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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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人を捨てた存在

 何一つ障害がないまま、俺達は山の中にある城へと辿り着いた。廃城を多少なりとも改装したらしく、見てくれは正直悪いが補修した形跡が外観からもわかる。

 ただ城門扉は壊れたままであり、俺達は攻撃を受けることなく城内へと潜入することができた。


「魔力は感じられるけど……」


 俺は呟きつつ、周囲を見回す。魔法の明かりが点在しており、視界の確保には困らない。

 城内へ入れば魔物との交戦があると思っていた。しかし、ここでも魔物の存在は確認できない……いや、城の奥にわだかまっている。これは一体どういうことか。


「――拍子抜けするくらい、あっさり入れたけど」


 メイリスが言及する。


「これはたぶん罠、だよね?」

「そう解釈するのが正解だとは思うんだけど……」

「何かしら、事情があるのかもしれない」


 と、近くにいたジェイム王子が声を上げる。


「外で索敵をしていた時と比べ、何か魔力に乱れがある」


 言われ、俺は少し意識を集中させる――と、城内のどこかで大きな音がした。何かやっているみたいだが。


「様子を窺いたいところだが、ここまで来た以上は悠長に待つような真似はできないな……先へ進むとしよう」


 ジェイム王子はそう言いながら周辺の騎士へ指示を飛ばす。そして俺達は城の奥へ。と、ここでようやく獅子の魔物が姿を現した。


「迎撃!」


 王子が叫ぶと同時に魔物が咆哮を上げて突撃を仕掛ける。それに対し俺とメイリスは剣を構えたが――それよりも先に、騎士や魔術師達が動き始めた。

 途端、魔術師達の魔法が炸裂した。十数もの光の槍が放たれ――それが魔物へ直撃すると、敵は立ち止まった。


 魔力が減っているため確実に効いていると俺にはわかった――彼らの攻撃は、獅子の魔物に通用する。

 そして魔物がこちらへ攻撃を仕掛けるより先に、魔法攻撃によって力尽きた。巨体が倒れ、やがて塵となっていく……倒せる、ということで騎士や魔術師の士気が上がる。


「このまま進む!」


 ジェイム王子もいけると判断したか、指示を飛ばし先ほど以上の速度で突き進んでいく。道中で幾度か獅子の魔物が姿を現すが、その全てを魔術師や騎士の攻撃によって対処。俺とメイリスの出番はなかった。


「ここまでは、こちらが圧倒している形だけど……」


 俺は呟きながら気配を探り続ける。城の奥に明確な気配がある。ただそれはオーズローのものなのか、それともセオのものなのかはわからない。

 魔力の動きはあるが、俺達が接近した影響なのか魔物を生み出しているという気配はない……何かしら理由があるのか、それとも――


 やがて俺達は城の最奥へと到達した。それはずいぶんと広い空間――多数の魔法の明かりによって照らされた大広間だった。

 その場所にいたのは、多数の獅子の魔物……だが、それだけではない。そこにいたのは、


「――セオ」


 俺は名を呼んだ。兄、セオがそこには立っていた。


「……予想以上に早かったな」


 そうセオは俺達へ告げる……ここへ来るタイミングのことか。それとも、攻撃したタイミングが早いという意味なのか。

 そして、俺は周囲を見回す。ここが城の最奥であるなら、当然オーズローがいるはず。


「……ここを守れと命令を受けたのか?」


 俺は剣を構えながら問い掛ける。だが、それと同時に俺は感じた……セオが発する気配。それには、極めて異質な力であると。


「ああ、そういう考えになるだろうな」


 そしてセオは応じる……気配が違うのはもう既に人を――ただ、その状況下でも目の前の光景は異質だった。


「……これは」


 ジェイム王子は小さく呟きながら、一歩前に出る。


「どうやら、予想とは違う展開となってしまったようだな」

「ジェイム王子……どうやらあなたはすぐに状況を飲み込めたようだな」

「……確認のために問い掛ける。オーズローはどうした?」

「ヤツは俺に力をくれるという約束をした。俺が相応の仕事をした結果であり、俺もそれをありがたく受け取った……この場所で」


 セオはゆっくりとした動作で腰に差した剣を抜く……が、その所作からは一片の隙も見いだせない。


「そして、その力を活用してオーズローに勝負を挑んだ。その結果、俺が勝った。それだけの話だ」


 ――俺はさらにセオの体に秘められた魔力を探る。それはもう……人という存在を完全に捨てたものだった。


「オーズローを取り込んだのか?」


 ジェイム王子がさらに問い掛けるとセオは、


「ああ、これだけの配下を生み出せる力……それを手に入れたことで、こうして迎え撃つことができる」


 周囲の騎士や魔術師達が戦闘態勢に入る。次いでそれに応じるようにセオは魔力を高め始めた。


「これだけの力があれば、騎士達を蹂躙することは容易いだろう……ヤツは何かしら目的を持っていたらしいが、俺が全てを手に入れた。なら――俺の願いのために、まずは全てを壊そうじゃないか――」


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