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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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漆黒の魔力

「――アルフ」


 セオ達の居所を把握した後、俺はメイリスから声を掛けられた。


「お兄さんともう一人の男性……その動向はわかる?」

「ああ、どうやら一緒に行動していない。かといってカーヴェイル家の屋敷へ向かっているわけでもない。」

「なら、ここからは二手に分かれよう」

「……メイリス?」

「アルフはお兄さんを追い掛けて。私はもう片方を」


 そう言いながらメイリスは月夜の下で微笑を浮かべる。


「セオさんはともかく、もう一人の男性についてはどこへ向かっているかはわかる……オーズローという人がいる、宿屋でしょ?」


 問われ、俺は老人が突き進む先にオーズローのいる宿があると気付いた。


「ああ、そうだな……たぶん、間違いない」

「なら、そちらへ向かうよ。騎士エイントがそちらは受け持っているけど、たぶん聖剣の力が必要になると思うから。そしてアルフは、お兄さんと決着をつけてきて」

「……私達は、後から追います」


 周囲の騎士、その一人が告げる。


「先行してください」


 それはおそらく先の魔物を一撃で倒せるだけの実力である以上、並走することは厳しいということで出た言葉なのだろう。

 それに対し俺は……いまだ感じ取れるセオの気配を捉えながら、


「……メイリス」

「うん、どうしたの?」

「相手は何をしてくるかわからない……セオを倒して、すぐにそちらに向かうから」

「わかった、よろしく」


 メイリスの声と共に――俺は、走り出した。目指すはセオのいる場所……町の外、というわけではないが人がいる区画からは少し遠ざかっている。

 それは王都の外へ出るためなのか、それとも屋敷へ戻っても捕まるだけだと判断してのことなのか……走る間に遠くから音が聞こえた。爆発音にも似たものであり、おそらくオーズローという人物と騎士達が交戦し始めたものだ。


 メイリスが向かっているけれど、とにかく急がなければ……ただ、セオと対峙した時、どうすべきか。

 オーズローから得た力を使っているとしたら、どう立ち回るべきなのか……考える間にも俺は兄へと近づいていく。そこはどうやら、王都の隅にある高台の広場。綺麗な夜空の下、俺はとうとう兄の姿を見つけることができた。


「……セオ!」


 兄の名を呼びながら俺は近づく。その瞬間、こちらへと攻撃を仕掛けてきた。

 一歩で的確に間合いを詰めた剣戟を、俺は剣をかざして受けきる。そして兄の剣を弾いた後、少し距離を置いて対峙した。


 俺は兄に何故、と尋ねようとした。けれど暗がりでも見えるその表情――憤怒の形相が張り付いた顔を見て、二の句を継げなかった。

 兄がまたも仕掛ける。俺はそれを月明かりしかなく視界が効かない状況下で弾き、避ける。暗殺者の記憶により、俺は明確にセオの動きを把握することができた。果ては、その顔つきまでも――


 ギィン! と、一つ大きな音と共に俺は兄の剣を弾く。その力が思いのほか強かったのかセオは攻撃を中断して距離を置いた。

 俺は呼吸を整える……そして真っ直ぐ兄を見据えた時、とうとう口から言葉が溢れた。


「……何故だ」


 腹の底から、絞り出すような声だった。


「セオは全てを持っていた! 才覚も家督も、あらゆる教育も! 何もかもセオは勝っていた! 俺が、セオの立場を奪おうなんてことするはずがないとわかっていたはずだ! なのに、どうして――!!」


