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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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漆黒の悪魔

 程なくして到着した宿屋の前。大通りの一角であり、多数の魔法の明かりによって町の人間が避難する様子が見えた。


「――メイリス!」


 そうした中で俺は彼女の姿を発見して近づく。聖剣を構えている彼女。その隣には騎士団長エイントの姿もある。

 そして、二人の真正面に――漆黒の異形がいた。


 例えるならばそれは筋骨隆々の悪魔。頭からは二本の角が生え、大きさは人間を倍するほど。手には巨体に比する大剣を握り、体躯を黒い鎧が覆っている。


『ほう、弟が駆けつけてきたか』


 そして異形が声を上げる……俺は即座に、


「お前、セオと一緒にいた男か」

『ああそうだ。あの御方から賜った素晴らしい力だ……しかし残念だな、兄は力を使わなかったか』

「使ったよ。どうにか人のままで対処することができた」

『ほう?』


 意外、とばかりに異形が声を上げる。


『あれは騎士ですら圧倒できるだけの物だったはず……かといって、弟相手に手を抜いたわけではあるまい……情報では弟のお前はロクに魔法すら使えなかったはずだ。どういう手品を使った?』

「なら、今から見せてやる」


 呼吸を整え剣を構える。会話の間に異形の力は……見極めた。


「すまない、やはり二人の力を借りることになる」


 ここで騎士団長のエイントが申し訳なさそうに声を上げた。


「オーズローは逃げた。残っているのは時間稼ぎ役のこの男だけだ」

『時間稼ぎ? 何を馬鹿なことを。我らが主は蹂躙せよと仰った……我らに牙を突き立てた以上、後悔させろと』

「……何が、目的だ?」


 俺は異形へ問い掛ける。途端、奇っ怪な笑い声が深夜の大通りに響いた。


『目的? 蹂躙にそんなものが必要なのか?』

「……蹂躙?」

『我が主は全ての支配を目的としている。アスディア王国だけではない、この世界――その全てを手に入れることが、目的だ』

「……大言壮語が過ぎて、笑い話にもならないな」


 騎士エイントの発言だった。


「問答をする価値はないようだ」

『そうだな――そもそも、お前達は我が主の考えを理解できるはずもない』


 異形が剣を構える。人の倍大きい体躯によるその姿は、ただ超然とするだけで強烈なプレッシャーを与えてくる。


『騎士団長と聖剣使い、ついでに情報提供者の弟か……面倒だからこの場で全て蹂躙してくれよう』


 異形から魔力が膨れ上がる。それを見てメイリスは、


「アルフ」

「ああ」


 会話はそれだけだった。刹那、異形が大剣を掲げ、振り下ろす。

 俺は即座に剣に魔力を込めた――それは今まで以上に、持てる力を振り絞ったもの。


 異形と戦い続ければそれだけ町に被害が出る。犠牲者などをゼロにするためには――この攻防で、勝負を決める。


 異形の剣が振り下ろされる。凄まじい速度と勢いであり、俺もメイリスも騎士エイントも、避けられるものではないと瞬間的に理解する。

 だが俺はそれに真正面から挑んだ――記憶に秘められた人物達の力を余すことなく仕えるわけではない。記憶や技術は得ているが、ベースとなっている俺が弱いからだ。生まれつき魔力が少ない、兄の出がらしのような存在――だがそれでも、俺はいけると直感した。


 魔法剣をすくい上げるように放つ。それは異形の大剣と正面からぶつかる形であり――俺は激突する直前、見た。異形の顔が……悪魔の顔が、笑っているのを。

 あまりの無謀さに、むしろ憐れんですらいたかもしれない――だが次の瞬間に起こったのは、俺の剣が、力が異形の剣を両断した光景だった。


『――なっ!?』


 刀身が半ば両断されたことにより異形は驚愕の声を漏らす。次いで一気に間合いを詰めたメイリスの聖剣が、異形の右足を斬った。それもまた紛れもなく全力の剣戟であり、彼女の攻撃は成功し足の肉を大きく削り取った。


