反撃の糸口
二日後、ジェイム王子が言ったように俺達は王都を出発した。目指すはオーズローの居城。そしてセオ――兄を見つけるために俺は戦う。
部隊は百人以上で構成され、長らく平和が続くこのアスディア王国では異例とも言える規模――なのだが、それが馬鹿正直に動けば当然ながらオーズローに気付かれる……ということで、現地に向け騎士達が個々に動き出している。
そうした中で俺とメイリスも……同行するのは騎士エイント。表向きには魔物の調査と討伐である。
ただ、一つ懸念はある。オーズローは俺達のことを監視しており、こちらの動きが筒抜け……そんな可能性もあるわけだが、
「それは現時点でないようだ」
と、騎士エイントが言及した。
「王子が指輪や聖剣の技術を応用して索敵魔法を開発した」
「……いつの間に?」
「アルフ君が指輪に関する情報をもたらしてくれたおかげで術式を構築できたらしい。少なくとも王都周辺――かつ、王都へ連なる町にはオーズローに関連する存在はいないとのことだ」
――索敵魔法の開発によって、オーズローの動きを読めるようになった。なおかつ王都の守りも堅くしており、ここに来てようやく反撃の糸口をつかんだことになる。
「オーズローは現在拠点としている城から動いていないのは間違いない」
「常に監視はしているんですか?」
「ああ、そこは王子主導で」
――肝心のジェイム王子は一足先に現地へと向かっている。笑みを浮かべながら複数の騎士と出発する姿を俺は目撃したのだが、なんだか事を急いで進めているようにも思えてしまう。
それによって足下をすくわれなければいいのだが……こちらの動きに対しオーズローは現在まで特段動いていないのだが、それも気になる。俺達の行動を全て読まれているとしたら面倒なのだが――
「オーズローがどういう風に考えているのかわからないが」
胸中で考える間に騎士エイントが言及する。
「こちらは次の戦いで決着をつけようと準備を進めている」
「……それが良い方向に転べばいいですけど」
俺の言及に騎士エイントは頷く。表情はどこか硬く、どうやら俺と同じように考えているらしい。
「王子の作戦について不満はない。この戦いで勝負を付けるという算段も賛成はした。だが、オーズローという存在は何をしてくるかわからない……こちらとしては不気味な存在だ」
その言葉に俺とメイリスは同時に頷く。
「故に、不安はある……オーズローが拠点にこもっているのは獅子の魔物を再度作成して準備をしているだけなら話はわかりやすい。しかし、他に何か別の――」
と、そこまで言った後に騎士エイントは言葉を止める。
「……いや、これ以上の推測はやめるとしよう。いたずらに敵の存在を巨大にするのも、決戦の際に萎縮してしまうだけだ」
彼は呟くとそれ以上言葉を発することはなかった。
俺達は街道を進み、やがてオーズローが拠点としている城――その最寄りの町まで到達する。索敵魔法によってオーズローに関連する魔物や配下は現時点で見つかっていない。
上手く隠蔽している可能性もゼロではないが、拠点にいるオーズローの存在については明瞭に探知できており、オーズロー由来の魔力を持つ存在を感知できることは明白。よって、完全に閉じこもっているのは間違いなく、俺達のことを把握できていない可能性が高い。
しかし一方で、わかったことが一つ。間違いなく獅子の魔物を作成して準備を進めている……そう推測する理由は、拠点とする城から発される魔力が日に日に大きくなっているためだ。
そうした中で俺とメイリス、騎士エイントは町の詰め所を訪れた。予定ではここでジェイム王子と合流することになっている。
俺達は建物の中を歩いて会議室へ到達。中に入ると、町の周辺に関する地図とにらめっこしているジェイム王子の姿が目に入った。
「予定通りの日時で来たな……さて、状況を説明しよう」
俺達は地図を囲みながら話を始める。
「まずオーズローについてだが、魔物を作成している様子だが城から動いていない……日ごとに魔力が膨れ上がっているため、防備を固めているのは間違いない」
「攻撃を仕掛けてくる様子はない?」
俺の問い掛けにジェイム王子は頷いた。
「ああ、拠点周辺にすら魔物を配置していないことから、とにかく守りを優先としているようだ……そして君が気になるセオドリック=カーヴェイルについてだが」
兄の名が出て俺は自然と体に力が入る。
「その気配もオーズローがいる拠点にいることがわかった」
「そうですか……」
「しかし、他にオーズローの協力者は観測できていない。町の騒動において彼には複数人の部下がいたわけだが、現在引きこもっている場所にそれらしい気配はない」
「それは……」
「疑問点については決戦までになるべく解消したいが……この町に部隊が集結すればすぐにでも攻撃する。よって、オーズローに関する情報が今以上に増える可能性は低い……それを前提に戦うことについては、了承して欲しい――」




