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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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兄と弟

 先手を打ったのは俺。魔力を叩き込んだ全力の剣を放ち、それにセオは真正面から受けた。

 人間を捨てたその力……鍔迫り合いとなってすぐに理解する。もはや引き返せないところまで、到達してしまった。


「悲痛な顔だな、アルフ」


 そして俺の表情を読み取って兄が声を上げる。


「俺をどうにかして人間に戻そうとしている顔だ。けれど、それは無意味だ。既に人を捨てた。自分の意思で……そして、人に戻る気もない」


 セオは剣を切り払って俺と距離を置く。次いで、握りしめる剣に魔力を込めた。


「その剣で、斬り捨てるしか解決法はないぞ」

「……そう、だな」


 俺は答える……ここに至るまでに覚悟はしていた。けれどいざそういう状況になった瞬間、ほんの少しだけ迷いが生まれた。

 セオの力は強大である以上、その迷いが致命的な危機をもたらす可能性もある……俺は呼吸を整える。そして、


「……国に、人に害をなす存在となった以上――ここで、斬る」

「それでいい」


 凶暴な笑みを浮かべながらセオが迫ってくる。まるで望みを叶えるための最後の障害――そんな風に考えている。

 俺は剣に魔力を込めてセオの剣を受ける。直後、再び剣同士が激突して魔力が弾ける。幾度剣をぶつけても勝負は決まらず、戦況はまさに一進一退。


「はあっ!」


 そうした中でセオの動きがさらに鋭くなっていく。こちらに対し力で押しつぶそうと剣を振り続ける様は、俺を見ていながらその先を考えているような雰囲気さえあった。

 俺のことは歩くのを邪魔している道ばたの小石程度に考えているのかもしれない……俺が力を得た経緯やその能力については一切興味がなく、今は互角に渡り合っているが、倒せると考えている。


 相手が俺だから舐めている……あるいは、力を得て自意識が肥大している。色々な理由が推測できるが、どういう考えであれ間違いなく俺のことを通過点だと思っている。

 それが……それこそが、セオにとって最大の落ち度と言えるかもしれない。


 俺は自分が背負った記憶を一度振り返る。騎士、狩人、王子――オーズローの友がなぜこんな手法を選んだのかは、記憶を得てもあまりわからなかった。ただオーズローの研究や、やろうとしていることを考え、過去の偉人達の力を借りようと思ったのは間違いない。

 それが実を結び、俺は――人を捨てたセオと互角に戦うことができている。ここまで切り結ぶことで俺はセオの能力を看破しつつ、その動きも見切り始めた。


 いける、と内心で呟きながらセオの猛攻をしのぐ――懸念があるとすれば魔力の少なさ。長時間戦い続けることになれば、魔力量が少ない俺が不利になる。

 結局ここについては最後まで解決することができなかったけれど、目の前にいるセオ相手ならばどうにか――周囲の騎士達やメイリスは魔物を順調に倒している。もしセオと拮抗し続けても、おそらく騎士達が魔物を倒しきる方が早いだろう。


 であれば、長期戦になってもおそらく……セオが突撃してくる。俺はそれをどうにかいなしつつ、戦況を見極めどう動くかを決意する。

 圧倒するならおそらくできる。けれど、仕留め損なえば逃亡の可能性がある。城の周辺は騎士達が固めているため逃げられる可能性は低くなっているが、それでも恐ろしいほどの力を持つ兄を相手にどうなるかわからない。ならば少しでもセオを追い詰めた上で……自分の限界とセオの余力。それを見極め、一気に決着をつける。


 そう決断した時、セオは周囲の状況を見ながらいよいよ俺を仕留めるべく魔力を高める。


「ここまでしのぎきるとは思わなかったが……それも終わりにしよう。そろそろ周囲の戦況が面倒なことになり始めたからな」


 セオは語る。その表情から、自分の勝利を信じて疑わない様子。

 それは周囲の状況もそうだ。メイリスや騎士達は魔物を押し込んではいるが、ここに自分が加われば即座に蹂躙できると考えている。おそらくそれは正解……かどうかはわからないが、こちらが勝利するにしても相当な被害が出ることは間違いないだろう。


 ――そんなことは絶対にさせない。そう心の中で呟くと共に俺は刀身に魔力を込める。こちらの力がどれほどのものなのか、セオはわかっているのか不明だが、真っ直ぐ俺へ向けてくる。

 そして、俺とセオは再び激突する。火花が散るほどの勢いで刃がかみ合い、さらに魔力が渦を巻くように生じ、周囲に旋風として吹き荒れる。


 勝負は――拮抗し、再び鍔迫り合いとなる。そこで、セオが表情を変えた。ここまで力を入れて攻撃しても俺を仕留めることができない。それは一体どういうことか。


「……アルフ」


 名を呼びながら俺に敵意の眼差しを向ける。なぜ、邪魔をする。そんな感情が読み取れた。

 そこで俺は、両腕に力を入れる――ここだ、と体の内に眠る記憶達が叫び、俺はそれに応じるように動き出した。


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