『ぐ、おおっ――!』


 痛覚はあるのか異形は声を上げ後退しようとする。仕切り直そうという魂胆だったようだが、それを俺は許さなかった。

 俺は異形の左足へ剣を振った。それは身を削るだけではなく――両断に成功。異形は完全にバランスを崩す。


 けれどどうにか逃れようとする。しかしそれより先に俺とメイリスが異形へと肉薄する。


『馬鹿な! 何だその力は! 我が主の力に対抗できるものなど――!!』


 言い終えぬ内に、俺とメイリスの剣が異形の頭を通過した。それによって首から上が消え失せ――巨体は、ズウンと大きな音を立てて倒れ伏した。

 途端、周囲から歓声が湧き起こる。避難していた住民達や、今回の作戦に動員された騎士達……そうした人が沸き立つ光景を見て、俺は息をついた。


「メイリス、どうにか倒せたな」

「うん。でも、終わっていない」

「オーズローという人物か……行方を捜さないと」


 魔法剣を消し、俺は肩に鉛を置かれるような感覚を抱いた。まだ体には余裕があるが……これは精神的な要因が大きい。


「セオは……何か、話してくれるかな?」

「どうだろうね」


 メイリスは答える。彼女に尋ねても仕方がないか……そう思いこれからどうしようか問い掛けようとした時、一人の騎士が騎士エイントの下へ駆けていった。

 何か報告をしに来た様子。ただどこか切羽詰まった様子であり、何かあったのか……騎士エイントは報告を受けた後、俺へ近づいてきた。


「……アルフ君、すまない」

「セオのことですか?」


 問い掛けに、彼は無念そうに頷く。


「オーズローが何かしら動いたのだろう。君のお兄さんを拘束し城まで護送していた時、何者かに襲撃を受け、連れ去られた。報告によると、人の姿をした魔物らしい」

「他にも配下がいた、と」

「そのようだ」


 ……ひとまず、戦いは終わった。けれどまだ続きがある。俺は兄のことを思い浮かべながら、両拳を強く握りしめたのだった。






 ――翌日、騒動は瞬く間に世間に知れ渡った。凶悪な魔物が町中に出現し、国へ攻撃を仕掛けている人間がいて、それを聖剣使いであるメイリスが打倒したと。

 それに加担していた人間がカーヴェイル家にいる、ということについては伏せられた。とはいえ国の重臣達には伝わっており、今後カーヴェイル家は非常に厳しい立場に立たされるだろう。ただ、事件を解決したのもカーヴェイル家の人間であり、国としては家自体の処分については事件解決まで――すなわち、セオやオーズローを捕まえるまでは保留、ということになった。


 現時点でカーヴェイル家を失墜させれば俺がどう動くかわからない……現状、予断を許さない状況である以上はこれ以上敵を増やさないよう、国が動くというのは無難かつ妥当な判断だった。

 正直、俺としては兄の失態のせいで家族に迷惑が掛かるのは……という風に思った。とはいえ、非難は免れないだろう。


 一方で俺はまだシャルレード家に厄介となっていた。魔物を倒せる戦力として国が確保しておきたいというのが理由ではあったが、さすがに一度は家に戻って話をしなければならないと思ったので、


「ひとまず、父と話をします」


 俺の言葉にクロード氏とメイリスは承諾したのだが――


「……物々しいですね」


 時刻は昼、自分の屋敷へ戻る途中にそう呟いた。原因は俺以外にメイリスと、騎士エイントが同行しているためだ。

 その理由を、騎士エイントは語る。


「君の屋敷に、セオ君の協力者……つまり、オーズローの配下が紛れている可能性があるからね。まあ現在進行形で騎士が家宅捜索をしているし、干渉してくる可能性は低いと思うけど」


 そう語った後騎士エイントは俺のことを見据え、


「それに君は指輪の力によって敵の気配などを察知できる。それこそ、私はメイリス君以上に。であれば、大丈夫だとは思うが……ま、念のためと思って欲しい」


 ……身内を疑わなければならないという事実に、俺は暗い気持ちを抱いた。けれどそれを押し殺し、メイリス達と共に屋敷へと歩みを進め続けた。


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