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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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特別な存在

 クロード氏から作戦を言い渡され、翌日……俺は用意された制服に着替え、魔法学園へ行くこととなった。支度を済ませて外に出ると、メイリスが待っていた。


「よし、それじゃあ出発」


 彼女が先導する形で登校することに……なんというか、まさかこんな状況になるとは過去の俺なら想像すらできなかったな。

 前を歩くメイリスはの制服姿は、騎士として戦場に立っていた時とは一変し、可憐さが前面に押し出ていた。彼女が自ら出している雰囲気というわけではなく、自然体で活動している上だけでそうなっているのだから、ただただすごいと思うしかない。


「……そういえば」


 屋敷が見えなくなった頃合いで、彼女は俺の横に移動しつつ口を開く。


「朝からの授業は何?」

「なんだっけ……えっと、確か強化魔法関連の基礎講座だったような……」

「あ、私と同じだ」

「……出ているところ見たことないんだけど」

「いやー、騎士として活動するようになって授業とかあまり出られなくなっちゃったんだよね」

「それで卒業できるのか?」

「騎士としての活動が課外活動扱いされているからね。さすがに聖剣所持者が留年して学園卒業できませんでした、では格好つかないからじゃない?」


 そこはさすがに例外的な処置ってわけか……。


「出席率とか考慮しなければ卒業できる自信あるけど」

「勉強にも自信があると」

「そうだね」


 あっさりと答えてみせた彼女に嫌みさはない――聖剣所持者だからこそ、そのくらいはできなければ、という意思みたいなものを感じる。


「一緒の授業……は、いいんだがこれまでの授業に関する資料とかはないぞ。全部家にあるからな」

「まあまあ、そこはなんとかするよ」

「なんとか……?」


 首を傾げた俺だが、その理由は学園に入ってからすぐ判明した。彼女は授業のある講堂ではなく、職員室を訪れた。


「すみません、これから受ける授業についてですが、資料の提供とかしてもらえませんか? 色々あって授業受けられていないんですが」


 ――聖剣所持者ということもあって、職員も無碍には扱えなかったらしい。対応した教員は「今回だけですよ」と前置きして、該当する授業の資料をくれた。


「よし、これで準備できた」

「特例を存分に利用しているな……」

「騎士団に所属して国の平和に貢献しているわけだし、このくらいはね」


 そんなものか……なんというか、彼女は自身が特別な存在であるという自覚を持ち、ならばそれを使おうというスタンスのようだ。

 特別な力を持っているからこそ、葛藤とかあってこういう風に考えるようになったのかなあ……などと野暮なことを考えつつ、俺はあることに気付く。


「って、俺はどうするか」

「一緒に見ればいいじゃない」


 あっさりと彼女は言う……ああうん、確かにそうなんだが、一人で授業を受け続けた俺にその発想はなかった。


「えっと、隣同士で座って、だよな?」

「他に方法ある?」


 さも当然みたいな感じだが……いや、カーヴェイル家の反応を見るわけだから、一緒にいる光景を作るのは正しいのか。

 学園内で一騒動起きそうだな……これがセオとメイリスなら美男美女のコンビとして羨望の的になっていたかもしれないが、相手は弟の俺である。顔だけ見るなら似てはいるけど、発する空気みたいなものが根本的に違うし――


「ほら、行こう」


 講堂へ向かうメイリス。俺はそれに黙ったままついていき……やがて辿り着き、適当な席へ座る。

 彼女が友人などを引き連れて入ったわけじゃないので大して目立たず、声を掛けられるような状況にはなっていないが……横にいるのが俺だと気付くだろうか。


 周囲に目を向けながらさあどうなるのかと思っていると、ふいにメイリスが尋ねてきた。


「アルフの持っている記憶についてだけど」

「……あ、ああ」


 悲劇の英雄にまつわるものだったため、俺も意識が彼女へ向く。


「技術的な部分は体に染みついているみたいだけど、知識面はどうなの?」

「……それを確認するためにもらった資料、見せてもらえないか」


 彼女はあっさりと差し出す。俺は資料を見たことで講義内容を思い出しつつ、


「宿った記憶は三つ。騎士、狩人、王子……基本は剣や弓を使う人間であるため、魔法の教養があるというよりはより実戦的な能力を持っていると考えるべきだが」

「でも三人目の王子は魔法剣を使っていた。それには当然、魔法に関する知識が必要じゃない?」


 問われながら俺は講義資料に目を通す……それで、あることがわかった。


「以前授業を受けた時と比べ、おおよそ理解できる……この講義内容はあの魔法理論に紐付けされているとか、この項目はかなり基礎的な部分であるとか、そういうのが」

「王子様が戦っていた時代はきっとずっと前だけど、魔法の理論的な面は私達とそう代わらないってことかな?」

「みたいだな……それと、新しい理論についても飲み込める」


 記憶を得たことで剣や弓、魔法について巧みに扱えるようになった……が、それはどうやら知識も同じらしい。


「俺の知識や肉体に指輪に秘められた記憶が結びついた、ってことなのかな」

「それが指輪の力ってことでよさそうだね」

「みたいだな」

「だとしたら、授業を受ける必要はなさそう?」


 問い掛けに俺は資料を読み進める……記載されている内容は理解できるし、されていない内容も指輪の力によって把握できる。


「どうなんだろうな……記憶の外にある知識については当然ながら勉強しないといけないし、この講義資料は今までの授業に関するものだろ? なら今日の内容は記憶で得た範囲外のものかもしれない」

「そんなものかな」

「ただ、実戦に基づいた知識であることを踏まえると、例えばより強くなるために、という観点だと授業を受けるのは微妙かもしれない」


 俺は資料をメイリスへ返す。


「俺の方は資料なくても授業理解できるし、そっちで使ってもらえればいい」

「う、なんだか羨ましい……ちなみに記憶って、三つだけ?」

「わからない。指輪を作成した人物が多数の記憶を宿しているのなら、今後も増える可能性はある……けど、俺が記憶を得たのは危機的状況とか、必要に迫られた時とかだ。普通に過ごしていて新たに記憶を、というのは難しいだろうな」

「きっかけがいるんだ?」

「たぶんだけど」


 その辺り、解明するには研究者に解析してもらうべきだろうか?


「学園内に道具について詳しい教授とかいたっけ」

「ああ、そういう人に調べてもらうのもありかもしれないね」


 ――そんな会話をしていると、やがて教師が入ってきた。講堂内はいつのまにか多数の人が着席しており、やがて話し声も少なくなる。

 俺も意識を授業に向けることにする……俺にとって価値のあるものかわからないが、吸収できるならしておいた方がいい。


 そして……俺はメイリスとの会話に集中していたため、気付くことはなかった。二人揃って講堂に入り、隣同士で着席し、話している姿に周囲の人は……そういえば、とふいに俺は思い出す。この授業は兄のセオも出席していたはず。

 俺達のいる場所からその姿は見れなかったが……兄の姿を思い浮かべつつ、俺は授業に意識を傾けたのだった。


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