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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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36/50

想像もつかない世界

 結局、検証自体は進んだが目立った進捗はなくその日の作業は終了した。

 そして俺についてだが、検証は終わるまで王城の中で寝泊まりすることに決定した……落ち着かないことこの上ないが、状況的にこればかりは仕方がない。


 夜、夕食を終え眠る準備を全て済ませ、あてがわれた部屋に入る。広い部屋の中で俺一人なわけだが……なんだか実家の部屋を思い出す。


「……明日からひたすら検証か」


 俺は呟きつつベッドに転がる。王子からの依頼ということで、俺もメイリスも当面は王城内にこもって作業を続けることになりそうだ。


「オーズローが見つかれば事態は大きく進展する……けど」


 果たしてどれくらいで見つかるのか。時間が掛かればそれだけ危険な状態となってしまう可能性が高い。よって国としては可能な限り早く……ただ、早期に見つかれば対策ができるかはわからない。

 理想的な展開になる可能性は極めて低いだろうけど……俺はなんとなく目をつむる。作業をしていて疲労感はあるのだが、環境が変わったせいか眠気がほとんどない。


「かといって、出歩くのもまずいよなあ」


 さすがに王城内を散歩するわけにもいかないだろう……俺はなんとなく起き上がり、バルコニーへ通じる窓に歩み寄る。

 ここは王城でもそれなりに上階であるためか、町並みが見えた。とはいえ街灯の明かりが見えるくらいでほとんどの建物は暗いため、夜景ではあるがさほど綺麗ではない。


 ただそれでも、俺は少しの間眺めていた。


「……信じられないな」


 やがて俺は呟いた。そう、信じられない。今の状況を表現するのであれば、これだ。

 ほんの少し前、俺は鬱屈とした感情を抱えながら毎日を送っていた。そして兄のセオに家を追い出されて、魔物に襲われ……力を得て、ここにいる。


 以前の俺には想像もつかなかった世界がまさしく広がっている。ただ、それでも浮き足立つなんてことにはなっていない。もしかすると指輪によって宿した記憶が、落ち着かせているのかもしれない。


「……オーズローを倒して、セオを捕まえて……それから、どうすべきかな」


 次いで俺は考える。兄を追うという目標は立てた。オーズローを追えば必然的に出会えるだろうし、それは間違いなく国を救うことにも繋がる。

 けれど、その先は――町の景色を眺めながら考え、やがてまだ結論を出さなくてもいいと思い、ベッドに向かう。


 先ほどは目がさえていたけれど、いくらか眠気が襲ってきた……それからしばらくはウトウトしていたのだけれど、やがて意識が深く沈み――

 その時、指輪が熱くなった気がした。そこで俺はまた記憶が、と心の中で呟き、完全に意識が途絶えた。






 ――そして俺は夢を見る。そこはどうやら、研究所らしい。


「もうやめろ、お前は……全て納得したんじゃなかったのか」


 目の前には一人の男性。黒髪を持つ若い男性であり、こちらを見て眉間に皺を寄せている。


「やり直そうと言ったじゃないか……もう復讐はやめると……あれは、嘘だったのか?」

「嘘ではない。あの時は……それが正しいと思ったのだ」


 応じる男性……黒髪の男性からは、苦悩のような感情が見て取れた。


「しかし、改めて思ってしまったのだ……何も、何も変わらない。一度私が出奔し、戻ってきても……何一つ変わらなかった」

「もう政争なんてものは考えなくてもいいと私は言ったはずだ。それは全て私に任せてくれればいいと……なのになぜ、今になって――」

「この半年、君に対する他の者達の仕打ちは何だ?」


 問い掛けに、俺――記憶の持ち主は黙る。


「私を引き入れたことで、間違いなく君は立場を悪くしただろう。だが私の研究……そして知識があれば問題ないと君は語った。実際、戻って数ヶ月は良かったようだ。しかし、徐々に研究が滞り始め……君を見る他の者達の視線が冷たくなっていくのがわかった」

「そこは大丈夫なんだ……私は――」

「どれだけ私が納得せずとも、君はそう言うしかないだろう」


 再び俺は押し黙る……口論とか喧嘩ではない。どちらかというと、互いが互いに何かを主張し合っているような感じだ。


「わかっているさ、君が本心なのは。だが、やはり何も変わっていない……ならば、根本的に変えるしかない」

「何を、するつもりだ?」

「君は今やっている研究についてどう思う? これは、良い研究だと思うか?」


 再び俺は口を閉ざす。


「……私は自分の目的のために研究を重ねた。そして得た技術がどうやら君の研究に役立った。結果として……この国の技術も発展するようだ。その結果……世界は、この国に蹂躙されてしまうかもしれない」

「それは……」

「発展させた研究者として、私は責任をとらなければならないだろう」


 そう告げる男……まさか、この男性は――


「止めてくれるな、もし邪魔立てするのであれば、君でも容赦はしないぞ」

「なら、どうするというのだ……友よ」


 友――問い掛けられた黒髪の男性は、こう答えた。


「……こんな所業を行ったこの国を、破壊し尽くす――」


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