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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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核心的な情報

「力の受け渡しについてだが、具体的にどうやる?」


 兄の問い掛けと同時に相手――オーズローから物音がした。どうやら懐から何かを取りだし、兄へ見せているようだ。


「これに魔力が装填されている。君がこれに魔力を当てれば、魔力が身の内に入る」

「それで力を得られると」

「二日ほどすれば力は馴染み、完全に君のものとなる……ただでさえ優秀な君がさらに力を得るとなれば、もはや学園内で敵はいないと言えるだろう」

「いや、まだだ。学園には、俺の力を凌駕する存在がいる」

「ああ、聖剣使いか」


 メイリスのことだ、と思いながら俺は身じろぎ一つしないまま会話を聞き続ける。


「確かに脅威ではあるな……しかしこの道具に宿る力は、聖剣にも比肩しうるものだ」

「ならそれは受け取っておく。だが使用するタイミングはこちらの好きにさせてもらう」

「ここでは使用しないのか?」

「魔力が馴染む前に聖剣使いと鉢合わせして怪しまれる、なんてことがあったら面倒だからな」

「なるほど……思慮深く慎重だな。君が望むならば組織内に席を用意するが、どうだ?」

「考えておこう」


 そう返答した兄だが、声音からさして興味がないのだと俺はなんとなく理解する。断ったら面倒事になるかも、と考えた結果かもしれない。


「用件はこれで終わりか?」

「ああ、それでは私は戻るとしよう」

「……最後に一つ、確認しよう。あんたは俺が流した情報を基に何かやるみたいだが」

「その内容についてはいずれ語る。アスディア王国内に多少なりとも混乱が生まれるだろう。君はそれを利用し、望む地位を得ればいい」


 ――つまり、そう遠くない内にオーズローは騒動を起こす。全ての事情を知るセオは、騒動を利用できるということか。


「監視は続けるのだろう? 私は準備を進める。そうだな……三日以内には、連絡ができるだろう」

「わかった」


 セオが返事をした瞬間、靴音が聞こえた。オーズローがどうやら空き家から離れたらしい。


「では、私も戻る」


 次いで監視者も動く。俺達がいる方向とは逆なので、見つかることはないだろう。

 オーズローは家屋の外に出て、どこかへ向かっている……宿屋、とかだろうか? 追い掛けて調べる必要がありそうだ。


 そしてセオも……空き家から出てくる。こちらへ向かってきており、やがて道へと出て俺達に背を向けて歩き去る……気配を消している俺達のことは、まったく気付いていない様子だった。


「……アルフ?」


 その様子を見ながらメイリスが名を呼んだ。俺達の前に現れたのがセオであることは彼女もすぐ察しただろう。

 俺は去って行く兄の姿を目で追いながら……口を開く。


「メイリス、歩きながら説明する。もう少しだけ、付き合ってくれ――」






 やがて俺とメイリスは、オーズローと監視者が潜伏する場所を見つけ出した。そこは旅行者の貴族が泊まるような高級ホテル。そこまで確認した後、ようやく屋敷へと戻ってきた。

 室内に入り会議室を訪れると、クロード氏が待っていた。


「首尾はどうだ?」

「核心的な情報は得られたと思います」

「わかった……どうする? 話し合いは眠ってからでもいいが」

「……メイリス、どうしようか?」

「今、話だけはしておくべき」


 彼女がそう告げたため、俺達は席について説明を行う……その結果クロード氏は、


「ふむ、オーズロー……聞いたことがないな。犯罪組織の裏には、貴族階級の誰かがいると思っていたが」

「調べられるでしょうか?」


 俺は尋ねるとクロード氏はうなりつつ、


「名前だけでは厳しいかもしれないが、明日調べてみることにしよう。一方で二人についてだが――」

「明日も同じように学園へ……ですね」


 俺はクロード氏へ告げると、彼は頷いた。


「ああ、そうだ。監視者は明日も君達を見張る……何もなければ、彼らは同じ時間に同じ場所で話し合いをする……であれば、平静を装いつつ準備を進める。例えオーズローという人物が王宮に関する情報を集めることができるにしても、騎士エイントの助力を得られるため、気取られないよう動くことはできるはずだ」


 ――明日、カーヴェイル家はシャルレード家に俺を引き取る旨を通達する。返答はするにしても実際に行動するのはその翌日になるだろうから、何かが起こるとすれば明後日以降だ。

 つまり、まだ敵も油断している……オーズローという人物を捕まえることを含め、明日が正念場となるだろう。


「話し合いはここまでにしよう」


 そしてクロード氏は俺達へ告げる。


「準備はこちらで行う。二人は今日と同様に学園で日常を過ごしてくれればいい……ただ、明日の攻撃については――」

「もちろん、私達も参加する」


 メイリスが言う。これは当然だ。場合によっては討伐した獅子の魔物……俺とメイリスにしか打倒できない敵が出るかもしれないのだ。


「では明日、監視者が屋敷を離れた段階で二人へ現地へ赴いてくれ」


 そう述べたクロード氏は、苦笑と共にさらに語る。


「本来ならば騎士達だけで対処したいところだが……騎士エイントも同じ事を思うだろう。だが、二人に頼らなければならない……早急に、是正したいところだな」


 愚痴のようにクロード氏は語った後、仕切り直すように俺達へ続けた。


「さて、今日は休むとしよう。明日は今日と同様に日常を過ごす……もし何かあれば、すぐに連絡を頼む」


 ――俺とメイリスは会議室を出た。そして自室へと戻ろうとしている最中、彼女は口を開いた。


「あなたのお兄さんは……どうして、力に固執するんだろう?」

「俺にはまったく理解できない……政争を勝ち抜くために、なんて理由ではないはずだ。セオは理知的で、ちゃんと物事の分別はできる。裏組織と手を結び力を得ても、そんな人間と繋がりがある、と判明しただけで失墜する」

「お兄さんはリスクのあるような真似はしないだろう、ってこと?」

「そうだ。メリットとリスクが釣り合っていない……まあ、例えば国家転覆を狙い、自分自身が王様になるとか、そういう野望を持っていたなら話は別だけど、そんな非現実的な考えをセオが持っているとは……正直、思えない」


 ただ、と胸中で俺は付け加える。セオなりに何か公算があったとしたら……いや、そんなことを考えるような人じゃない。

 けど、俺がそう思い込んでいるだけで、何か野心を秘めていたのか……? 双子ではあるけれど、俺と兄の境遇は違いすぎた。環境の違いにより、どういう考えを抱いていてもおかしくはないのか?


 でも……どれだけ思考しても、兄がこんなことをやる理由が思いつかない……思考する間に自分の部屋に辿り着き、眠ることに。


「明日、だ」


 いつものように過ごし、夜――全てが決まる。いや、オーズローという人物まで捕まえなければ意味はないのか。

 けれど、兄の凶行を止めることはできるだろう。騎士が押し寄せてきたら、兄はどうするのか……色々と想像をする間に俺は眠りにつくこととなった。


 意識が途切れる寸前、兄の――子供の頃の顔が浮かんだ。出来の悪い弟の面倒を見る兄の姿。周りに弟思いであると見せるためのものであったとしても、俺にとって兄は憧れであり誇りであった。

 胸中で幾度となく何故、という言葉が浮かびながら意識を手放した。最後に思ったことは明日、全てに決着がつくようにという、祈りだった――


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