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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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力の代償

 深夜、監視者が屋敷から離れたタイミングで、俺達は昨夜と同様に移動を開始した。魔法を使っていればバレない様子だったため、昨夜とは異なり視界に入る位置で追い掛けることに。

 そして、トラブルもなく昨日と同様の空き家へと辿り着く……周囲には既に騎士が展開している。暗殺者の能力によって、俺は潜伏している騎士達の動向が手に取るようにわかった。


 そして、監視者に加えセオも気付いていない……と、ここで俺は一つ気付く。オーズローという人間ではないが、三人目がいる。


「――今日は主の代理でやってきた」


 そう語ったのは男性。声からすると老人のようだ。


「報酬の受け渡しについてだが、これは王都内ではできない。我らが本拠に来てもらう必要がある」

「その場所はまだ訊いていないな」

「ああ、これまで話す必要性もなかったからな……場所はエリュー山脈内にある。その姿を見れば驚くこと間違いなしだ」

「……メイリス、エリュー山脈のどこかに、組織の本拠があるらしい」


 俺が発言すると彼女は少し顔を硬くして、


「本拠……そこを攻撃すれば終わるのかな?」

「魔物の発生原因がセオと関わっている組織であるなら、終わるかもしれないな……と、騎士が動き始めた」


 セオ達がいる建物を徐々に取り囲むように騎士が動き始める。問題はいつ気付くか。そして、相手はどういう動きを見せるか。

 緊張の一瞬――その時、建物の中にいる三人の気配が変わる。俺の耳にはセオが息を飲む音がはっきりと聞こえた。


「――何かいるぞ」


 刹那、ズオッ――と、音を立てて建物の周りを囲む結界が形成された。騎士達が作成したもので、周囲に被害をもたらさないようにと、敵を逃がさないためのものだ。


「ふむ、こちらの動きを読まれていたか」


 ただ老人の声はどこか淡々としていた。


「どうやら尾行されていたようだな」

「申し訳ありません」


 監視者が謝罪する。すると初老の男性は、


「ならば相応の働きをしてみろ……セオドリック殿、ここは一度退散するとしよう」

「……わかった」


 逃げる判断を下した。そこでとうとう騎士達が結界内へ侵入し、建物の扉を破壊した。

 俺は一度メイリスへ目を向け、彼女が頷くと同時に――走り出す。


「――我が体に眠りし人の根源に宿る力よ。魔の敵を討ち果たすべく、解き放て!」


 次いで宣言と共に魔法剣を生み出す。凶悪な魔物を一撃で倒したものだが……今回の敵は何かしら力を持っている。加減はできないと判断してのことだった。

 騎士が雪崩れ込む中で俺はとうとう室内へ。空き家の中は仕切りが取り払われているのかぽっかりと広い空間が広がっていた。周囲の騎士が明かりで室内を照らす中、俺は兄の姿を発見した。


