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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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暗殺者の能力

 はっとなり、先ほどまで読んでいた本の文面が目に入った。俺はそれを閉じて左手を見る。指輪の熱は収まり始めていたが……、


「どういうことだ?」


 先ほどの記憶――突然また一つ封じられた記憶を見たわけだが、今回は別に危機的状況などではない。

 狩人の記憶を得た時は、死の淵に立っていたわけではないにしろ、あの状況下で俺が求めていた能力を得ることができた……しかし今の記憶は? 一体どういう能力を――


「あ……」


 内心で考えていた時、俺は気付いた。新たな記憶は暗殺者――とはいえ人を殺めるのではなく、人に化けていた魔物というか魔族を滅ぼしていた人物らしい。

 そしてそんな人物の能力は――図書館内で明瞭に人の気配を感じ取ることができた。狩人の記憶で得た能力に近いが、それとは少し違う。気配や足取り、さらに言えば視線なども明瞭にわかるレベルだ。


 単純に動物などの気配を探るのとは異なり、人やそれに近しい存在の気配を感じ取り、動きを把握する能力……確かに暗殺者には必要なのかもしれない。


「魔族専門の特殊部隊……その生き残り。魔族に対抗するための存在であり、訓練を受けた結果の能力、ということか?」


 そういった人物の記憶を指輪が宿した理由は何か……疑問に思っていると、


「……アルフ?」


 メイリスの声。見れば、眠たそうに目を細くしている彼女の姿があった。というより、俺と一緒で眠ってしまったのかもしれない。


「どうしたの?」

「……メイリス、実は――」


 言いかけて、俺はあることに気付く。そして、


「――指輪が熱くなって、新たな力を得た。」

「今?」


 聞き返したメイリスに俺は簡単に説明。すると、


「暗殺者か……でも、こんな場所で突然どうして?」

「そこだよ。俺も首を傾げるばかりだったけど、理由はわかった……指輪は例えば、持ち主の危機を察知して力を与える効果があるのかもしれない」


 そう前置きをした後、


「――俺とメイリスが背を向けている方角。そこに、俺達を監視している人間がいる」


 小声で告げると、メイリスは覚醒したのか目を大きく見開いた。


「暗殺者の能力を得たからこそ、気づけたレベルだ。距離も開いているし、単純に死角だったのもあってわからなかったけど」

「……確認だけど、どういう人?」

「気配からすると、普通の人間……だけど、極限まで気配を消している。魔法を使えば一発でバレるから、相手は魔法などの小細工なしで気配を殺し監視している」

「……単なる学生ではあり得ないね」

「そうだな。十中八九刺客の類いだ」


 どうやって学園内に、という疑問はあるけど……学校で仕掛けてきたのは間違いない。


「ただ、学園内で俺達をどうこうする、というつもりはないだろう。あくまで密かに監視をするだけ」

「……ねえ」


 メイリスが声を上げる。その表情から、何か仕掛けてやろうという雰囲気を見せている。


「もし私達が路地裏にでも行けば、干渉してくるかな?」

「……さすがに、相手から動き出す可能性は低いと思う」

「引っかけるのは無理だと」

「むしろその動きを観察し、アジトを見つけるとかの方がよさそうだけど」

「あ、それよさそう」


 ……やる気なのか。ただ、それこそ早期解決の糸口になるような気がした。


「とはいえ、だ。俺がどれだけの範囲気配を探知できるかが問題だな……どうするか」

「まずは学園を抜け出して反応を待ってみる?」

「……それがよさそうだな」


 相手の出方次第で動き方を変えてみる――それがベストか。


「ひとまず、資料探しを続けるか? 少なくともこちらを監視しているだけで、干渉してくる様子はないし」

「見られているとわかった上で集中できる?」

「まあ、なんとか」

