表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/50

模擬戦闘

 食堂でメイリスと食事をしたことで、俺達の存在は学園中に知れ渡ったと考えていいだろう。セオは今、どんな風に思っているのか……ただまあ、ショックを受けているかどうかと言われると微妙なところだ。


 カーヴェイル家とシャルレード家はそもそも交流がほとんどなかった。権力をより強固にするためにメイリス達へ近づこうとしていたのなら、俺が出現したことで退くという可能性もある。そもそも固執する理由がない。逆に今の状況を利用するにしても、俺のカーヴェイル家における立場を考えると微妙だ。

 それに俺がメイリスと共にいる以上、セオや父は俺が個人的な事情を語っているかもしれないと考えるはず。であればなおさらシャルレード家には近づこうとしないはずだ。


 けれど、もし……それでもなおセオが俺に干渉してくるのであれば、シャルレード家とのことは諦められない固執する理由があるのか、他に思惑があるのか……父、セオどちらが近づこうとしたかわからないが、ただ縁を繋ぎ権力を強固にする――それだけが理由ではないかもしれない。


 その目的とあの魔物の存在に因果関係があるのだろうか……もしあったのなら、カーヴェイル家がメイリス達へ近づくことで良い未来になるとはあまり思えない。ならば俺のやることは、ここでカーヴェイル家の人間をメイリスに近寄らせないこと。なんだか兄達と敵対しているような構図になってしまうが……それも仕方がないか。


 俺とメイリスは昼食後、衣服を着替えて訓練場を訪れる。ここは俺が自主練にも使っていた場所なのでひどく馴染みがある……そして授業には多数の生徒と、その中にセオの姿もあった。

 俺はメイリスと共にここへ来たため、やはり注目の的になったが……授業が始まり教官の説明が始まると全員の顔はそちらへ集中。淡々と授業が進んでいく。


 そして俺は……これまでこうした実戦を含んだ授業というのは、聞き漏らさないよう意識を集中させるくらいだった。どれだけ剣を振っても強くなれなかったが、知識によって少しでも腕が上がれば……という心境だった。

 現在はどうか。話そのものをちゃんと理解し、なおかつどう体を動かしどう剣を振ればいいのか全てが理解できる……ただ授業を聞くだけではない。その意味すら完璧に把握できる。知識の吸収具合という観点から見ても、指輪を手に入れる前とは雲泥の差だ。


 授業の理解度によっても差がつくんだなと改めて自分に才覚がなかったことを理解しつつ、やがて説明そのものは終わり学生達が剣を振る段階になる。


「よし、アルフ」


 と、メイリスは言う。訓練はただ剣を振るよりペアを組んだ方がいいのだが、メイリスは俺を相方にするらしい。

 さらに目立つなあ、と思いつつ訓練場にある剣を手に取る。訓練用に刃が潰された物で、訓練服は丈夫だし斬られる心配はないのだが、金属の塊で重量はあるので当たり所が悪ければ大怪我をするため注意は必要だ。


 俺とメイリスが向かい合い剣を抜くと同時、周囲からざわつきが生まれた。作戦とはいえ視線が気になる……指輪を得る前ならばこの視線だって気にもならなかった。むしろ目を向けられていることさえ気付かなかったかもしれない。

 だが、今の俺は違う。訓練場内にいる気配を明確に感じ取り、視線さえ明瞭にわかってしまう。力を持つことによってこういう弊害も出るんだなあ、と思っているとメイリスが踏み込んできた。


 放たれる剣を、俺は自分の剣で防ぐ。あくまでこの動きは教官が説明したものである。よって以前、剣を打ち合ったような全力とは程遠いのだが……学生達にとっては俺が互角に打ち合っているように見えたらしい。中には感嘆の声を漏らす者さえいた。


 さて、こんな光景を見せられてはさすがにセオも何かしら反応するだろう……この場で動くかどうかはわからないにしても、聖剣使いと訓練しているのだ。

 結果、俺を射抜く視線を明瞭に感じ取った。そちらに俺が首を向けることはしないが、間違いなくセオであると断定できる。


 少ししてメイリスと剣の打ち合いを終了すると、教官は俺達の所にやってきて、こちらに目を向けてきた。


「見事な剣さばきだな。君は、いつの間に上達した?」

「ああ、えっと……今まで色々やってきた結果かな、と」

「そうか。筋は非常に良いし、このまま続けた方がいいな」

「……ありがとうございます」


 礼を述べた時、教官は周囲にいる生徒に呼び掛けた。


「それでは、模擬戦闘を行うとしよう」


 一対一、実戦という想定でやる訓練だ。誰かが挙手すればそれでいいし、誰もいなければ教官が誰かを指定する――セオが授業内で干渉してくるならおそらくここだ。

 そう思いつつ教官が「誰かやるものはいるか」と声を掛けると、いち早く進み出た人物がいた――セオだ。


「私が」

「相手は誰にする?」

「――アルフ」


 ザワッとなった。とはいえ誰も驚いたりはしていない。むしろこの流れは当然だろう、という雰囲気さえある。

 教官は俺を呼び、とうとう兄と対峙する……模擬戦闘とはいえあくまで訓練だ。まさかここで事故に見せかけて何かをしようとか考えているわけではないと思うのだが――


「……質問を一つ、いいか?」


 俺はセオに向け問い掛けたが反応はない。まるで鏡写しの自分と対面しているような感覚に陥りつつ、俺は一方的に問い掛ける。


「何で俺を相手に?」


 だが、その質問にセオは答えなかった。あくまで授業の一環であり、弟だから誘ったという体だ。それが理由でないことは明白だったが……どうやら兄は何も話さないつもりのようだ。

 セオが剣を抜き、俺は剣を構える――もしかすると今後、何かしらの形で兄と戦う状況に陥るかもしれない。そういう状況は避けたいところだが……可能性に備え、ここでセオの実力を推し量っておく。それは非常に重要だろう。


 よって俺は受けの体勢を見せる。果たして……セオが動く。一歩で間合いを詰め、訓練用の剣が俺の体へと迫った。

 その動きはキレがあり、間違いなくこの学園内において随一のものだろうと確信できた。兄の体に備わっているのは、ここまで積み重ねてきた鍛錬の証。騎士から英才教育を受け続けてきたセオの技は、間違いなく現役の騎士にも通用するだろう。


 王道にして完璧な剣術、それがセオの持つ力――それに対し俺は、放たれた剣を受け、いなした。こちらの対応は完璧であったようで、兄はほんの少し驚いた様子。

 俺は記憶から騎士の記憶を引き継いだことで、動きを完璧に見極めることができていた。言わば、兄を上回る王道……それにより、対応できている。


 兄の剣が幾度となく俺へと差し込まれる。だがその全てを俺は叩き落とす……そこでセオはとうとうまさか、という顔をした。なぜ弟のアルフが自分の剣を受けられる。何がどうなっているのか――そんな困惑が表情から見て取れた。


 双子の弟だからこそわかる感覚。幼い頃、一緒にいたからこそ、セオの感情を読むことができる。

 一方で兄は俺の考えをどこまで読み取れているのかはわからないけれど……ここで俺は兄の剣を弾くのではなく受けた。刃越しに兄と目が合う。


「……アルフ」


 名を呼んだ。それと共に兄の目は――業火をまとうような、強い感情がしかと刻まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