「セオ!」


 呼び掛けると同時、俺を見た兄は一瞬だけ驚いた様子だったが……すぐさま騎士達から距離を置こうと一歩下がる。

 そして横にいるのが老いた男性……白髪だが背は高く威圧感がある。貴族服を身にまとうその姿は上流階級の人物であることを想起させるが、実際のところはどうなのか。


「なるほど、弟か」


 男性が呟く。その間にも騎士達が剣を構え徐々に包囲を狭めていく。


「どういう因果かわからんが、こんな形で顔を合わせるとは、な……可能であれば行く末を見たいものだが、ここは退却するとしよう」

「――逃がすと思うか?」


 騎士の一人が告げる。


「建物周辺も既に包囲している。おとなしく捕まってくれれば手荒な真似はしない」

「そんな警告など無視してくるとそちらはわかっているだろう?」


 男性は懐から一本の短剣を取り出す。護身用と思しき物だが、騎士の剣と戦うにはあまりにも心許ないが――


「――ベック」


 そして男性は名を告げた。それはおそらく、俺を監視していた人物の名前。


「覚悟を決めろ。この場を始末できれば、お前の功績だ」

「御意」


 短く声を発した監視者――ベック。刹那、身じろぎと同時にギシリ、と音が聞こえた。

 例えるならそれは、木の幹同士を擦り合わせるような……すると突然監視者の体から、魔力が溢れた。


 しかもそれは目に見えるもので漆黒が彼の体を取り巻いた――騎士達が警戒をする中で漆黒が晴れると、そこには前進を黒く染めた監視者が立っていた。

 人の形をしていたが、手に巨大な爪と大きな足、加えて強固な鎧……人が獣の姿を象ったかのような姿。ただ感じられる魔力は、以前に交戦した獅子の魔物に似ている気がした。


 ――さすがに獅子の魔物が人間だったというわけではない。おそらくあの魔物の力を人間に付与すると、監視者のように姿を変えることができるのだ。


 途端、監視者は咆哮を上げた。次いで右手を掲げると床にたたきつける。

 その瞬間、魔力が室内を駆け巡った。次に何が起こるのかは予測がついた。ガガガガ、と家屋が破壊されていく音と共に、柱や壁が崩れ屋根が――


「回避!」


 騎士の誰かが叫んだ。俺やメイリスは落下物を見極めどうにか避け、騎士達も必死に……そして全員が家から出た。轟音と共に建物は崩れ、その瓦礫の上に監視者が立っていた。

 男性とセオは……既に空き家の敷地内を離れていた。


「追わないと……」


 俺はそう呟くが再び咆哮と共に監視者が立ちはだかる――その声は狼のそれ。よくよく見ればいつのまにか、その頭部は人ではなく狼に変じていた。

 騎士達は剣を構え臨戦態勢に入る……が、ここで時間を掛けていたら逃げられる。セオのについてはどうにでもなるかもしれないが、男性の方は――


「アルフ」


 メイリスが名を呼んだ。同時に彼女もまた剣を構える。


「あの人をすぐに倒して二人を追おう」

「……そうだな」


 それしかない、と思いながら俺も剣を構える。途端、監視者――いや、もうこの表現は適さない。人より変化した魔物が再び咆哮を上げる。夜空を切り裂くその声と共に、体躯を疾駆させた。

 動作は獅子の魔物と比べあまりにも早く、間合いの外だったにも関わらず一瞬で俺達に肉薄した――が、俺とメイリスは対応。接近と共に放たれた爪による攻撃を避けると、反撃に移る。


 立ち位置としては俺が右で彼女が左……図ったわけではないが、俺達は同時に左右から魔物へ仕掛け、同じタイミングで斬撃を放った。魔物はそれに応じるような動きを見せたが――こちらの攻撃が、圧倒的に早かった。

 次の瞬間には二つの刃が魔物の体躯へと叩き込まれた。魔物は再び咆哮を上げ、体を強ばらせながら反撃しようとするが、メイリスの聖剣が月夜に煌めき、再び剣戟が直撃する。


 刹那、体を構成していた漆黒の魔力が剥がれ落ちた。魔物が再び監視者へと戻ると同時に膝から崩れ落ちる。

 即座に騎士達が囲み、その体を拘束しようとする。一方で監視者は精も根も尽き果てたように動かなかったのだが……その時、


 ザアア――と、監視者の体が、風に撫でられて形が崩れ、塵へと変じる。


「っ……!?」


 俺は思わず呻いた。囲もうとしていた騎士達も絶句し立ち止まる。

 それは、間違いなく力による代償……魔物の力を身の内に取り込んだことにより、人を捨て魔物となってしまった人間の末路。


 その時、俺はセオがオーズローという男から受け取っていた何かを思い出す。もしこれが同様の物であるならば、その力を使ったら兄は――

 すぐに、追わなければ……! 決断した俺は意識を集中させる。暗殺者の記憶に得た能力によって、俺は逃げるセオと男性の居場所を捉えることに成功したのだった。


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