 感情が発露した俺の言葉にセオは何も答えなかった。それどころか烈気をみなぎらせ、俺を仕留めようという腹づもりが見える。

 そうした中で、俺は奥歯を噛みしめた。問答は無意味――兄が、挑み掛かってくる。


 それで俺も口を閉ざした。放たれた兄の剣を受けると、すぐさま反撃に転じる。全力の剣戟を見舞うと、甲高い金属音と共にセオは数歩後退した。

 衝撃によって腕が痺れたか、顔には苦い表情。俺はすかさず間合いを詰める。次の一撃で決める。そうした決意と共に兄へ剣を――


 だが、その寸前に兄の体から漆黒の魔力が漏れた。それは一気に肥大すると彼の体を一挙に取り巻く。先ほど、監視者が見せたあの力。俺は反射的に立ち止まり、思わず叫んだ。


「止めろ……! セオ!」


 漆黒は兄が握りしめる剣と、両腕に巻き付いた。力はどうやら指向性があるらしい……漆黒によって兄の気配は大きく増した。幾度となく相まみえた獅子の魔物――それと同じ気配を漂わせる。

 体にまでは魔力が浸食していないため、今倒すことができれば……そんな考えと共に、俺は兄へ挑む。凶悪な魔力を前にして俺は怯むことなく――宿した記憶を頼りに、剣を振る。


 セオはこちらの剣を受けつつ、反撃。先ほどとは比べものにならない威力の剣戟。だが、俺はそれを受け流し、逆に剣を差し込んだ。


「っ!」


 短い呻き声と共にセオは俺の刃を防ぐ――力は確かに大きく増した。王道とも言える騎士の剣術を習得している兄の剣に強大な力が加われば、動員されている騎士でも太刀打ちすることは難しいだろう。

 けれど、俺は……兄の剣を全て容易く受け、反撃に転じる。刃は当たらないがそれでも少しずつ追い込んでいく。


 対する兄の顔は、力さえあれば圧倒できるはずだという推測を崩され、驚愕と憎悪がないまぜになった表情をしていた――なぜ、俺が対応できているか。無論記憶による力もあるが、それだけじゃない。

 兄が圧倒的な力を得たのは間違いない。だが、力による強化によって元々あった剣術に粗が見えている。昨日、講義の中で模擬戦闘を行った際に受けた兄の剣は、洗練されていた。一切の淀みのない王道の剣術。剣の振り、間合いの取り方、力加減、その全てがまさしく騎士の規範となるものだった。


 しかし、多大な力を得て完璧な剣術に綻びが生じている。漆黒により供給される力を制御するのに意識がもっていかれ、動きに隙が目立つ。もちろん基礎的な能力が上がっているためその隙を利用するのは難しいのだが……少しずつ時間が経過することで、セオの顔にも余裕がなくなっていく。

 体力的に力を維持するのが難しくなりつつある――俺はここで決めに掛かった。放たれた兄の剣を弾き返し、間合いを詰める。


 兄は俺が何をするのか瞬時に悟ったか、無理矢理後退しようとした。漆黒の力を用いて、どうにか逃れようと――しかし俺はその全てを読み切った。兄がどう動くかまで明瞭に理解し、彼が握る剣に、渾身の一撃を見舞った。

 ガァン――と、重い音が響くとセオの手から剣が離れ地面を滑った。俺は続けざまに彼へ斬撃を叩き込む。当然剣の腹による殴打だが……それが決定打となって、兄の体は崩れ落ちた。


「……アル、フ」


 倒れ気絶する寸前、兄は俺の名を呼んだ。それが何を意味するのか――わからないまま、彼は地面に倒れ伏した。

 漆黒の魔力が剥がれる。俺は兄の腕などを確認したが、短時間による強化であったためか、力は完全に消え失せていた。魔物になるようなことはない……心の底から安堵した時、後続から騎士が駆けつけた。


 その時、遠くで爆発音が聞こえた。まだ戦いは続いており、音がしたのは間違いなくオーズローという人物が泊まっていた宿屋。


「……ここを、お願いします」


 俺は騎士へ告げる。この場にやってきた数人の騎士は頷きながら、気絶する兄の体を拘束し始めた。

 それを確認し、俺は走り始める。距離はあるが、魔法による強化であれば疾風のごとく町を駆け抜けることができる。メイリスや騎士エイントの顔を頭に浮かべながら、俺は真夜中の町を、突き進んだ。


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