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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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求めるもの

 兄や父、どちらかが俺に魔物をけしかけて始末しようとした……字面だけを見ると家族を殺そうとしているのだから悪逆非道であり、俺は恨みを抱いてもおかしくない。けれど、


「……そういうものだと、俺は思っていたんだ」


 歩きながら俺はメイリスへと語り出す。


「俺は兄の出がらしで、父は教育資源全てをセオへと注いだ……俺には必要最低限、それこそ社交界で粗相をしない程度のもので、扱いだって相応だった」

「……どうして、そんなことに?」

「元々、俺は抱えている魔力が少なかった。生まれた時点から兄は完璧で、だからこそ次期当主は決まっていた……そして父は合理主義の塊みたいな人だ。役に立たない俺に教育を施すのであれば、その分兄に色々教えた方がいいと考えたんだろう」


 ――だからといって、双子の弟を無碍にするというのは傍から見れば奇妙に思ったかもしれない。だが、俺はなんとなくわかる……同じカーヴェイル家の人間だから。


「父は政治の最前線で戦っている。あの場所は魔物がひしめく戦場と大差ない場所で、欲望と権力が渦巻いている場所だろ?」

「そう、だね……私も足を踏み入れたことはないけど、恐ろしい場所なのはわかる」

「そんな場所で生き残るためには、生半可な教育では届かないと父はわかっていた……だからこそ、次期当主として才覚のあるセオに全てを注いだ。今後もアスディア王国で地位を盤石にするために……そういう意図なんだと思う」

「でも、だからといってアルフを……」

「そこは誰が仕組んだのかはわからない……ただ今日セオと模擬戦闘をやった時、明らかに俺へ向け憎悪の視線を向けていた……であれば、兄の仕業かも」

「それじゃあどうしてお兄さんが?」

「そこはわからない」


 俺は首を左右に振る……対するメイリスは沈黙した。


「本当に、わからない……俺を始末するだけの理由は何があるのか。俺が自覚していないだけで実際はあったのか……もし今回の騒動が兄の仕業なら、そこだって解明しないといけないのかもしれない」


 そこまで発言した時、監視者の動きが止まった。俺はメイリスへその旨を告げた後、監視者がいる場所へと近づいていく。

 少しして辿り着いたのは、空き家のある敷地だった。月明かりの下でもわかる、手入れのされていない草木、錆びた鉄柵。


「……家に近づくのは、まずいかな」


 メイリスは敷地内を見据え、呟く。


「空き家の敷地は土の地面だから、足跡が残るし……アルフ、気配はどう?」

「監視者ともう一人……いや、二人いる。気配だけでどういった人物かは特定できないけど……いや、待て」


 俺はそこで暗殺者の技能について記憶から引き出す。彼は気配を消す以外にも様々な諜報活動を行うため技能を保有していた。


「……俺が手にした暗殺者の記憶。それを用いれば会話を聞けるかもしれない」

「え、本当?」

「ああ。でも意識を集中させないといけない……周囲に気を配る余裕はないから、周りの警戒は頼んでいいか?」

「任せて」


 その言葉に俺は頷き――神経を研ぎ澄ませる。暗殺者が持っていた技能、それを記憶から呼び起こし、意識を建物へと向ける。その直後、


「――報告は、以上だ」


 明確に声が聞こえた。間違いなく会話をしていて、どうやら監視者が報告を行った。


「深夜も監視は続けるか? それとも、一度引き上げるか?」


 監視者がさらに続ける。相手は一体誰なのか――目を閉じ、声を聞き逃さないよう構えたその時、


「――ひとまず引き上げ、明日からも監視を続けてもらおう」


 心臓が大きく跳ねた。その声は……紛れもなく、兄のセオだった。


「学園内で監視していたのだろう? 明日もその形で頼む。また、報告も今日と同じこの場所で」

「……学園内で何かしら行動を起こすとは思えないが」

「現在シャルレード家の庇護下に置かれている以上、王都から離れるということはないだろう。しかし念のためだ。何か変な動きがあればすぐに報告するように」


 ……どうやら、俺の居所を常に把握するために監視者を用いているらしい。やはり、狙いは俺。兄の声によって高鳴っていた鼓動は少しずつ収まり、俺はなおも会話を聞き続ける。


「いいだろう……実際に事を起こすのはいつだ?」

「明日には、父上から正式にアルフを引き取る旨を通達する。おそらくアルフ自身は抵抗するだろうが、シャルレード家が断る理由はないだろう」


 ……つまり、俺を屋敷へ戻して別の形で始末をつけるということか。

 俺がシャルレード家にいることで、カーヴェイル家側はそれを口実に接近することはできる。しかしそうではなく、あくまで俺の始末を優先している……模擬戦闘で見せていた憎悪の視線。それを踏まえれば、魔物襲撃から始まった一連の出来事の主犯はセオなのか。


 なら、俺やメイリス達がとるべき講堂は……頭の中で策が浮かび上がる中、今度は靴音が聞こえてきた。それはどうやらセオにとっても想定外だったようで、はっと息を飲む様子がわかった。


「言い忘れていたが」


 そして監視者が告げる。


「今日は我らが主を連れてきた……あんたに興味があると言っていたからな」

「物陰から様子を見ていたよ。隠れていてすまなかった」


 その声は、年齢を重ねた男性のもの……俺はなんとなく、パリッとした貴族服を身にまとう精悍な顔つきの男性を思い浮かべた。


「初めまして、セオドリック=カーヴェイル君。私はジェイム=オーズロー。ああ、とはいえ覚えなくても構わない」


 オーズロー……聞いたことのない名前だ。少なくとも、俺の知識範囲で貴族にそういった姓を持つ家は存在しない。

 ただ、裏組織を束ねるということはそれなりに資金などを保有しているはずだが……あるいは、国外の人間だろうか? そういうことなら、一応説明はつく。


 兄は何かしらの形で裏組織の人間と顔を合わせ、利用したということか……? 様々な疑問が膨れ上がる中、空き家の会話はさらに進んでいく。


「今まで姿を現さなかったのは、君が信頼に足る人物かどうかを判断するためだ。組織に取り入り、潰そうとする輩もいるからね」

「試験には合格だったのか?」


 ……裏組織の長を前にしても、兄の声は変わらず臆することなどない様子。そんな態度にジェイムは、


「ああ、君を歓迎しよう……といっても構成員はさほど多くないし、歓迎パーティーを開くような準備もしていないが」

「必要はない……それで――」

「ああ、君が求めるものについてだな」


 求めるもの――それこそ兄が、裏組織と手を組むことにした、理由。


「残念ながら今すぐ、完璧な形で手渡すことはできない。こちらもそれなりに準備がいる」

「わかっている」

「しかし、君は色々と組織のために貢献してくれた……私が欲していた情報は全て持ってきた。ならばまず、即席ではあるが一つ力を与えよう。ひとまずそれが報酬だ」

「俺が本当に求めるもの、それはまだ先か?」

「ああ、先だ……しかしいずれ手に入ると考えていい」


 ――聞き耳を立てているだけなのでオーズローの顔はわからない。けれど一つ確信できることがあった。

 確実に彼は笑っている……兄を利用してどんなものかわからないが情報を手にし、何かをやろうとしている。それはきっと、ロクなことではない。


 そして兄は……胸中で考える間に、兄はさらに話を続けた。


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