「突然資料を片付け始めたらそれはそれで怪しまれそうだし……作業、続行しようか」

「今度は寝ないようにしないと」

「一度寝たから大丈夫でしょ」

「メイリスも眠ったんだな」


 俺の言葉に彼女は「あはは」と小さく笑いつつ、作業を再開したのだった。






 結局、作業そのものの成果はほとんどなく、俺とメイリスは帰ることにした。学園を出て並んで歩きつつ、


「調べるにしても時間が掛かりそうだな……」

「みたいだね」


 同調するメイリスは空を見上げつつ、


「王子はわかるかもしれないけど、騎士とか狩人とか暗殺者は調べても出てこないんじゃないかな?」

「さすがにヒントが少なすぎるからな。騎士や暗殺者は一応調べるとっかかりはあるけど、狩人は無理か」

「指輪を作成した人はどういう経緯で知ったんだろうね?」

「そこもわからない……あと、指輪に秘められた記憶は歴史の闇に葬られてしまったものを宿している気がする」


 俺はそう口にして、おおよそ正解だろうと思った。共通しているのは悲劇……騎士も狩人も王子も、今日記憶を得た暗殺者も、何かが犠牲となり、その原因を打倒しようと動いていた。

 語られることのない歴史……それらを封じ、残したのが俺が手にした指輪なのかもしれないが、結局制作した意図も、方法もわからない。


「まあ、解明するには相当大変そうだけど……」

「間違いないね……ところで」


 と、メイリスは声のトーンを落とす。


「監視の方はどう?」

「……一定の距離を維持しながらついてきているな。この調子だと、屋敷まで来そうだ」

「ならそのまま監視させて屋敷まで来させよう」

「敷地に入ってきたらどうする? いや、さすがにないか」

「気配を消すことに自信があるのなら、わからないね」


 ……やがて俺達は屋敷へと戻ってくる。今日一日、色んなことが起きた。正直、ずいぶんと長い一日だと感じている。

 屋敷に入ると侍女が出迎え食事はクロード氏が帰宅してからだと言い渡される。けれど俺とメイリスは一度食堂へと赴き、


「アルフ、どう?」

「……俺達が屋敷へ入ってから足を止めている。場所は屋敷から少し離れているな。このまま夜通し監視する気かな?」

「動向を観察するつもりかな? 相手が動くまで待つしかないかな」

「クロードさんは大丈夫かな?」

「父上には護衛もついているし心配はないと思う。さすがに町中で襲ってくることはないでしょ」

「ここから……どうする?」


 俺の問い掛けにメイリスは一考し、


「父上とも相談しないといけないかな……ただ騒動を早期に解決するには、利用しない手はない」

「俺達を監視している人間が屋敷から離れた時に尾行するとか?」

「うん。でも見つかったらそれで終わり。相手も警戒して動かなくなっちゃうかも」


 失敗は許されない、ということだ。


「ならクロードさんと相談し、騎士を派遣してもらうことになるか? 監視をしている人間がアジトとかに向かうのであれば、敵がわんさかいるかもしれないし」

「問題はそこ」


 と、俺に指を差しながらメイリスは語る。


「相手は距離があったとはいえ、私達でも気付かなかったほど気配を隠すことができる。なら、私達の動向を察知するのだって長けていると思う」

「騎士とかが近づいていることを知ったら、すぐに逃げてしまうと?」

「あるいは、騎士を呼びに行くだけで警戒して逃げるかもしれない。もし行動に移すとしたら私とアルフだけになるかも」

「戦闘の危険性があることを考慮すると、危険だと思うんだが……」


 俺達は凶悪な魔物を倒せるだけの力はある。けど、純粋な戦闘能力と今回の件は切り分けて考えた方がいい。

 敵がいれば当然集団戦になってしまう。力押しでどうにかなればいいが、さすがにそう簡単にはいかないだろう。俺達を見て敵が逃げるのであればまだマシで、反撃を受けてしまったら――


「ただその前に、敵に見つからないよう尾行できるかが問題だけど」


 考える間にメイリスは語る。それに対し俺は――新たに手にした暗殺者の記憶を探りつつ、口を開いた。


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