


「敗者はおとなしく、消えるとしよう……じゃあなアルフ、地獄でお前の行く末を見ているぞ」


 そう言い残して兄は消えた……魔物の力を得たため、体が残ることなくこの世界から抹消された。


「……セオ」


 俺は言葉をこぼしながら、剣を鞘に収め兄が消えた場所をどこまでも眺め続ける。そんな中で騎士達は動き出す。作戦は完了したがまだ敵が残っている可能性は否定できない。よって、騎士エイントやジェイム王子が指示を飛ばし、動き出す。

 そうした中で俺に声を掛けたのはメイリスだった。


「アルフ、大丈夫?」

「……それは肉体的な話? それとも、精神面?」

「両方」

「体の方は大丈夫。怪我なんかもない……魔力の余波を受けて細かい傷くらいはあるかもしれないけど……ただ、精神面は微妙だな」


 正直な言葉を口にした後、俺はメイリスへ首を向ける。


「覚悟は決めていた。自分の手で決着をつけるという考えもあった。でも、この手で兄を斬ったことは……少なからず、衝撃はあったな。戦っている時は無我夢中だったけど」

「そう」


 メイリスは何も言わず俺の手を握った。その手の温もりによって、少しずつ固まってしまった心が解けていくようだった。


「アルフのおかげで、この国は救われた……ありがとう」

「礼を言われるようなことはしていないよ……ただ」

「ただ?」

「オーズロー……その親友が決着をつけたいと願っていたことを成し遂げた。だから、指輪に宿っていた記憶の持ち主は、それで良いと言ってくれるんじゃないかな」

「うん、それは間違いないよ」


 メイリスは笑う。俺が微笑み返すくらいの、天真爛漫な笑顔だった。


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