研究者
「砦にいた魔法使いは、復讐というものを原動力に研究を進めていた」
俺とメイリスが沈黙する中で、ジェイム王子はさらに話を続ける。
「そういった存在が、こんな指輪を手に入れるとは皮肉だが……だからこそ、指輪の力が発動しなかったという可能性もあるな……あるいは」
と、ジェイム王子は何事か考えた様子だったが、口にはしなかった。
「……まあいい、例えば指輪の作成者は一つだけではなく多数をばらまき、その内の一つがアルフ君の手に渡っただけ、という可能性もあるな」
俺としては首を傾げる話ではあったが……まあでも、指輪に関しては不明点が多い以上、王子が語ったような筋書きなのかもしれない。
「今のところ指輪が生まれた経緯などについては、話の本筋からズレるので置いておこう」
ジェイム王子はさらに言う……俺達が頷くと彼は、
「指輪の記憶に眠る敵と、私達が戦っている魔物が近しい存在……というのは明確な証拠はない。しかしアルフ君の剣が魔物を倒すのにもっとも有効である……それを考えると、記憶に眠っている魔物と共通点があるように思えてくる」
「……だとすると」
俺は王子に対し口を開く。
「オーズローを放置すれば、記憶に眠っているような悲劇がこの国で起こる?」
「あくまで可能性の話ではあるが」
――もしそうであれば、絶対に止めなければならない。
「そしてオーズローという人物についてだが」
王子はさらに話を進める。
「調べたところ、魔法関連の研究者だったことが判明した」
「偽名ではなかった?」
「それがどうなのかわからない」
肩をすくめるジェイム王子。どういうことなのか疑問に思っていると、
「その人物は、およそ五十年前の人間だ。記録を調べたところ、彼は五十過ぎで研究所を離れている……普通に考えれば死んでいる可能性が高い」
「そう、ですね……その人物の親族である可能性は?」
「彼は天涯孤独かつ、子供もいなかった……そもそも妻もいなかった」
「……さすがに、同一人物とは考えにくいですよね」
「ただ名前が完全に一致している、というのは腑に落ちない」
と、ジェイム王子は語った後、
「ただ、魔物の研究……その力を身に宿しているのなら、人の理から大きく外れた寿命を持っていても不思議ではないな」
「もう既に、人を捨てていると」
「そうだ……それと」
ジェイム王子は一度俺へ視線を向けた後、
「研究機関を去った後のことはまったく記録に残っていない……だからここからは完全に私の推測になるのだが」
「はい」
「――君が魔物に襲われ逃げ込んだ砦。そこに住み着いていた可能性もある」
一瞬、何を言われたのかわからなかったが――少しして俺は、
「えっと……それはつまり……」
「君が指輪を手に入れたあの砦……そこで研究をしていた人物があのオーズローではないか、という可能性がある」
……それは、一体どういうことなのか。
「まあこれはあくまで魔物に関する研究をしていた。加え、砦に住み着いた人間の活動時期がオーズローが研究機関を去った時期と酷似していることから推測されたものだ。加え、彼が研究機関を離れたのは政争に敗れたという話らしい」
「……俺が読んだ研究記録には復讐すると書かれていました」
「であれば、可能性は高そうだな……念のため、私の仮説が正しいのか騎士を調査に向かわせている。まあオーズローの居所を知る手がかりはないだろうが」
俺は王子の言葉を受け、複雑な心境だった……復讐。それに取り憑かれ人を捨ててまでオーズローは何をやろうとしているのか。
「……仮に」
ここで、メイリスが口を開く。
「砦にいた人間とオーズローが同一人物なら、どういう経緯で国に攻撃を仕掛けているのでしょうか?」
「――彼は、恨みを抱きながら研究機関を去った。そして独自に研究を始め、復讐しようと考えた。しかし研究は遅々として進まないまま月日が流れ……けれど執念が実を結んだ」
と、ジェイム王子は語っていく。
「アルフ君、研究記録の内容は憶えているか?」
「断片的にしか……」
「最後の日付とかは憶えているか?」
――そこは記憶にあったので王子へ伝える。
「それ以降は、何も記述はありませんでした」
「そうか……オーズローが砦にいたとすれば、おそらくだが最後に記録されて以降、大きく研究が進展し、別所に居を移したと考えられる」
「砦でやるのではなく、もっと良い場所を探した……ということですか?」
「おそらく。そこが現在の本拠地である可能性は高そうだ」
「問題は、その場所ですね」
きっとそこにセオもいる……そう思うと自然と体に力が入った。




